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 ジカウイルスは、感染してもほとんどの人が無症状で、症状が出たとしても約1週間以内でおさまり、死者も報告されていなかったため、かつてはそれほど危険なウイルスではないのではないかと思われていました。しかし、ブラジルでの小頭症の急増とジカウイルスの関連が疑われることにより、ジカウイルス感染への認識は変わりました。

 小頭症とは文字通り、頭が小さいことで、医学的な定義としては、頭囲が同年齢・同性の子の平均よりも2標準偏以上小さい場合(全体の約2.3%未満)とされています[1]。ただ頭が小さいということだけではなく、 多くの場合 脳の発達異常があるため、知的障害やてんかんなどがみられることがあります。

 ブラジル東北部での異常な小頭症の増加に気づき、警鐘を鳴らした のは、ペルナンブーコ州で働く神経小児科医のバネッサ・バン・デル・リンデン医師と彼女の母親アナ・バン・デル・リンデン医師たちだといわれています[2]。 2015年8月 、バネッサ・バン・デル・リンデン氏は、 頭の画像検査で、今までに見たことがないような脳の石灰化(カルシウムの沈着)がある小頭症の子供を診療しました。小頭症の子供を産んだ女性は、妊娠の初期に、皮疹があったことを伝えました。

●「4000件以上」の報告

 それから数週間、彼女は多くの小頭症の子供を診察するようになります。別の病院で働く彼女の母親がある日電話をかけてきて、一日に7人の小頭症の子供を診たこと、 母親の何人かは、妊娠初期に皮疹があったことを伝えました。

 10月、彼女は州保健局に、小頭症の異常な増加がある可能性を通報し、ブラジル保健省が出生情報を詳しく調べたところ、東北部で確かに小頭症が増加していることが確認されたのです。

 これ以降、保健省は、医療者に、より積極的に小頭症が疑われる子供について報告するように通達します。その結果、10月から2016年の1月にかけて、4000件以上の小頭症疑いの子供が産まれていることが報告されたのです。ブラジルで毎年報告されている小頭症は140~200件程度ですので、平年よりもはるかに多い数でした。また、ブラジル以前に集団感染が起こったポリネシアでも、通常よりも多い17件の胎児・新生児での中枢神経系の先天異常が確認されました[3]。

 ジカウイルスが流行している地域で、小頭症が増加しているらしいということが分かりましたが、これだけではまだジカウイルスが小頭症を引き起こすとはいえません。ブラジルの医師は、胎児が小頭症と診断された妊婦に、羊水穿刺(せんし)を行いました。すると、羊水からジカウイルスが検出されたのです[4,5]。また、生まれてから5分以内で亡くなってしまった別の小頭症の子を検査したところ、脳からジカウイルスが検出されました。CDCでも、流産してしまった胎児二人と、小頭症で生まれてすぐ亡くなってしまった二人の子供を調べたところ、4人からジカウイルスが検出されました。妊娠していた女性4人とも、妊娠中に発疹を伴う発熱性疾患にかかったといわれています。

 確かにこれらの情報は、ジカウイルスが小頭症と関連している可能性を示していますが、確固たる因果関係を証明しているとはいえません。小頭症の原因は、その他の感染症( サイトメガロウイルス、風疹、トキソプラズマなど)、遺伝的疾患、アルコール、栄養不足など、多岐にわたります。ジカウイルスが、小頭症を引き起こすことを証明するには、同じ時期に、その他の要因 がなかったことを確かめなければならないのです。

●「正常だが小さめ」の可能性

 また実は、ブラジルではそれほど小頭症は増えていない可能性も分かってきています。ブラジルでは2015年10月から、医療従事者に対し、頭囲が33センチメートル以下の新生児を小頭症疑いとして報告するよう通達がなされましたが、これだと「異常ではないが頭が少し小さめで生まれてきた子供」も多く含まれてしまうため、12月には頭囲32センチメートル以下の子供を小頭症疑いとして報告するよう変更しました。それでも、どうしても正常の新生児も含まれてしまいます。

 10月以降、4180人の小頭症疑いの子供が報告されましたが、ブラジル政府は詳しく調べた732人のうち、462人は小頭症ではなかったと1月27日に伝えています[6]。よって、今後の調査によって、小頭症で生まれてきた新生児の数は4000人よりも少ないことが明らかになるでしょう。ジカウイルスが小頭症と本当に関係しているのかを検証するためには、動物実験や、症例対照研究とよばれる調査などの疫学的研究が必要になります[7]。

 現在の時点では、ジカウイルスと小頭症の因果関係は確定的ではありません。よってWHOは、「A causal relationship between Zika virus infection and birth defects and neurological syndromes has not been established, but is strongly suspected(ジカウイルス感染と先天性異常・神経症候群の因果関係は確立されてはいないが、強く疑われる)」という表現にとどめています。また、CDCも「Possible association between Zika virus infection and microcephay(ジカウイルス感染と小頭症との関連の可能性)」との表現をしています。ジカウイルスが小頭症を引き起こす可能性がある以上、現在では「Guilty until proven otherwise (無罪が証明されるまでは有罪)」というアプローチで対処する必要があり、CDCは妊婦のジカウイルスが流行している地域への渡航は延期するように推奨しています[4]。日本の外務省も「詳細な調査結果が得られるまでは、特に妊娠中の方または妊娠を予定している方は、流行国、地域への渡航・滞在を可能な限り控えるよう、十分注意してください」と発表しています。冒頭で触れましたが、エルサルバドル政府は、2018年まで妊娠をできるだけ控えるように推奨し、 他にもコロンビア、エクアドル、ジャマイカでも妊娠を遅らせることを推奨し、大きな議論となっています。

 CDCは、すでにジカウイルス感染が疑われる妊婦の暫定的な診療ガイドラインを作成し、公開しています[8] 。ジカウイルス流行地域への滞在中もしくは帰国してから2週間以内に、発熱、皮疹、関節痛、もしくは結膜炎のうち二つ以上の症状があった妊婦、また、症状がないけれども小頭症が超音波で診断された妊婦に対しては、ジカウイルスのRT-PCR検査と抗体検査を行うことが今のところ推奨されています。しかし、ジカウイルスに感染しても症状が出ない人も多くいることや、ジカウイルスが検出されたとしても治療法がないことから、誰にジカウイルスの検査を行い、どのように診療していくべきなのか、今後さらに検討されていくことになるでしょう。

 なお、ジカウイルスはギ ラン・バレー症候群 を起こす可能性も指摘されています。ギラン・バレー症候群とは、主に運動神経が障害される病気です。多くは軽快しますが、中には 重症化したり、長期的な筋力低下を起こしたりすることもあります。ジカウイルスが流行したポリネシアでは、42例のギラン・バレー症候群が報告されており、ブラジル、ベネズエラ、エルサルバドルなどでもギラン・バレー症候群の増加が報告されています[9,10]。

(続く)

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安川康介(やすかわ・こうすけ) 2007年慶應義塾大学医学部卒業、2009年より渡米。米国内科専門医・感染症専門医。2014年より、ブラウン大学医学部内科クリニカルインストラクターとしてロードアイランド病院で勤務

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(参考文献)

1.Ashwal S, Michelson D, Plawner L, Dobyns WB, Quality Standards Subcommittee of the American Academy of N, the Practice Committee of the Child Neurology S. Practice parameter: Evaluation of the child with microcephaly (an evidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology and the Practice Committee of the Child Neurology Society. Neurology. 2009;73(11):887-897.

2.How Brazil uncovered the possible connection between Zika and microcephaly. Time.

3.Microcephaly in Brazil potentially linked to the Zika virus epidemic. 2015. http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/zika-microcephaly-Brazil-rapid-risk-assessment-Nov-2015.pdf別ウインドウで開きます

4.Schuler-Faccini L, Ribeiro EM, Feitosa IM, et al. Possible Association Between Zika Virus Infection and Microcephaly - Brazil, 2015. MMWR. Morbidity and mortality weekly report. 2016;65(3):59-62.

5.Oliveira Melo AS, Malinger G, Ximenes R, Szejnfeld PO, Alves Sampaio S, Bispo de Filippis AM. Zika virus intrauterine infection causes fetal brain abnormality and microcephaly: tip of the iceberg? Ultrasound in obstetrics & gynecology : the official journal of the International Society of Ultrasound in Obstetrics and Gynecology. 2016;47(1):6-7.

6.Butler D. Zika virus: Brazil's surge in small-headed babies questioned by report. Nature. 2016;4(530):13-14.

7.Fauci AS, Morens DM. Zika Virus in the Americas - Yet Another Arbovirus Threat. The New England journal of medicine. 2016.

8.Petersen EE, Staples JE, Meaney-Delman D, et al. Interim Guidelines for Pregnant Women During a Zika Virus Outbreak - United States, 2016. MMWR. Morbidity and mortality weekly report. 2016;65(2):30-33.

9.Roth A, Mercier A, Lepers C, et al. Concurrent outbreaks of dengue, chikungunya and Zika virus infections - an unprecedented epidemic wave of mosquito-borne viruses in the Pacific 2012-2014. Euro surveillance : bulletin Europeen sur les maladies transmissibles = European communicable disease bulletin. 2014;19(41).

10.Zika virus disease epidemic: potential association with microcephaly and Guillain-Barre syndrome (first update). European Centre for Disease Prevention and Control2016.

<アピタル:ニュース・フォーカス・オリジナル>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus