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 前回までに、大人のADHDの方が片付けの苦手な理由と、対策を、タイプ別にご紹介してきました。今回は、ADHDが疑われる主婦サチコさん(40代女性、小学生の子ども2人と夫の4人暮らし)が実際にお片づけに奮闘します。

 サチコさんの現状はこんな感じでした。

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 実は、サチコさんは家に帰るのが嫌でしょうがありません。家が、汚いのです。

 玄関には10足以上の靴が常に並べっぱなしになっています。傘立てには、大量のビニール傘があり、そのうちいくつかは壊れています。玄関の靴箱の上には、「いつか見るはず」の未開封のダイレクトメールが、チラシや重要そうな手紙と共に山積みになっています。

 リビングでは、子ども達がゲームに熱中していました。おなかがすいたのでしょう。床にはスナック菓子の殻が散らかっています。ソファの上は、ずいぶん前から「アイロンをかけるつもり」のシャツや、片方失くしたままの靴下、「時間ができたらボタンをつける予定」の服などに占領されています。台所には、朝ご飯の食器がそのまま残り、脱衣所は洗濯機に入りきらない大量の洗濯物であふれています。

 サチコさんは、掃除も洗濯も料理も大の苦手なのです。

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写真・図版

 最初に申しておきますが、部屋が散らかるのは家族全員のせいです。散らかる原因も家族全員だし、片づける責任も全員にあります。なので、サチコさんの家庭の場合にも、サチコさんのことを部屋が汚くなった元凶のように言うのは間違っています。

 なのに、夫は"サチコさんは専業主婦なのだから、家事くらいちゃんとして欲しい"と思っています。

 サチコさんもまた、「家のことさえちゃんとできない私には、外で仕事をするなんて無理」と思っています。「世の中の女性はいったいどうやって毎日をまわしているんだろう。私には毎日ご飯を用意するのだって、気が遠くなりそうな大変な作業。これが死ぬまで続くなんて逃げ出してしまいたいくらい」

 こんなかんじなので、サチコさんはよく夫と喧嘩(正確にいえば夫から注意されてへこんでばかり)もしますし、自分のこと「つまらない人」「だらしない人」と責めて自己嫌悪に陥っていくばかりです。

 

 サチコさんのように、ADHDの特徴を多くお持ちの主婦の方は、「このくらいは主婦の義務」「夫に叱られないように」(ADHDの人は小さい頃から親に叱られたり、誰かを怒らせたりする経験が多いといわれています。そのため、自分が人を怒らせるのではないかとヒヤヒヤしやすく、他人の怒りに敏感です)といった動機で、片付けを始めようとすることが多いようです。

 しかし、前にもお話ししましたように、ADHDの人の脳は「義務だから」「怒られるから」といった動機だけでは、報酬系がうまく活性化しません。要はその理由ではやる気が継続しないのです。

 なので、お片づけへの第一歩目にして、最大のポイントは、「いかに、自分が"ぐっとくる"お片づけの理由をみつけるか」にかかっています。

 

 「ぐっとくる」ポイントは明白です。

① すぐに結果がでて(報酬は遅延せず)

② 目新しいもので(飽きない)

③ 誘惑の少ない環境を作り上げる(やっちゃだめなことを我慢する力は弱いから)

 サチコさんの例で、それぞれの項目をもっと詳しく解説してみます。

 

① すぐに結果が出る

 サチコさんの家の散らかりポイントは、次の5カ所にわたっていました。

 ・出しっぱなしの靴@玄関

 ・未開封のダイレクトメールの山@靴箱

 ・アイロンのかからないままの服@ソファ

 ・洗っていない食器@台所

 ・洗濯していない服@脱衣所

 どれも部屋の景観を乱すだけでなく、生活上の支障もありました。でも、これらが数ヶ月前からずっとこの状態ということは、ある意味「すぐには困らない」のかもしれません。だからこそ、たまっていったし、放置されてきたのです。すぐに「困った」結果は出ないから、ぐっとこなかったんですよね。片づけて得られるすっきり感よりも、多少不便でも見てみぬふりをするラクさが上回るのでしょう。

 これらのうち、生きて行くのに、ただちに困りそうなのは、洗っていない食器と洗濯していない服ではないでしょうか。これらが、お片づけする理由としては、よりぐっとくるものになります。何しろ、食べる、着るという生活に直結するものだからです。まずは、「台所の食器、脱衣所の洗濯物あたりが片づくとどんないいことがあるかしら」「逆にためたままだとどんな悪いことになるかな」とイメージしてみましょう。すぐ困ったり、すぐ便利になったりと結果が早く出るものを、優先的にターゲットにするのです。

 

 違った観点からみると、こういう方法もあります。

 出しっ放しの靴も、山積みのダイレクトメールも、アイロンがけ待ちの洋服も、日々目につくところにあると、「ああ、やんなきゃなあ」と自分のだらしなさを指摘され続けているようでうんざりしますね。テレビを見ていても、ご飯を食べていても、集中できないほど邪魔に感じているかもしれません。「もう慣れちゃったわよ」という方も、部屋をきれいに片付け終えたあとに「ああ、これまであれらに苦しめられていたのね」と気づくことでしょう。これらを「すぐに」一掃してしまう、大胆な方法があるとしたら、少しはやる気がわきませんか。極端な行動ほど、よいでしょう。

 たとえば、

● 靴箱に入りきらない靴は捨ててしまえ:

 一定の量の制限をかけることで、これまでにない刺激を受けて(新しいもの好きの特性もいかせますね)、「え! まって、まって、わかった! 急いで、いる物といらない物を分けるからさ」と思い切って捨てる決心をつけることができます。できれば家族や友人たちを巻き込んで「今日はとにかく靴の断捨離です!」「今から5足捨てます」そんな宣言をしてみましょう。

● 置き傘大作戦の決行:

 サチコさんの場合、突然の雨や、予報を見ていなくて傘を持っていき忘れたときに、ビニール傘は手軽に買えるため、増える一方でした。いっそ逆の発想で、「傘は忘れるものだ」ということを前提にして、よく訪れる場所に置き傘してしまいませんか。最近は駅で無料の傘が貸し出されているところもありますね。大量にあるのなら「これ使ってもらえませんか」と寄付してもよいでしょう。車に、可能なら公民館に、人によっては職場に、お守りのように置いておくと安心です。玄関においていても、ほとんどの「サチコさん」は持って行き忘れているんですから。

● ダイレクトメールをすべて未開封のままBOXにしまいこんでしまえ!:

 そんなことをしたら、いずれいろいろ困るんでしょうけれど、ひとまず靴箱の上はきれいになります(ぱっと「きれいになる」という結果が得られるんです)。これは応急措置であり、最もしてはいけないダイレクトメールの管理方法です。しかし、ため込んでいてどうしても片づけられない人が、やる気を出す為の方法です。必要な書類がない…という、いざとなったその時に、そのBOXをひっくり返して探してみましょう。そして身をもって「だめだ! そんなBOXを作ったって解決にならないんだ!」と懲りてみるのです。

 ADHDの方にお勧めしているダイレクトメールの処理方法は、「毎日その都度」処理です。しかも帰宅してポストを明けたら、そのまま、テーブルの上にも鞄の中にもしまわず、手に取って鞄を肩にかけたままごみ箱の前に直行です。その場でいらないものを捨てて、必要なものを鞄の中の手帳にはさみこみます。

● アイロンをかけていないシャツ、ボタンのとれたままの服、片方みつからない靴下にもお別れをいいましょう:

 この数ヶ月、アイロンをかけなかった。ボタンをつけなかった。片方みつからなかった。これが事実です。これが答えです。これらのアイテムを、サチコさんは使いこなせないのです。今回がんばってやる気を出せたとしても、いずれまた同じことを繰り返すでしょう。

 ボタンひとつとれただけで捨てることに、抵抗があって当然です。「私はボタン1つとれただけで服を捨てるようなやつなのか!」と、たくさん葛藤してみます。あまりに葛藤が強かったら、チャンスです。さあ、今こそボタンをつけるときです。ボタンをつけるためには、糸と針とはさみとボタン(これが無くなっていると話がややこしくなりますね。似たボタンを探しに手芸店に足を運ぶゆとりがあるでしょうか?)は手元にありますか? それらをそろえる計画を立てましょう。手芸キットはコンビニでも売っています。ボタンはうまくいけば、服の内側に縫い付けられています。なかったら、どこの手芸店にいつなら買いに行けそうでしょうか。計画を立てるとよいでしょう。

 片方みつからない靴下には、きっと未練はないはずです。今は、アイロンがけの必要ないシャツもたくさん売っていますね(中性洗剤を使って、洗濯機のデリケートコースで洗うだけでも、しわはずいぶん防げるものです)。これらのアイテムを「もったいない」と思うことより、ソファが占領されて家族みんなでくつろげない方がもったいないのです。

 

 いかがでしたか? ポイントは、ざっとやって早く結果の出る場所・方法を選ぶことでした。②目新しいもので(飽きない)、③誘惑の少ない環境を作り上げる(やっちゃだめなことを我慢する力は弱いから)については、次回に続きます。

 

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 私が翻訳に関わった本ですが、読んでいて本当に興味深く、面白い本でした。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・主婦の隠れたADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。