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今回も、長くうつ病で仕事を休んでいるミカさん(会社員・20歳代女性)のお話で、うつ病からの回復の仕方をご紹介していきます。

前回(http://www.asahi.com/articles/SDI201602159136.html)はミカさんの昼夜逆転の生活からの脱出の最初の一歩として、どのような行動が適当かということについて詳しくご紹介しました。

その結果、具体的には以下のような改善が見られました。

 

・昼過ぎに目が覚め、二度寝し、夕方になると起きだす → 現状維持

・近所のコンビニで弁当を買って食べる → コンビニをスーパーに変えることで、身支度をする習慣や運動量の増加、栄養面の改善、支出カットが実現

・テレビやネットに深夜まで集中する → そのまま

 

この改善点の中でも、「身支度の習慣」は最もミカさんの回復に大きな影響を与えそうでした。というのも、身支度ができれば、外出へのハードルが下がるからです。

もともと社交的な性格のミカさんにとって、誰にも会わないという今の生活は、実はつらくてしようがないものでした。

外出できるようになると、人に会うことができます。人に会うことができれば、ミカさんを励ましてくれる人に会えるかもしれません。他の人にも落ち込むことはあるのだという事実に目を向けることができるかもしれません。他の人と食事をするなど体験を共にすることで一体感を味わえるかもしれません。

こうして、家の中にひとりでいるよりも、ミカさんが元気になるための刺激を得ることができます。

専門的には、ミカさんが外出することで「褒められる、励まされる、一体感を感じることができる」といった「正の強化」を受ける機会が増えることが期待できるのです。このように活動性が上がってくると、うつから脱出しやすくなります。

次のステップを選ぶ基準は、「その行動の結果、自分にとっていいことが起こるかどうか」を見極めることです。できればその「いいこと」が時間的にすぐに確実に起こるのがよいでしょう。モチベーションを高めることができるからです。

 

 × これから資格試験の勉強をするぞ (結果が出るのが何カ月も後になるため、その間にモチベーションが下がる可能性が高い)

 × 久々に学生時代の友達に会う (「久々」だと必ずいい再会になるかは謎。うつの状態でも確実にあたたかく迎えてくれて、確実に元気になれそうな相手を選ぶこと。さもなければ、自分より幸せそうな生活をしているかもしれない友人の話に余計へこむかもしれないし、望みもしないアドバイスを受けるかもしれない)

 

 ○ これまでより少し早く起きて、14時までなら提供されているおいしいランチを食べに行く (早起きにつながり、その日のうちにごほうびに確実にありつける)

 ○ 比較的最近までつきあいのある友達に「弱ってるから話聞いて。大変だねって言ってね」などと前置きしてから会う。 (相手にこちらの欲しい言葉を率直に伝えておいた方が、お互いよい)

 ○ 買い物に行ったり、飲食店に行ったりして、店員さんと話す (確実に距離の保たれた相手とならば気楽に会話できる人向き。安全性はあるし、多少社会へのつながりを感じることも出来る)

 

「昼夜逆転生活からの脱出」をカウンセリングで話し合うとき、「朝起きるきっかけ」として人気がある例を挙げてみます。ぜひ参考になさってください。

 

(1)図書館

無料なので、毎日でも通いやすい。さらに前向きになれる本も多く、人気スポット。ここで新聞を読む、読書をするくらいの課題からスタートして、会社関係の書類を読むなど集中力を取り戻す場としても活用。

 

(2)カフェ

100~300円程度の出費はあるが、図書館だと眠くなるという方には人気。カフェに行った証拠としてレシートを保存する、毎朝のコーヒーの写真をスマホで撮影する、などしてカウンセリングに持参する人も。おしゃれな感じも手伝って、若年層のうつの方に人気。

 

(3)100円ショップ

値段が決まっているので、多少買いすぎても安心感がある。店員さんに押し売りされる心配もなく、うろうろできる。

 

(4)マッサージ

男女問わず、身体の疲れがとれるため人気。いろいろ頭で考えすぎてしまう方には、特にお勧めしている。しかし出費は大きいので、人による。予約をとってしまえば、起きるきっかけとして必然性が高い。

 

(5)睡眠アプリ

寝る時にスタートボタンを押すことで、体動などから睡眠の深さや時間等を計測し、SNSと連動させて、みんなに起きた時間を報告するというもの。第三者にリアルタイムに報告することでがんばれる人もいる。

 

ぜひ参考になさってみてください。

計画段階では「散歩」を挙げる方も多いのですが、なかなか続けられる人は少ないようです。散歩の目的地に「コンビニでちょっとしたおやつを買う」などを設定すると、うまくいきますよ。

また、身支度をすることで、自己イメージが変わります。鏡に映る「化粧をし、身なりを整えた自分の姿」を見ることで自己肯定感が上がるのです。

 

「見た目」は思った以上に私たち自身に大きな影響を与えるものです。うつになると、一般的に鮮やかな色の服は着なくなります。化粧をするどころではなくなります。

私が精神科の病院に勤務していたころに行っていた、うつの患者さんグループの最終セッションでは、メイクセラピーを行っていました。

このメイクセラピーは、化粧品会社・POLAの方々の多大なるご協力で実現しました。プロの方にメイクしてもらうことで、「こんなに自分自身をケアしてもいいんだ、大切にしていいんだ」という姿勢が伝わります。

プロの腕で久々に唇が華やかな色で彩られ、はっとするほど目元がキレイになると、参加者からは自然と笑みがこぼれ、姿勢がよくなります。顔の表情まで変わるのです。

また、メイクだけでなく、「うつになってからは着なくなっていたような、心の晴れるようなすてきな色のストールでも服でも持って来てください」というお願いもしていました。

ヘアセットまで済ませると、参加者は、見違えるようになります。鏡の中の自分を見て、多くの方が涙を流されます。「久しぶりに自分の顔をこんなにまじまじと見た。こんなにしていただいて、うれしい」とおっしゃいます。

「見た目」は見逃せない大事な要素です。

 

ミカさんのお話は次回も続きます。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・ケーススタディー「ミカさん(会社員・20歳代女性)」>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。

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