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 がんと診断され、主治医から手術などの治療方針を告げられたとき、緩和ケアのサポートを受けることを勧められることがあります。「緩和ケア」と聞くと、「それほど病状が悪いのかな」と落ち込む人もいます。一般的には、終末期に受けるサポートのイメージがまだまだ強いですが、治療の初期から受け始める緩和ケアは、どのようなものなのでしょうか。(アピタル編集部)

 重い病を抱える患者やその家族の心身の痛みやつらさに対応し、その人らしい生き方を支える緩和ケア――。

 この言葉を聞いたとき、多くの人は「がんの終末期」をイメージするようです。また、がん患者さんや家族の中には、主治医から緩和ケアの利用を勧められると、見捨てられたような絶望的な気持ちになり、医療に対する怒りや不信につながる人も少なくないといいます。これまで長い間、緩和ケアは治癒を目指した治療が有効ではなくなった人を中心に提供されてきたので、一般の人がこうしたイメージや感情を抱くのは仕方がないことかもしれません。

 しかし、今や緩和ケアの対象となるのは終末期の患者さんだけではありません。医師や看護師など医療スタッフの間では「がんと診断されたときから提供するもの」という考え方が主流になりつつあり、手術や抗がん剤治療、放射線治療と並行して緩和ケアを積極的に行うようになってきています。この背景には、WHO(世界保健機関)が早い段階からの緩和ケアの提供を勧めていることに加え、わが国のがん医療対策においても重点課題の一つとして緩和ケアの整備が進められていることがあります。

 

診断直後から緩和ケアを受けた患者のほうが長生き

 がんと診断されたら、治療の早期から緩和ケアを行うことによって治療的効果があることも科学的に明らかになってきました。今年6月に京都市で開催された第21回日本緩和医療学会学術大会でも興味深い研究が紹介されています。講演した米国・アラバマ大学のマリー・バキタス教授によると、米国には早期からの緩和ケアを提供する「ENABLE」と呼ばれる取り組みがあり、このサポートを受けた患者は受けなかった患者と比べQOL(生活の質)がよく、抑うつ状態に置かれている割合も少なかったそうです。さらにサポートを受けた患者のほうが5.5カ月長生きしていたこともわかりました。

 また、進行がんの診断を受けてすぐに緩和ケアを開始した患者と診断から3カ月後に緩和ケアを開始した患者を比較したところ、前者のほうが生存期間が長く、介護している家族の抑うつ状態や介護負担も少なく、QOLが改善する傾向も示されたそうです。緩和ケアは療養生活をよりよくするだけでなく、生存期間を延ばせる可能性があることも、患者や家族はよく知り、がんと診断されたときからサポートを受けるようにしたいものです。

 

苦痛やつらさを感じたときは主治医や看護師に相談を

 緩和ケアのサポートを早期から受けたいとき、患者や家族はどうすればよいのでしょうか。この記事の冒頭でも触れたように、ありとあらゆる心身の痛みやつらさに対応し、その人らしい生き方を支えることが緩和ケアの目的です。したがって治療を受ける過程で苦痛やつらさを感じたときは、どんなにささいなことでも遠慮せずに主治医や病棟看護師に相談しましょう。たとえば、「抗がん剤治療のせいで吐き気があって食べられない」といった悩みがあるとき、主治医は吐き気止めの薬の量を増やすなどの対応を行い、病棟看護師は食べられるときに食べられそうなものを少量ずつとることを勧めるなど食事に対するケアを行ってくれます。それでも患者さんの悩みが解消されないとき、主治医や病棟看護師は「緩和ケアチーム」に相談します。

 緩和ケアチームとは緩和ケアを専門的に行う医療チームのことで、「緩和ケア医」と呼ばれるこの分野の専門の医師を中心に、精神科医、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、管理栄養士、理学療法士など、さまざまな職種により構成されています。主治医や病棟看護師から相談を受けた内容をチームで話し合い、患者さんや家族の状態・状況に最も必要とされる医療スタッフを中心に、間接的あるいは直接的にサポートを行います。

 先ほどの例では、緩和ケア医と薬剤師が吐き気止めの量をもう一度見直したり、精神科医や臨床心理士が精神的なつらさが吐き気の原因になっていないか検討してくれたり、管理栄養士が食べやすいように流動食を作ってくれたり、柚子やレモンなどの食材を使って食欲をそそるための工夫をしてくれたりします。

 こんなふうに苦痛やつらさを和らげてくれる医療スタッフとつながるためにも、まずは主治医や病棟看護師に相談してみてください。また、緩和ケアチームは定期的に各病室を回っているので、その際に直接相談する方法もあります。ただ、がん診療連携拠点病院や大学病院などがんを専門的に治療する病院以外の医療機関では緩和ケアチームを設置していないところもあり、どこの病院でも多職種による手厚いサポートを受けられるとはかぎらないのが実情です。主治医や病棟看護師に相談しても緩和ケアのサポートを行ってもらえない場合は、看護部に連絡して「がん看護専門看護師」、「緩和ケア認定看護師」、「がん性疼痛看護認定看護師」などの専門ナースが在籍していたら紹介してもらい、相談に乗ってもらいましょう。

 

緩和ケアセンターを利用し、切れ目のない支援を受ける

 がんの早期から迅速かつ切れ目のない緩和ケアを提供できるように、国ではその体制づくりに乗り出しており、都道府県がん診療連携拠点病院を中心に「緩和ケアセンター」が次々に設置されています。この中には、緩和ケア医などが対応する「緩和ケア外来」、がん看護専門看護師などが相談に応じる「緩和ケア看護外来」といった機能も備えられているので、通院で治療を受けている患者さんや家族は主治医に相談し、このような専門外来を利用するのもよいでしょう。医療機関によっては他の病院でがんの治療を受けている患者さんや家族にも対応しているので、緩和ケア外来や緩和ケア看護外来でのサポートを希望する場合は、がんの治療を受けている主治医に相談して紹介状を書いてもらうか、病院の医療連携室に連絡してかかり方について尋ねましょう。

 緩和ケアセンターでは、がんの病状が進行し、療養を中心とした病院や緩和ケア病棟、ホスピスに転院したり、在宅医療に移行したりしたときも、在宅医や訪問看護師、薬局薬剤師をはじめ地域の医療関係者と緊密に連携し、どこで療養しても緩和ケアが切れ目なく受けられるよう体制を整えてもらえるので安心です。

 緩和ケアセンターがない医療機関にかかっている人で、継続的な緩和ケアを希望する場合は医療連携室の看護師や医療ソーシャルワーカーに早めに相談し、他の病院や在宅医療に移っても緩和ケアが受けられるよう体制を整えてもらいましょう。国立がん研究センターがん対策情報センターが運営する「がん情報サービス」に掲載されている「がん診療連携拠点病院」の個別情報には緩和ケアの項目があり、それぞれの病院がどのような緩和ケアのサポートを行っているのかを調べることができます。こうした情報もぜひご参考に。

●国立がん研究センターがん対策情報センター「がん診療連携拠点病院などを探す」

 http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/xpKyotenSearchTop.xsp別ウインドウで開きます

 

 次回は「原因不明の困った症状、どこに相談に行けばいい?」を取り上げます。

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アピタル編集部より

 「ちーちゃん教えて!」シリーズは、私たちが暮らしの中で感じる医療・健康・介護にかかわる悩みや疑問について、医療ライター渡辺千鶴さんにアドバイスしてもらいます。隔週木曜日に新しい記事を配信していきます。

<アピタル:メディカル玉手箱・ちーちゃん教えて!>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tamatebako/(アピタル・渡辺千鶴)

アピタル・渡辺千鶴

アピタル・渡辺千鶴(わたなべ・ちづる) 医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランス。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』の医学ページで「がん医療を支える人々」を連載中。