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 年齢を重ねるほど生活習慣病など何かしらの病気を抱えるようになります。通院治療すると、どうしても服用する薬の数が増えてしまいます。しかし、患者や家族からすると、「そんなに飲む必要があるのだろうか」「体に害を及ぼすことはないだろうか」という相互作用などへの不安もあります。薬の数を減らせたらいいと思っている人は少なくありません。このような場合、どうすればよいのでしょうか。(アピタル編集部)

 「78歳になるうちの母は、高血圧症に糖尿病を患ってコレステロール値も高いから、すでに5種類の薬を飲んでいるのよ。この間はめまいがすると言って耳鼻咽喉(いんこう)科を受診したら、さらに2種類の薬が処方されて、結局、毎日飲んでいる薬が7種類になっちゃったのよ!」

 こういう話はよく聞きます。高齢になると複数の病気を併せ持つため、それぞれの症状に応じて受診しているうちに、薬の数がだんだん増えていきます。

 2014年のデータをもとに厚生労働省が調べたところ、60代後半の人が処方される薬は平均3.5剤ですが、70代後半になると4剤になり、85歳以上では5剤になるという具合に、年齢を重ねるにつれて処方されている薬の数は多くなっていました。さらに2つ以上の慢性疾患を抱えている高齢者は平均6剤の薬を飲んでおり、認知機能が低下して自分では薬の服用や管理が難しくなっている認知症の高齢者にも、6剤以上の薬が処方されていました。

 こうして服用する薬の数が多くなるのに伴い、相互作用も出やすくなります。東京大学病院老年科に1995年~2010年の間に入院した高齢者を対象に投薬数と相互作用などの関係を調べた研究(2012年)では6剤以上の薬を飲んでいる患者さんだと相互作用などの問題が特に起こってくることが明らかになっています。そして、薬の相互作用で起こった症状に対応するために新しい薬が追加されて薬の数がさらに増えるといった悪循環にも陥りやすいのです。

 

■「自分が必要とする薬を選んで飲む」自衛策はキケン

 このように「必要以上にたくさんの薬を飲んでいて、薬によって相互作用など体に害を及ぼす症状が起こっていること」を医学的には「ポリファーマシー」と呼んでいます。このポリファーマシーについて、ようやく最近になって薬剤師や内科医を中心に関心を持たれるようになりましたが、以前から高齢者の中にはたくさんの薬を飲むことを心配して自衛策をとる人もいました。すなわちそれは「自分が必要とする薬だけを選んで飲む」という行為です。

 しかし、薬を飲むことを勝手に中止すると症状が悪化したり、思わぬ合併症を引き起こしたりすることもあるため、この自衛策はとても危険です。そもそも高齢者の場合は、この薬が自分の病気や症状にとって必要かどうかというよりも、薬のかたち(錠剤、カプセル剤、粉薬、シロップ剤など)が飲みやすいかどうかを優先する人が多いといった話を内科医から聞いたことがあります。いずれにせよ、自己判断で薬を選んで飲むことはやめましょう。

●日本薬剤師会「高齢者と薬」

 http://www.nichiyaku.or.jp/action/wp-content/uploads/2008/01/3_kusuri.pdf別ウインドウで開きます

 

■かかりつけ薬局を1カ所に決め「お薬手帳」は必ず持つこと

 では、高齢者が自分ですぐにできるポリファーマシー対策とはなんでしょうか。まず薬をもらうかかりつけ薬局を1カ所に決めて「お薬手帳」を必ず持つことです。これにより内科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、歯科など、いろいろな診療科でもらう薬を一元的に管理できます。そして、お薬手帳は診察券や保険証とともにいつも持ち歩き、薬局の薬剤師にはもちろんのこと、診察してくれた医師にも必ず見せるようにしましょう。この対応で同じような薬効を持つ薬の重複投与を避けられる可能性が高くなります。余談ですが、生活習慣病など慢性疾患の治療薬をもらうために定期的に同じ薬局を利用する場合、お薬手帳を提示したほうが薬の調剤料などの自己負担金が安くなります。

 また、5~6種類以上の薬剤を服用している高齢者は2016年4月に創設された「かかりつけ薬剤師」制度を利用するとさらに安心です。かかりつけ薬剤師は、医師が処方する医薬品だけでなく、市販薬、サプリメント、健康食品などを含め、高齢者がふだんから服用しているすべての薬について一元的かつ継続的に管理し、各診療科の主治医とも連携しながら高齢者が必要な薬を安心して飲めるように24時間態勢でサポートしてくれます。

 日頃、薬局を利用する中で信頼できる薬剤師に出会ったときに「かかりつけ薬剤師」になってもらうとよいでしょう。この制度は利用者の同意が必要となるため、書面で契約することになります。また、利用者がかかりつけ薬剤師を自由に選べる制度なので、いったん契約を結んでも途中で薬剤師を変更することも可能です。なお、利用にあたっては1割負担の人は1回あたり70円、2割負担の人は140円、3割負担の人は210円の自己負担金がかかります。

●メディカル玉手箱「本当に頼りになる薬局の見分け方」

 http://www.asahi.com/articles/SDI201603221908.html

 

■高齢者が入院したときは薬を減らせるチャンス!

 2016年4月から医療機関でポリファーマシー対策を行った場合、診療報酬(医療保険から医療機関に支払われる治療費)が適用されるようになったので、この対策に取り組む病院や診療所も増えています。病院の場合は入院患者を対象とすることが多く、入院したとき、病棟で働いている薬剤師が手術や入院治療に備えて家で飲んでいたすべての薬をきれいに整理してくれます。その際、ポリファーマシーの観点から薬の内容をチェックし、必要のない薬を服用していると判断したら主治医と相談して減らしてくれることがあります。

 つまり、高齢者が入院したときは薬を減らせるチャンスなのです。診療報酬では6種類以上の内服薬を4週間以上飲んでいる人が対象となりますが、処方されている薬の数が多くて気になる人は、薬剤師が服薬指導で病室に回ってきたときにぜひ相談してみましょう。そして入院中にポリファーマシー対策をしてもらったら、家に帰ってからも継続できるように診療所のかかりつけ医にお薬手帳を見せて退院時の処方内容を知らせておくことが大切です。

 また、通院患者の場合も入院患者と同様に6種類以上の内服薬を4週間以上飲んでいる人が診療報酬の対象となりますので、この条件にあてはまる人は主治医やかかりつけ医に一度相談してみるのもよいでしょう。病院の中には「ポリファーマシー外来」を設置しているところも出始めています。なお、診療報酬が適用された場合、患者が支払う自己負担金は入院・外来ともに1割負担の人で250円(入院/退院時に1回、外来/月1回)、2割負担の人で500円(同)、3割負担の人で750円(同)になります。

 

 次回は「緩和ケア、いつから利用する?」について一緒に考えてみます。

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■アピタル編集部より

 「ちーちゃん教えて!」シリーズは、私たちが暮らしの中で感じる医療・健康・介護にかかわる悩みや疑問について、医療ライター渡辺千鶴さんにアドバイスしてもらいます。隔週木曜日に新しい記事を配信していきます。

<アピタル:メディカル玉手箱・ちーちゃん教えて!>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tamatebako/(アピタル・渡辺千鶴)

アピタル・渡辺千鶴

アピタル・渡辺千鶴(わたなべ・ちづる) 医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランス。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』の医学ページで「がん医療を支える人々」を連載中。