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 現在、ジカウイルスに対する 治療薬はありません。このため、症状がある場合は対症療法を行います。予防については、 ワクチンはなく、蚊に刺されないようにすることが大切になります。もし、ジカウイルスが流行している場所に行かなければならない場合は、蚊対策について学んでから行きましょう 。

 マラリアを媒介する蚊とは違い、ジカウイルスを媒介するヤブカは日中に活動します。まず、長袖、長ズボンなどを着用し、足もサンダルではなく靴下・靴を履くなどし、肌の露出をできるだけ減らします。DEETなどの虫よけを使い、 衣服にはできればペルメトリンなどの虫避け処理をしておいた方が良いでしょう。泊まる場所も、蚊が入ってこないようにするスクリーンが窓にあるところや、エアコンがある 宿泊施設にします。また、個人レベルだけではありませんが、蚊が繁殖する水たまりなどを処理し、蚊の発生を抑えることが重要になります。 海外への旅行には、日本にはない感染症のリスクが伴います。渡航に関する健康相談を受けたい場合は、専門の旅行外来・トラベルクリニックへの受診を検討して下さい。

 また、性交渉による感染例も報告されており、 感染後しばらくしてからもジカウイルスが精液から検出された例があることから、CDCは、ジカウイルスが流行している地域に滞在している、もしくは旅行した男性で妊娠中のパートナーがいる場合は、妊娠期間中のセックスを控えるか、コンドームの使用をきちんとすることを勧めています[1]。しかし、性交渉を介しての感染例はまだ2例しか報告されていないため、男性が感染してからどれくらいジカウイルスが精液に存在し続けるのか、ジカウイルスに感染しても症状が出ていない男性から移ることがあるのか、女性から男性への感染があるのかなど、詳しいことは分かっていません。

 輸血を介した感染例もあるといわれているため(まだ詳細な学術的報告はありません)、アメリカ赤十字はジカウイルスの流行地域へ渡航した人は、帰国してから少なくとも28日は献血をせず、献血をしてから14日以内にジカウイルスによると思われる症状が出た場合は、すぐに赤十字に連絡をするように求めています[2]。

●日本で広がる可能性は

 日本でジカウイルスの感染が広がる可能性について考えたいと思います。 実は、今までに3人のジカウイルス感染者が日本で報告されています[3,4]。いずれも、国内ではなく、海外旅行中に感染した例です。 2013年12月にポリネシアのボラボラ島に滞在していた二人と、2014年8月にタイのサムイ島に滞在していた男性が、旅行から帰ってきた後にジカウイルスと診断されています。日本における在留外国人の数や、 海外からの旅行者、海外への旅行者の数を考えれば、今後このウイルスの認知度が高まり、検査が行われるにつれ報告数は増えていくかもしれません。ジカウイルスの仲間で、同じ蚊が媒介するデング熱は2015年に292例報告されています[5]。

 ジカウイルスの国内での感染は今のところ報告されていません。ジカウイルスを媒介する主なヤブカは、ネッタイシマカであるといわれています。このネッタイシマカはかつて日本にいましたが、現在では確認されていません。 日本にいるヤブカ属の蚊は、ヒトスジシマカと呼ばれる蚊です。実は、この蚊もジカウイルスを媒介できることがわかっているため、日本国内でジカウイルス感染が発生する場合はこの蚊によって起きることになります[6]。

 実際に、2014年には都内で162人のデングウイルスの国内感染者がでました。 代々木公園にいるヒトスジシマカからデングウイルスが検出され、大部分の感染者が公園の周辺で感染したといわれています。この時のデングウイルスの遺伝子を調べたところ、シンガポール、ベトナム、インドネシア、中国などで流行したデングウイルスと似ていることが分かっています[7]。幸い、デングウイルスの国内感染者は翌年の2015年には報告されていません。ジカウイルスも、デングウイルスと同じ蚊によって媒介されるため、こうした規模の国内感染が生じる可能性はあります。

 日本への旅行者は増加しており(2015年の訪日外客数は過去最高の1973万人でした)、2019年にはラグビーのワールドカップ、2020年にはオリンピックが開催されます。交通機関が発達し、国境を超えることが容易になった現代、外国で起きている感染症に無縁でいることはできません。 ジカウイルスに限らず、世界中で起きている感染症について知り、検査・診療体制を整備しておく必要があるでしょう。

(終わり)

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安川康介(やすかわ・こうすけ) 2007年慶應義塾大学医学部卒業、2009年より渡米。米国内科専門医・感染症専門医。2014年より、ブラウン大学医学部内科クリニカルインストラクターとしてロードアイランド病院で勤務

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(参考文献)

1.Interim Guidelines for Prevention of Sexual Transmission of Zika Virus - United States, 2016. MMWR. Morbidity and mortality weekly report. 2016;65.

2.Red Cross Statement on the Zika Virus. 2016; http://www.redcross.org/news/press-release/Red-Cross-to-Implement-Blood-Donor-Self-Deferral-Over-Zika-Concerns別ウインドウで開きます

3.Kutsuna S, Kato Y, Takasaki T, et al. Two cases of Zika fever imported from French Polynesia to Japan, December 2013 to January 2014. Euro surveillance : bulletin Europeen sur les maladies transmissibles = European communicable disease bulletin. 2014;19(4).

4.Shinohara K, Kutsuna S, Takasaki T, et al. Zika fever imported from Thailand to Japan, and diagnosed by PCR in the urines. Journal of travel medicine. 2016;23(1).

5.国立感染症研究所ウイルス第一部第2室. デングウイルス感染症情報. http://www0.nih.go.jp/vir1/NVL/dengue.htm別ウインドウで開きます

6.Grard G, Caron M, Mombo IM, et al. Zika virus in Gabon (Central Africa)--2007: a new threat from Aedes albopictus? PLoS neglected tropical diseases. 2014;8(2):e2681.

7.Quam MB, Sessions O, Kamaraj US, Rocklov J, Wilder-Smith A. Dissecting Japan's Dengue Outbreak in 2014. The American journal of tropical medicine and hygiene. 2015.

<アピタル:ニュース・フォーカス・オリジナル>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus