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 この1年というもの、家族のいろいろな病気を経験し、健康のありがたみが身に染みるナオコさん(会社員)ですが、50歳を迎え、体力の衰えも痛感しています。そこで、この先30年、健康を保ち、元気に活動できるよう、自分の生活を振り返り、生活習慣を立て直すことにしました。健康を維持するために50歳からやっておきたいことは何でしょう。

 ナオコさんは50歳の誕生日を迎えました。

 「人並みに平均寿命まで長生きするとして、私はあと何年、生きられるのかしら?」

 日本人の平均寿命は2014年の簡易生命表によると、男性は80.50歳、女性は86.83歳です。「日本人はずいぶん長生きするようになったのねえ……」と、ナオコさんはこの数字を見てあらためて驚きました。

 一方、WHO(世界保健機関)が提唱している「健康寿命」というものがあります。これは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことですが、2013年の日本人の健康寿命は男性が71.19歳、女性が74.21歳でした。つまり、健康に過ごせるのは60代もしくは70代前半までの期間で、それ以降は長生きしても体にいろいろな問題が出てきて介護などを必要とする状態になる可能性が高いことを示しているともいえます。

 「そうだった! 単に長生きするだけじゃだめなのよ。健康寿命をいかに延ばすかということが重要だったわ」

 ナオコさんは大事なことを思い出しました。

 「だけど、この先ずっと健康でいられることに自信が持てないわ。80歳まで現役なんて難しいわねえ」

 ナオコさんはいつになく弱気です。というのも、ここ数年、明らかに体力が低下してきていることを自覚していたからです。

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解決策①

 日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えたが、そのうち9~12年は介護などを必要とする不健康な状態に置かれている。単に長生きするだけでなく、健康上の問題で日常生活が制限されることのない健康寿命を延ばすことが肝心だ。

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 まず仕事をこなすスピードが確実に落ちてきました。以前なら2日で仕上げていた仕事が、集中力が続かず、4日ほどかかってしまいます。そして、期限を間に合わせるために残業をすると、疲れがたまり、週末に寝込んでしまうこともありました。一時は「こんな状態になっているのは自分だけかもしれない」と悩みましたが、同年代の働く友人たちに相談すると大なり小なり同じような問題を抱えていました。

 「更年期世代の私たちは自分のペースを守って、ゆるゆると働かないと大きな病気になっちゃうから、気をつけないとね」。お互いにいたわりの言葉をかけあい、ナオコさんもオーバーワークには注意していますが、責任のある仕事をまかされることも多く、この環境をなかなか改善することができません。

 そのうち、健康診断の数値にも異常が現れてきました。若い頃から低かった血圧が気づかない間に上がっていて、高血圧の基準を超えていたのです。健康診断で問診をしてくれた医師は「更年期は確かに血圧が上がりやすいけれど、それにしても高いですね。高血圧は動脈硬化を引き起こし、心臓病や脳卒中の原因にもなりますから、放置せずに家庭血圧をしばらく測定してみて高い状態が続くのなら治療を始めたほうがいいですよ」とアドバイスしてくれました。

 この出来事は、ナオコさんの健康に対する自信をさらに打ちのめしました。「50歳になるってこういうことなのね……。30~40代の頃より節制しないと健康を保てないことがよくわかったわ」。ナオコさんは50歳という節目の年に、あらためて自分の健康について考えてみようと思いました。

 では、これまでと同じように健康を維持するには、50歳から何をすればよいのでしょう。この世代に求められるのは、第一に自分の体の弱点を知るということです。健康だと思っていても、ナオコさんのように気づかないうちに、さまざまな数値が異常を示しているかもしれません。それには健康診断を欠かさずに受けることが大切です。高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病は遺伝や体質もさることながら、毎日の生活習慣がその発症と深くかかわっていることが明らかになっています。健診を受けることによって自分がどのような生活習慣病にかかりやすくなっているのかを知り、日頃の生活を見直したいものです。

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解決策②

 健康診断を受けることで自分の体の弱点を知り、その弱点を予防することを念頭に日常生活を見直し、食事・運動・休養・睡眠などの改善を図るのが健康への早道だ。

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 「なるほど。私の弱点は血圧ということね」

 さっそくインターネットで高血圧を予防する方法を調べてみると、やはり減塩は欠かせないようです。ナオコさんは食事療法の本を買い込み、毎日の食事の薄味に取り組みました。実際にやってみると「中食」(なかしょく)と呼ばれる惣菜類は塩分が多くて、これまでのように気軽に利用できないことがわかりました。これはフルタイムで働くナオコさんにとって手痛いことでしたが、「だから塩分を摂りすぎて高血圧にもなっていたのね」と新たな気づきにつながりました。

 手作りの減塩食は味気なく、娘たちには不評でしたが、夫のマサオさんは応援してくれました。もともと食いしん坊のナオコさん。おいしいものを食べたい一心で、酢、レモン、香味野菜などを上手に使って味に変化をつける技を身に付け、料理のレパートリーも広がってきました。「お母さん、料理の腕を上げたねえ」と娘たちにほめられ、ナオコさんはまんざらでもありません。「減塩食って大変だと思っていたけど、やってみると楽しいわ」

 もっともナオコさんは、マサオさんが糖尿病になってから野菜料理を増やし、栄養バランスとカロリーには気をつけてきました。こうした食事に減塩を取り入れたことで、理想の食卓にかなり近づけたようにも思います。

 「今食べているものが5年後、10年後の自分の体を作るというけれど、とくに50代の食生活は大事だわ。血圧、血糖、中性脂肪、コレステロールをしっかりコントロールしておかないと動脈硬化などが進んで老年期の健康に大きく影響するもの」

 さらに50代からの日常生活において重要になってくるのが「運動」です。血圧、血糖、中性脂肪、コレステロールのコントロールも食事だけでは限界があります。また、加齢とともに確実に衰える筋肉を維持するには、たんぱく質を十分にとったうえでの筋トレが必須だといわれています。「そういえば、高校時代の親友のエリちゃん、週3日、ママさんバレーやバトミントンで汗を流すといっていたなあ」。料理が苦手なエリさんは食事にまったく気を使っていないそうですが、それでも健康診断の結果はオールA。おそるべし、運動効果、です。「この歳になると誰かにほめられることはないから、医師に"すばらしい"といわれるのは嬉しいものよ」とエリさん。運動で体がキュッと引き締まり、ナオコさんよりもずっと若々しくみえます。

 「うーん、私、負けている感じがする……」

 成功事例を目の当たりにして、それほど運動が好きではないナオコさんも重い腰を上げることにしました。自宅で空いている時間に筋トレやウォーキングをしようと思っても続かないことは火を見るよりも明らかなので、思い切って運動教室に通うことにしました。これまでは娘たちのお稽古ごとを優先してきましたが、そろそろ自分の健康に投資してもいい時期です。

 「有酸素運動は血圧を下げる効果もあるらしいから頑張ってみようかな。あら、有酸素運動と筋トレを同時にできるフラダンスなんていいわねえ」

 こうして、ナオコさんは高血圧の予防を念頭に食事の改善と運動に取り組み、休養や睡眠も十分にとることを心がけるようになりました。というのも、睡眠不足になっている中高年は高血圧や糖尿病になる可能性が高いという健康記事を読んだからです。

 中高年になると、休養や睡眠の時間が少なくても平気だった若いときとは勝手が違います。老後の生活を見据えて週末に地域活動にいそしむ50~60代も増えていますが、自分に無理のないペースをつかむまでは体調を優先して時間の使い方を考えたほうがいいかもしれません。

 「それにしても自分の弱点を知り、血圧を下げることを目標にしたら、日常生活の中で、どのようなことを改善すればいいのか具体的に考えることができてよかったわ。一病息災とは、よくいったものね」

 ナオコさんはあらためて思いました。高血圧予防のために改善した生活習慣は、糖尿病や脂質異常症、肥満など生活習慣病全体にもよい影響を及ぼすはずです。

 「50代から生活習慣病以外に気をつけたいことはあるのかしら」

 それはがんです。日本人の2人に1人はがんに罹患することがわかっていますが、国立がん研究センターがん対策情報センターの統計によると、男女ともに50代からがんに罹患する人が増加し、高齢になればなるほどその発症率は高まります。そのため、50代からはがん検診も定期的にきちんと受けたいものです。これまでの研究によりがん検診でがんが発見された人のほうが治りがよいこともわかっています。

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解決策③

 日本人の2人に1人はがんに罹患することがわかっているが、男女ともにがんにかかる人が増えてくるのは50代から。そのため、50代からは面倒くさがらずに、がん検診も定期的に受けておきたい。

●国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス/がん検診について」

 http://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr.html別ウインドウで開きます

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 この1年というもの、ナオコさんの家族は、医療や介護にまつわるさまざまな問題に直面してきました。数多くのピンチをなんとか切り抜けることができたのも、キーパーソンとなるナオコさんの健康が保たれていたからです。「家族の病気を通して、健康がかけがえのない財産だということがよくわかったわ」とナオコさんはしみじみと思いました。同時に医療や介護の問題は決して他人事ではなく、自分にいつ降りかかってきてもおかしくないことも実感しました。

 「八方塞がりで解決策がないように思えても必ず助けてくれる人はいる。この分野こそ専門家の力を借りることが大切ね。そのためには、私たちも医療や介護の仕組みをきちんと勉強しなくっちゃ」

 メディカル玉手箱のナオコさんシリーズは、これで終わります。1年間、ご愛読いただき、誠にありがとうございました。次週からは装いを変えて新シリーズ「ちーちゃん教えて!」が始まります。これからも身近な悩みをテーマに読者のみなさんの生活に役立つ医療・介護・健康情報をお届けいたします。引き続き、ご愛読のほどをよろしくお願いいたします。

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■アピタル編集部より

 この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/tamatebako/(アピタル・渡辺千鶴)

アピタル・渡辺千鶴

アピタル・渡辺千鶴(わたなべ・ちづる) 医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランス。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』の医学ページで「がん医療を支える人々」を連載中。