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 私たちが医療機関の窓口で支払う費用(自己負担金)はかかった医療費の1~3割負担で済みます。薬代も同じです。しかし、新薬が次々に登場し、それに伴って患者の経済的負担が重くなってきています。薬代を少しでも安くする方法はあるのでしょうか。(アピタル編集部)

 がんを例にとって考えてみましょう。

 高額化する薬剤費のなかでも、がんの治療薬はとくに高価なものが多く、薬が効いて長生きをすればするほど経済的に困窮していくというジレンマに陥る人も少なくありません。なかには薬代が払えなくなり、治療を続けるのか中止するのかといった厳しい選択を迫られる人もいるのが悲しいけれど現実です。

 このような状況の中、薬剤費を少しでも安くする方法はあるのでしょうか。その方法として、まず知っておきたいのが「高額療養費制度」です。これは同一月にかかった医療費の自己負担額がある一定の金額(限度額)を超えた場合、超過分の自己負担金があとから払い戻される仕組みです。自己負担限度額は、所得に応じて70歳未満では5段階に分かれており、対象者が最も多いとされる「年収約370万~約770万円」の場合は8万100円+αになります。たとえば1カ月に医療機関の窓口で支払った自己負担金が10万円とすると、自己負担限度額の8万100円+α分を差し引いた1万9000円弱の金額が戻ってくるというわけです。

 ただし、高額療養費制度は申請してから払い戻されるまでに2~3カ月かかるため、患者は医療機関の窓口で自己負担金の全額をいったん自分で支払う必要があります。薬剤費が高額になればなるほど負担は大きくなるので、この窓口の支払いにも困る人がいます。70歳未満の人は治療を始めたり入院したりする前に加入する健康保険や国民健康保険などの窓口に連絡し、高額療養費制度の仕組みの一つである「限度額適用認定証」を発行してもらいましょう。治療を受ける際、この認定証を医療機関に提出すると、窓口での請求と支払いが自己負担限度額の範囲内で済むため、経済的な負担を少し軽くすることができます。

●厚生労働省HP「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000075123.pdf別ウインドウで開きます

●厚生労働省HP「高額な医療費をご負担になる皆さまへ」

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000068630.pdf別ウインドウで開きます

 

■自己負担金の補てんを考える

 薬剤費が高額だった場合、限度額適用認定証を利用しても自己負担限度額分の自己負担金は自分で工面しなければなりません。対象者が最も多いとされる「年収約370万~約770万円」の人は1カ月に8万100円+α、2015年1月に高額療養費制度が改正されて自己負担限度額が引き下げられた「年収約370万円以下」の人でも1カ月に5万7600円を用意することが必要です。がんの薬物治療の場合、がんの種類や進行度によっても異なりますが、手術後の再発予防を目的とする場合は半年から1年ほど薬物治療が行われます。転移して手術ができない場合は薬の効くかぎり薬物治療が続けられます。その間、毎月6万~8万円の出費は家計にかなり響きます。高額療養費制度には「多数回該当」といって直近の12カ月間に3回以上の高額療養費の支給を受けた場合、4回目から自己負担限度額が引き下がる(5万7600円、8万100円+αの場合はともに4万4400円になる)仕組みもありますが、仮に「年収約370万~約770万円」の人が12カ月間、高額療養費制度の対象となる高額な抗がん剤治療を受け、限度額適用認定証を利用したとしても治療費の自己負担金だけで65万円ほど (8万100円+α×3カ月+4万4400円×9カ月分)を見積もっておかなければなりません。

 また、2015年1月の高額療養費制度の改正で、いわゆる「上位所得者」と呼ばれる人たちの自己負担限度額は引き上げられたので、年収約770万円以上の人の経済的負担はいっそう重くなっています。こうしたことから、がん患者さんや家族の間では「高額療養費制度はそれほどあてにならない」といった批判が強いのも事実です。しかし、薬剤費の負担を少しでも減らすためには高額療養費制度の対象になる場合はぜひ活用し、そのうえで自己負担金の出費を補てんする方法を考えていきたいものです。

 

■困ったら医療ソーシャルワーカーに相談を

 出費を補てんする方法としては、(できるならば避けたいけれど)貯金を取り崩す以外に、民間の生命保険や医療保険、がん保険に加入していれば、そこから支払われる保険給付金を充てることも考えられます。健康保険に加入している人が療養のために働けず給与の支払いがない場合は最長1年6カ月傷病手当金が支給されますし、住宅ローンを払っている人は契約している団体信用生命保険に三大疾病保障特約がついていれば、がんと診断された時点(一部のがんは除く)でローンの支払いが不要になることがあります。こうしたお金を薬剤費に回すという方法もあるでしょう。

 いずれにせよ、経済的な問題を解決する糸口がほしいときは、この分野の専門家である医療ソーシャルワーカーに相談してみることをおすすめします。医療ソーシャルワーカーは、医療相談室(医療機関によって名称が異なる)に配置されていることが多く、がん診療連携拠点病院に指定されている医療機関では併設する「がん相談支援センター」に配置されています。がん相談支援センターでは地域の患者さんや家族からの電話相談も受け付けていますので、現在かかっている医療機関に医療ソーシャルワーカーがいないときは、このセンターの医療ソーシャルワーカーに相談してください。

●国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス/がん相談支援センターを探す」

http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/xpConsultantSearchTop.xsp別ウインドウで開きます

 

■「先輩患者の知恵」も参考に

 また、主治医に相談するのも一つの方法です。数年前、乳がん治療の現場を取材したとき、ある医師は診察室の壁に薬剤費の一覧表を貼り、患者さんにどのくらいの費用がかかるのかを説明したうえで、患者さんと費用面のことも相談しながら治療法を決めていました。現場の医師たちにとっても薬剤費の高額化は悩ましい問題の一つで、"金の切れ目が命の切れ目"にならないように費用についても気にかける医師が増えてきたように思います。薬剤費のやりくりが厳しくなったら遠慮せずに早めに相談したいものです。主治医に言いにくい場合は、医療ソーシャルワーカーから主治医に伝えてもらい、両者で解決策について検討してもらうという方法もあります。

 さらに参考にしたいのが"先輩患者の知恵"です。同じような状況を乗り越えてきた先輩患者の話を聞くことによって解決の糸口や具体的な方策が見えてくるだけでなく、経済的な問題への向き合い方を学ぶこともできます。また、自分と同じ問題を抱えている人がほかにいることがわかるだけでも気持ちがずいぶん楽になるといいます。先輩患者の話を気軽に聞ける場としては「がん患者サロン」があります。これはがん患者やその家族が集まり、アットホームな雰囲気の中で、がんのことを本音で語り合う交流会のことです。近年はがん診療連携拠点病院などの医療機関で定期的に開かれることも多くなりました。前出のがん相談支援センターに問い合わせると、地域で開催されているがん患者サロンの場所や日時などを教えてくれます。

 

*関節リウマチ、乾癬(かんせん)、クローン病、潰瘍(かいよう)性大腸炎、強直性脊椎(せきつい)炎など自己免疫性疾患の治療に使われる生物学的製剤をはじめ、がん以外の薬剤でも費用の高額化が問題になりつつあります。これらの薬剤は高額療養費制度の対象とならないことも多いので、患者の経済的な負担はがん同様に重いものです。薬剤費の支払いで困ったときの対応は、がん患者さんの場合と基本的に変わらないので、がん以外の病気の人もこの記事を参考にしていただけると幸いです。

 次回は「在宅介護に訪問看護サービスは必要?」について考えてみます。

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■アピタル編集部より

 「ちーちゃん教えて!」シリーズは、私たちが暮らしの中で感じる医療・健康・介護にかかわる悩みや疑問について、医療ライター渡辺千鶴さんにアドバイスしてもらいます。隔週木曜日に新しい記事を配信していきます。

<アピタル:メディカル玉手箱・ちーちゃん教えて!>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tamatebako/(アピタル・渡辺千鶴)

アピタル・渡辺千鶴

アピタル・渡辺千鶴(わたなべ・ちづる) 医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランス。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』の医学ページで「がん医療を支える人々」を連載中。