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うつで休職中のミカさん(20代女性・会社員)は、復職に向けて生活のリズムを立て直し、認知機能トレーニングをするなどしてリハビリに励み、避けていた職場との連絡も少しずつ練習して克服してきました。

そして前回(http://www.asahi.com/articles/SDI201604063189.html)、ミカさんは自分を追い込む「考え方のクセ」に気づいたのでした。

ミカさんの考え方のクセは、いくつかありましたが、中でも手ごわいのは「一般化のしすぎ」でした。

上司から仕事の一部について注意されただけであるにもかかわらず、それを「社会人としてもうやっていけない」とか「人生終わりだ」といった具合に勝手に拡大解釈して、必要以上に落ち込む――これが、まさに「一般化のしすぎ」という考え方のクセが引き起こす、ミカさんのパターンでした。

今回は「そもそもミカさんは、どうして上司からの評価にそこまで傷ついてしまったのか」について、掘り下げていきます。

 

みなさんのまわりに、いつもくよくよしがちな人はいませんか? 職場でも家庭でも友達同士でも、似たようなパターンに陥って、取り越し苦労をしているような人です。

その一方で、いつも怒っている人もいませんか? 「なんだあの態度は」「ほんとにむかつく」と、いつも人に不満があってイライラ。どんな場面でも、誰に対しても怒りっぽい人です。

こんなふうに、人にはそれぞれ「その人らしいパターン」があることにお気づきでしょうか。

どんなに場面が変わっても、その人が共通して持っている考え方はあるものです。こうした考え方の背景にあるものは「信念」とよばれます。

この信念は、いわば「価値観」や「世界観」といったようなもの。たとえば

 

・私って、わりとネガティブ人間

・人って結局、最後には見放すんだ

・世の中ってしょせん、不平等だよね

 

というかんじです。諸説ありますが、だいたい思春期くらいまでの間の経験を通して、私たちは信念を築き上げていきます。

この「信念」が木の根っこだとすれば、地面から外に表れて、私たちが意識することのできる葉っぱや実にあたるのが「考え方」だといえます。

信念は、日頃は意識することなく、私たちの「常識」として存在しています。

たとえば「自分は価値のない人間だ」という信念を持っている人は、そのことがあまりに当たり前すぎて日頃は意識していません。

しかし、とてもすてきな花束をプレゼントされたときは、この「信念」のためにソワソワしてしまいます。プレゼントしてくれた相手にお礼を言うべきところなのに、「花束なんてもったいない。すぐに枯れてしまうのに」と考えてしまったのです。

この考えの背景には、「私は花束をもらうに値しない人間なのに、こんなきれいな花束をもらってしまうと、なんとかしてお返ししなければならないので、動揺してしまう」といった心理プロセスがあるのかもしれません。

はっきりと意識しないにしても、日頃次のようなことを感じてまごまごしてしまうことはありませんか。

 

・ああ、自分にはもったいない

・こんなにしてもらって申し訳ない

・どうしよう! お返しできない!

 

そんな背景には、やはり「自分には価値がない」といった信念が横たわっているのかもしれません。

信念は、考え方を生み出す根っこです。だから、表面の考え方を修正してもうまくいかないときには、ちょっと「信念」までのぞいてみることをおすすめします。

ただし、ここまで述べてきたとおり、信念は意識しにくいこと、変えにくいことが難点です。それでも、まずは「どんな信念を持っているのか意識しておくこと」「時々信念が自分の現在の状況に役立っているのかチェックしてみること」は、大いに役立ちます。

 

さて、ミカさんの場合には、どんな信念が背景にあったのでしょうか。

上司に仕事のことを指摘されることは、誰にとってもショックなことではあります。しかし、それで仕事を休まなければならないほどのショックを受けたというのは、普通ではありません。詳しく分析してみた方がよさそうです。

いくつかある信念の中でも、ミカさんには「承認」にまつわる信念に特徴があったようです。承認にまつわる信念とは、次のようなものです。

 

・会議で大多数の人が賛成したのに、2人だけが反対した。そのことが気になってたまらない

・相手の反応を気にするあまり、自分の意見を引っ込めてしまう

・人から「それでいいんじゃない」と言ってもらえないと、落ち着かない

・自分が何をしたいかではなく、相手から何を望まれているかで動いてしまう

・どんなに自分で「これでいい!」と思っていたとしても、人から批判されると自信をなくしてしまう

 

いかがでしたか?

ミカさんの場合は、すべて当てはまりました。

ストールを買うときは好きな色ではなく、周りからどう見られるか、周りの人にいいねと言ってもらえるような色を選んでいました。友達とご飯を食べに行くときにも、自分が何を食べたいかよりも、相手がどういう店に行けば機嫌よくしてくれるかに神経をすり減らしていました。

高校生でテニス部だったときにも、先輩からの評価を気にしていました。大学進学のときも、自分で学部を決めたはずでしたが、親に「それいいいんじゃない」と言ってもらえるまではどぎまぎしていました。就職活動中は就職試験に落ちるたび、自分を全否定されたように感じて深く落ち込みました。

ずっとずっと、人から認めてもらうことで、自分にオーケーを出すという図式でした。

 

ミカ「自分で自分を認めずに、いつも他人に評価を委ねていたからこんなにきつかったんだ」

 

ミカさんは、長年人の顔色を気にしてばかりで疲れていたことに、改めて気づきました。

次回は、「考え方のクセ」や「信念」に対して、修正を試みます。

写真・図版

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・ケーススタディー「ミカさん(会社員・20歳代女性)」>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。

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