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 ADHDが疑われる主婦サチコさん(40代女性)は、日々の家事や子育てに行き詰まっています。どうしてもやる気をもてず、いつも追われてばかりなのです。こうした悩みをどうしたら解決できるのでしょうか。

 

 前回解説したように、ADHDの方のやる気にまつわるキーワードは、以下の3つでした。

①すぐに結果の出ないことにはやる気が出ない。

②新しいことに興味を持つが、同じことの繰り返しにはやる気が出ない。

③やっちゃだめなことでも、我慢がききにくい。

 

 そのため、サチコさんにとって、家事や育児のように、毎日の繰り返しで、すぐに結果の出ないことは、退屈で苦手なことだったのです。

 さて、こうした特性は、基本的には変わらないものです。それならば、この特性をうまく利用しながら、生活をうまく回せるようにしていきましょう。

 上の3つのポイントの番号に対応して対策の例を挙げてみます。

 

>①細かく分けて達成感を味わう。

 「家事を全部終わらせてから外出しよう」とすると、すべての家事を終わらせるまでの1時間ほど先にしか、終わらせた達成感という「ご褒美」はもらえません。これでは報酬遅延勾配の急なADHDの方は待てません。そんな、すぐに結果のでないことに対してやる気が起こらないのです。きっとテレビを見ながら「うーん、家事しなくちゃなあ、これ終わってからねー」と先延ばしして、テレビを見ながらも「やんなきゃなあ、でも面倒だなあ」という葛藤を抱えながら、手放しではテレビを楽しめないことでしょう。

 「家事」と1つに大きくまとめてしまわずに、「皿洗い」「そうじ」「洗濯物干し」と細かく区切ってみるとどうでしょう。最初から全部やろうと思うと、気が滅入ってしまいますが、「とりあえず皿だけ洗おうか」と考えればハードルが下がりませんか? それでもハードルが高いと感じたら、「よし、だまされたと思って、スポンジに泡をつけるだけつけてみよう」「ちょっと水で汚れを落とすだけさ」と、少しだけエンジンをかけてみましょう。そうすれば、「どうせここまでやったのなら、、」とあとは自動的に進んでいく、という経験はありませんか。

 とにかくコツは、小刻みに家事を分けて、こまめに結果を出して達成感を感じることです。

 

>②常に新しいやり方をとりいれる。

 毎年年末になると、テレビでは「大掃除特集」が組まれます。「今年は○○を使ってラクに掃除!」とか、「あら簡単!○○だけで頑固な汚れがとれた!」とか、毎年のように新しいワザの紹介があります。掃除の仕方にも調理の仕方にも、ブームがあるようですね。

 ADHDの方は、とにかく新しい刺激が大好きです。毎回同じやり方だと、退屈を感じて、まずやる気が起きません。自分でもあきれるくらいに、自分を飽きさせない工夫をし続けましょう。流行にあえて乗ってみるのはよい作戦です。YouTubeなどで裏技を探してみるのも、やる気を出すために役立つでしょう。

 また、定期的にこなさなければならない大掃除を「イベント化」するのもよいでしょう。「さて、○○ちゃんは、窓ふき係ね!ママは、換気扇係!パパはベランダ係。さて、誰が一番早く終わるかな!用意ドン!」といったかんじです。

 

>③やりたくないことを先に終わらせる&誘惑になるものをしまっておく。

 ADHDの方は、やりたいことや興味のあることを目の前にすると、飛びついてしまうという特性がありましたね。我慢のききにくい脳の特徴があるのです。このことを自覚して、行動パターンを決めてしまいます。

 たとえば、書類の作成をしなければならないときに、テレビをつけたままにしておくと、確実にテレビの誘惑に負けてしまいます。テレビを消しておく、くらいの対処ですめば軽症でしょう。テレビが見たくても見られない場所(テレビのない別の部屋に移動する、カフェへいく、電車やバスの中など)で作業するのがよいでしょう。

 また、帰宅後夕食も作らなければならないし、洗濯物も取り込まなければならないし、お風呂に入らなくてはならないし、子どもの宿題も見なくてはならないし・・・と、やるべきことがてんこ盛りにある方の場合。疲れて帰宅して、ほっとひと息ついてから家事をスタートさせる作戦はお勧めしません。なぜなら、ほっとひと息ついてしまうと、ついついスマホを見てしまう、お菓子が食べたくなる、テレビを付けてしまう・・・と圧倒されるほどの家事から全力で逃げ出したくなるからです。

 一度家事を後回しにしてしまうと、再び重い腰を上げて家事に取りかかり始めることは、限りなく不可能に近くなります。思い出してください。ADHDの方は、他の方よりも毎日の家事に対して極端にやる気が起こらないタイプなのです。そのままずるずるとテレビを見続けて、朝まで風呂に入らずうたた寝してしまうことだってあるかもしれません。

 となると、「やりたくないことが先! ひと息もつかずに玄関から台所へ直行しよう!」が正解です。家事をしながら、「これを片づけたら、達成感に浸りながらアイスを食べるんだ!」「やるべきことを後回しにして食べるアイスなんて、美味しくない」そう言い聞かせてください。

 

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 余談ですが、お風呂に入るのがずるずる後回し・・・という一人暮らしの方には、「帰宅したら玄関で素っ裸」になって、風呂に入らざるを得ない状況を作り出すことをお勧めしています。リビングに入ってしまえば、テレビも心地よさそうなソファの誘惑もあります。その前に食い止めるのです。風呂が先に済めば、さっさと洗濯機が回せるというメリットもあります。

 

 いかがでしたか。このお話は次回も続きます。

 

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。