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 今回も、ADHDが疑われる主婦サチコさん(40代女性)のお話です。

 

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 実は、サチコさんは家に帰るのが嫌でしょうがありません。家が、汚いのです。

 玄関には10足以上の靴が常に並べっぱなしになっています。傘立てには、大量のビニール傘があり、そのうちいくつかは壊れています。玄関の靴箱の上には、「いつか見るはず」の未開封のダイレクトメールが、チラシや重要そうな手紙と共に山積みになっています。

 リビングでは、子ども達がゲームに熱中していました。おなかがすいたのでしょう。床にはスナック菓子の殻が散らかっています。ソファの上は、ずいぶん前から「アイロンをかけるつもり」のシャツや、片方失くしたままの靴下、「時間ができたらボタンをつける予定」の服などに占領されています。台所には、朝ご飯の食器がそのまま残り、脱衣所は洗濯機に入りきらない大量の洗濯物であふれています。

 サチコさんは、掃除も洗濯も料理も大の苦手なのです。

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 サチコさんの最も大きな悩みは、この部屋の片付かなさでした。部屋があまりに汚いので、そのことで夫と喧嘩になることもしばしばです。

 実際、ADHDの特性を持つ主婦のお悩みのナンバー1は、「片づけられないこと」です。部屋の環境として、一目瞭然ですから、家族からの苦情も多く寄せられます。それだけでなく、片づけられないことは、別の問題をたくさん生じさせます。

 ① 印鑑や書類など、大切なものを失くす(片づけられないわけですから、何がどこにあるかわからないのです)。このため、再発行の手続きや追加の費用などの手間と出費が常にかかり、社会的信用も失う。

 ② たいていテーブルやソファなどくつろぐためのスペースに、物が積まれていてくつろげない(下手すると足の踏み場もない)。その結果、家が居心地悪いものとなり、外出を好むようになる。体が疲れる。

 ③ 衛生面からもよくない。片づかない部屋は当然掃除もしにくいもの。

 ④ 時間を無駄にする。探し物に追われる時間、動線の悪さから生じる余計な時間がかかる。

 ⑤ 汚い部屋の様子は、家にいる限りずっと目から飛び込んでくる。視覚情報の影響力は大きく、毎日繰り返し私たちを刺激して、「片づけられない私はだめだ」と自己評価を下げる。

 ここにわざわざ挙げなくとも、片づけられないことから生じるデメリットは、誰でも痛感しているところですね。それでは、なぜADHDの方は片付けが苦手なのでしょうか。

 

 ここでも、ADHDの方の脳の特性が関係してきます。

 脳にはいろいろな働きがありますが、中には「実行機能」と呼ばれる働きがあります。これは、前もって計画立てて実行していく働きのことをいいます。

 片付けという作業の工程は大まかに示すとこういうかんじでしょうか。

 ① 何が必要で、何が不要(捨てるもの)かを区別して、捨てる

 ② 必要なものの置き場を決める

 ③ 使ったら元に戻す

 ④ 不要なものを増やさない

 これで、きれいが保てるというわけです。

 

 これらの工程のどこかでつまずいているか、どれかをしていないから、片づかないのです。もし、ADHDの特性がこれらの工程をすべて邪魔してしまうとしたらどうなるでしょうか。

 ① 何が必要で、何が不要(捨てるもの)かを区別して、捨てる

  (そもそも計画を立てる習慣がなく、行き当たりばったりなので、しない)

 ② 必要なものの置き場を決める

  (①と同じ。置き場所を前もって決めたりしていない)

 ③ 使ったら元に戻す

  (報酬遅延勾配が急《すぐに結果が出ないことにはやる気を起こせない》。すぐ元に戻さないことですぐになんらかの報酬が生じたり、即座にヒドイ目に遭うわけではないので、やる気がでない。結果、元に戻す事自体を忘れてしまう。さらに、新しいものを好み、それに飛びつく衝動性から、元の場所に片づけるより先に、他のもっと楽しそうな活動に飛びついて始めてしまう)

 ④ 不要なものを増やさない

  (衝動買いが多いのは前回お示ししたとおりです。"必要だから"ではなく、"かわいいから""お得だから"などの理由で衝動的に買い物をするため、不要品があふれてしまう)

 

写真・図版

 今回は、少し辛口だったような気もしますね。次回は片づけられないことへの対処法をご紹介いたします。

 

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 私が翻訳に関わった本ですが、読んでいて本当に興味深く、面白い本でした。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・主婦の隠れたADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。