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寒い日が続きますね。こう寒いと、中には「こたつに一度入るともう抜け出せない」「なんにもできない」と、日常の活動すらできなくなってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ただそんなときでも、「トイレに行く」「ファンヒーターの灯油を補給する」「お客さんが玄関に来た」といった場合には渋々こたつを出ることもあるでしょう。

このように「やむを得ない事情」が生じると、私たちは渋々ではありますが行動を起こすことが出来ます。

しかし、「よし、今から茶わん洗いをしよう」「さて、朝に二度寝せずに布団から出て身支度するか」など、暖かいこたつから出て自主的に行動を起こすとなると、かなりの「やる気」が必要です。

やる気の奮い立たせ方には、いろいろありますが、例えば以下のようにして「自分をだます」こともひとつの方法です。

 

・ほら、だまされたと思って。台所で湯のみを1つ洗うだけ → 本当は食器を全部洗わないといけない

・大丈夫。布団から出てまだ眠かったら、また寝ればいいじゃない → 本当は布団から出たらもう時間などなく、仕事にいく準備をしなければ間に合わないことはわかっている

 

今回は、この「自分をだます」方法を、長引くうつに活用してみます。

 

前回(http://www.asahi.com/articles/SDI201602048462.html)は、長引くうつが引き起こしている悪循環からの脱出方法として、行動活性化療法をご紹介いたしました。

今回も引き続き、うつ病で起こりがちな「部屋が汚い」という事態を打開するという例で説明していきます。

 

【うつ病でよくある悪循環の例】

  うつで気力が落ちる

   → 後片付けまで余力がない

   → 部屋が汚くなる

   → 自分が嫌になる

   → ますます気分が落ち込む

   → 気力が落ちる

   → 後片付けまで余力がない

 

【うつ病の悪循環からの脱出の例】

  うつで気力が落ちる

   → 簡単に済む方法でざっと片付けてしまう

   → 部屋に多少秩序が戻る

   → 部屋のことで落ち込まない

   → またちょっとした片付けならできる気力がわく

   → 部屋がちょっと片付いてくる

   → 自信につながる

   → 気分がよくなる

 

ポイントは「簡単に済む方法でざっと片付けてしまう」の設定でした。

 

ここで、以前に「もっと知りたい大人のADHDシリーズ」(http://t.asahi.com/j164別ウインドウで開きます)で紹介した「重い腰を上げる具体的な方法」をもう一度みてみましょう。この方法を、今回も用いるのです。

最大のポイントはこれです。

 

・スモールステップであること (とにかく小さな単位に区切る!)

 

もう少し詳しく解説していきます。

 

うつ病になると、何をするにも「やる気」を出すのが難しくなります。専門用語でいう「意欲の減退」ですね。これが起きるのは、「やる気の源」である脳内のセロトニンと呼ばれる物質がなんらかの理由で不足することが原因と言われています。

病院で抗うつ剤などの薬が処方されたり、散歩などの軽くリズミカルな運動が勧められたりするのは、不足したセロトニンを補うのが目的です。

逆に、そもそもセロトニンが不足するのを防ぎ、うまく「やる気を出しやすくする」ことができれば、最初のほんのちょっとの行動に踏み出すことが出来ます。

その結果、

 

・すっきりする

・「また前の自分のように成し遂げることができるんだ」と自信を持つことができる

・周りの人に「すごいね」「助かったよ」などと評価や感謝を受けることができる

 

といった効果が表れれば、いい循環に移行することができます。

ただ、そうは言ってもこの「いい循環」に移行するのは簡単ではありません。その原因の一つが、うつの時の代表的な困った行動傾向である「回避」です。

「回避」は、簡単にいえば、

 

・今のうつ病の自分ではやれる気がしない(能力の過小評価)

・やる気も起きない(意欲の減退)

・実際うまく判断できない(決断力の低下)

・以前のように効率よく物事をこなすことができない(処理スピードの低下、計画性の低下)

 

といったいくつもの要因が重なり、仕事や家事などやらなければならないことを「先延ばし」にしてしまうことです。

たとえば、うつで会社を休んでいると、

 

・仕事を肩代わりしてくれている同僚に申し訳ない気持ちでいっぱいになる

・迷惑がられているような気がして、会社の人と連絡をとるのが怖くなる

・平日の昼間に布団の中にいて、誰からも連絡がこないと、世界中でたったひとりにされた気がして、孤独感でいっぱいになる

・(自分から連絡はしないにもかかわらず)自分はもう会社から必要とされていないんだと考えるようになる

 

といったぐあいです。

このケースでは、会社の人と連絡をとるという行動を「回避」しています。回避することで、避けずに連絡を取り合っていれば得られたかもしれない「同僚からの励ましの声」「会社の状況」「みんなが心配していること」などの情報が遮断されていました。代わりに「孤独で、もう誰からも必要とされていないのではないか」という思い込みが強まり、ますますうつ状態が悪化していました。

こういった回避行動は、避けているもの(この場合は会社の人たち)を現実よりもより「怖いもの」「いやなもの」として認識させてしまいます。こうして、悪循環にはまってしまうのです。

うつのときによく見られるこうした「先延ばしを含む回避行動」と、いかにうまくつきあっていくかが課題となります。

この先延ばしを克服するには、第一歩目のハードルをいかに下げるかがポイントです。つまり、なかなか重い腰をあげることができないという「とりかかりの遅さ」や、片付け自体から目を背けて逃げ出してしまうほどの「苦手意識」を減らすため、できる限り最初の一歩を小さく、確実に踏み出すことが肝心なのです。

これが、最初の行動を「スモールステップ」にすることです。

 

もう少し具体的に、冒頭でご紹介した「うつのために部屋を片づける気力がない」という状況での、最初の一歩の踏み出し方を考えていきましょう。

最初の一歩の歩幅を小さくするのにはコツがあります。ポイントは「時間・空間・個数などでとにかく区切る!」ことです。

たとえば、

 

【時間的に区切る】

・1分だけ掃除する

・好きなテレビ番組が始まるまで断捨離する 

いきなり2時間掃除をしようとしても重い腰はあがらないが、1分ならだまされたと思ってやることができる。1分でできることは意外に多い。使っていたコップを洗って、台拭きでテーブルを拭くくらいのことができてしまう。

断捨離のあとにテレビが見られるというご褒美を付ければ、やる気が出る。しかも、ご褒美をテレビ番組にすれば決められた時間にスタートするので、「その時間までに終わらせよう!」と踏ん切りがつきやすくなる。

こうした「自分の意欲以外の力」を借りることも大切。

 

【空間的に区切る】

・机の上だけ片づける

・玄関に出ている靴だけ片づける

・押し入れの4分の1だけ片づける 

いきなり「部屋中をモデルルームのように片づける」といった途方もない目標を立てると、ただでさえ意欲の低下しているうつ病のときには余計に動けなくなる。とりあえず「机の上に物が何もない」ことを目指せば、ゴールは近い。

玄関全体ではなく靴をとりあえずげた箱にしまうだけにする、押し入れなら全部よりは4分の1にする方が難易度は下がる。

 

【個数で区切る】

・1シーズンのスカートは4枚までにする

・1日3つだけ捨てる

・ゴミの収集日のたびに袋の隙間を埋められるだけの量の物を捨てる

1シーズンに持つ洋服の量など、自分なりの整理ルールを数字で明確に作ることで、捨てる勇気がわいてくる。決断力が低下しているうつ病のときには、ルール化することで悩まなくてすむ。

家中の不要物を処分するにはものすごいエネルギーが必要だけど、1日に3つずつ捨てる、と区切ればゲーム感覚で断捨離できる。

有料のゴミ袋が自治体で指定されているときには、ゴミ袋の隙間に不要物を断捨離して入れ込むことはお得感もあるし、量の目安があって楽しめる。

 

いかがでしょうか。

こうして、区切って考えることで、行動の難易度を下げることができます。最初の一歩の行動は、片目をつぶっていてもできるくらいの難易度にしてください。「あ、そのくらいなら、今すぐにだってできちゃうよ」というくらいの行動です。

次回は、もう少し別の視点から最初の一歩の踏み出し方を考えていきます。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。