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うつで休職中のミカさん(20代女性・会社員)。前回(http://www.asahi.com/articles/SDI201603252276.html)までに、生活のリズムを立て直し、認知機能トレーニングなどでリハビリに励み、避けていた職場との連絡も少しずつ練習して克服してきたところです。

しかし、ミカさんは最近お疲れ気味なのです。

そのひとつの原因は「反すう」でした。反すうはいわゆる「ぐるぐる思考」で、堂々巡りな解決法の出ない悩み方です。うつ病の再発にかかわることが知られています。

前回は、この反すうを防ぐ方法をご紹介し、ミカさんは無駄にくよくよ悩むことがなくなりました。しかし、いまいちすっきりしないのです。まだなんとなく疲れが残っているというのが正直なところです。

今回は、もうひとつの「わけもなく疲れる原因」について探っていきましょう。

 

反すうは「解決策の出ない堂々巡りな」悩み方でした。しかしミカさんはそもそも、どうしたら「解決策の出る有効な」悩み方ができるのか、わかりませんでした。

もっとも、それがわかっていれば、最初から反すうなんてしていないかもしれませんね。

このコラムを長くお読みいただいている方にはおなじみかもしれませんが、今回は「考え方のクセ」についてご紹介いたします。

ミカさんにでも誰にでも、考え方のクセが1つか2つはあると言われています。それは

 

・ものすごくショックを受けているとき

・悲しいとき

・落ち込んでいるとき

・腹が立ってしようがないとき

 

などに現れるとされています。

この「考え方のクセ」が極端であればあるほど、私たちは実際に起きている事実以上に落ち込んだり、腹を立てたりします。

たとえば、街で見かけた友人に手を振ったのに、なんのあいさつも返ってこなかったという場面を考えてみます。

そこで「あの人はわざと無視したんだ。なんて失礼なやつなんだ」と決めつけた考え方をすれば、ものすごく腹が立つことでしょう。

また「あの人は、私のことが嫌いなんだ。私に何か落ち度があるからだろう。こうやって私は誰からも嫌われるんだ」という考え方をすれば、落ち込むかもしれません。

同じ出来事を経験していても、考え方ひとつで味わう感情は異なります。これら一つひとつの例を、心理学では「認知モデル」と呼んでいます。

「認知」というのは、考え方や判断、記憶など、頭の中での情報処理全般のことです。この認知が感情や気分に影響を与えているということを自覚し、認知を修正することで少しでもつらい気分を和らげようというのが「認知行動療法」の目的のひとつです。

考え方のクセに気づいて生活していると、事実以上に落ち込んだり腹を立てたりすることが減ります。「あ、落ち込んでいるのは、こういう考え方のクセのせいだ。この考え方を少し修正したら、ラクになれるかな」と切り替えることができるようになるのです。

 

ここまでの解説を読んだみなさんは、では自分自身にはどんな考え方のクセがあるのだろうかと、気になってきませんか?

次の表は、考え方のクセの代表的なものです。最近落ち込んだりイライラしたりしたとき、みなさんはこういう考え方をしていませんでしたか? チェックしてみましょう。

 

写真・図版

 

写真・図版

 

ミカさんが仕事を休むきっかけとなったのは、社内の会議でした。半年分の仕事の経過報告を求められたミカさんでしたが、上司からの評価はすこぶる悪いものでした。みんなの前で叱責(しっせき)された次の日から、仕事を休むようになりました。

上司に指摘を受けたときの考えは次の通りでした。

 

ミカ 「上司のいうとおりだ。私は完全にだめだった。これまで仕事がそこそこできているつもりでいたけど、全部勘違いだったんだろう。全然できていなかったんだ。この先も、もうどんなに頑張ってもうまくいかないだろう。他の会社に行っても同じことだ。社会人としてやっていけるわけがない。こんなに世の中から必要とされないのなら、生きていてもしようがない」

 

こう考えたミカさんは、絶望していました。

みなさんもお気づきでしょう。ミカさんは瞬く間に自分を追いつめて、落ち込んでいます。これだけの思考を一瞬で完了させました。あっという間に「うつ」まっしぐらです。世の中全体から見放されたような気持ちでした。

さて、ミカさんの「考え方のクセ」はなんでしょうか。

 

・上司のいうとおりだ。私は完全にだめだった。これまで仕事がそこそこできているつもりでいたけど、全部勘違いだったんだろう。全然できていなかったんだ。

→(全か無か思考、一般化のしすぎ : 上司が完全に正しく、自分が完全に間違っていると思い過ぎ。上司の指摘が的確であっても、今回指摘されたのはあくまで会議に出した内容だけ。これまでの仕事全体を否定されたわけではない)

 

・この先も、もうどんなに頑張ってもうまくいかないだろう。他の会社に行っても同じことだ。社会人としてやっていけるわけがない。

→(一般化のしすぎ、根拠のない推論 : この先うまくいくかどうかは、まだ試していないので誰にもわからないはずなのに、決めつけている)

 

・こんなに世の中から必要とされないのなら、生きていてもしようがない。

→(すべき思考、根拠のない推論、感情による決めつけ : 生きていくには、誰かから必要とされなければならないという思い込み。世の中から必要とされていない証拠がない)

 

いくつも出てきましたね。考え方のクセに気づいて、自分自身で指摘することさえできれば、修正することは案外簡単なことがおわかりいただけると思います。

具体的には( )の中に書かれているようなことを、自分自身に対して指摘するのです。

 

ミカ 「なるほど。特に私を苦しめる考え方のクセは『一般化のしすぎ』みたいだ。上司に指摘された部分だけを改めれば済む話なのに、勝手に『この先もダメ、他の職場でもダメ、社会人失格、人間失格……』と拡大して悩んでいたみたい」

 

一度自分の考え方のクセに気づくと、他の似た場面でもだいたい同じクセにはまってしまうことに気づくようです。

ミカさんは高校生の時にテニス部に入っていましたが、先輩にフォームを注意された時に泣いてしまったことを思い出しました。

 

ミカ 「あのときも同じ。先輩はテニスのフォームについて指摘しているのに、勝手に自分でそれを拡大して、全人格を否定されたんだと勘違いしてしまったのよね。昔からのクセなんだわ」

 

歴史は繰り返すものです。みなさんが今お悩みの人間関係や出来事、実は過去の経験と通じている、ということはありませんか?

このお話は次回も続きます。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・ケーススタディー「ミカさん(会社員・20歳代女性)」>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。

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