[PR]

 この夏、国民の祝日「山の日」(8月11日)が初めて実施され、北アルプスなどは大勢の登山者でにぎわいました。「山ガール」などの登山ブームが続くなか、遭難に備えて登山届の提出を義務づける自治体が増えています。2014年の御嶽山の噴火災害を教訓に、安否確認や迅速な救助活動に役立てるためです。簡単に加入できる山岳保険も増えています。9月から北アルプスなどは秋山シーズンを迎えました。山岳関係者は安全登山を呼びかけています。

 長野県松本市の上高地は、北アルプス槍・穂高連峰の登山口として知られています。夏山シーズンの8月は、午前5時過ぎから首都圏や関西などから「登山バス」が続々と到着し、バスターミナルの「上高地登山相談所」で登山届(登山計画書)を提出する登山者の列ができました。

 長野県は昨年12月、長野県登山安全条例を制定しました。7月1日から、槍・穂高連峰などの指定登山道を通る場合、登山届の提出が義務づけられました。登山届の提出は、長野県のホームページからネットでも出来ます。

 「山の日」の8月11日午前5時過ぎ、「第1回『山の日』記念全国大会」の会場となった上高地のバスターミナルを訪ね、登山相談所を取材しました。

 登山相談所に詰めている登山相談員の今川剛之さん(71)は「登山届はネットでも提出できますが、去年は登山届を出さずに相談所を通過して行く登山者が目立ちました。今年は7割近くが提出しています。登山条例の義務化が周知されたようです」と話してくれました。事前に作成した登山計画書を提出する登山者も多く、所定の登山届のスタイルでなくともかまわないのです。今川さんは「登山計画書を作成する段階で、登山の楽しみが始まっているのです」と笑顔を見せました。

 取材中も、今川さんは登山者の対応に追われていました。「ネットで登山届けを出したけど、ここでも出さなければいけませんか?」「登山届を出さないと、罰金を取られますか?」など様々でした。登山届を受け取った今川さんは、「行ってらっしゃい」「山を楽しんできてね」などと声をかけて、登山者を見送っていました。

 

 前回、報告したワンコイン(500円)で加入できる山岳保険の自動販売機も好評です。14年10月に設置されました。領収券のシールを登山届に貼り、提出箱に投函します。補償期間1カ月で、遭難時の救助費用として最高100万円の補償が受けられます。今川さんによると、夏山シーズン中の週末は、領収券を貼った登山届が30通近くあったそうです。

 最近は、韓国人の加入が増え、十数人の登山ツアー客らは自販機でまとめて領収券を購入しているそうです。自販機の前には韓国語の案内も置いてありました。今川さんは「韓国人登山者は自販機の存在を知っていて、日本語を話すツアーガイドが手続きをしているようです」と教えてくれました。

 14年9月の御嶽山の噴火では、死者・行方不明者63人のうち登山届を提出していたのは11人でした。安否確認の遅れにつながったことから、政府は昨年末に施行した改正活火山法で、火山周辺の自治体に対して登山者の情報把握に努めるよう明記しました。

 登山届の提出義務化を柱とした条例は、富山、群馬の両県が1960年代に作っていましたが、御嶽山の噴火を受けて、新潟、長野両県が相次いで制定しました。新潟県は新潟焼山の活火山地区が対象です。岐阜県は、2年前から北アルプスの登山者に提出を義務づけていましたが、昨年に御嶽山と焼岳の一部を追加し、今年12月から活火山の白山も加えます。長野県以外は5万円以下の過料などの罰則規定があります。

 一方で課題もあります。火口付近まで車で行ける山など観光客がアクセスしやすい場所もあり、内閣府の防災担当者は「多くの利用者が簡単に入山できる場合、一人ずつ登山届を出させるのは難しい。ただ、ネットでも簡単にできるので積極的に提出してほしい」と呼びかけています。

 日本山岳ガイド協会は、パソコンのホームページかスマホのアプリから届け出ができる専用の無料サービス「コンパス」を運用しています。下山予定時刻を7時間過ぎても登山者から報告がなかった場合、緊急連絡先の家族らにメールが届くシステムです。

 

<アピタル:近藤幸夫の山へ行こう・健康と安全>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/climb/(近藤幸夫)

近藤幸夫

近藤幸夫(こんどう・ゆきお) 朝日新聞山岳専門記者

1959年。岐阜市生まれ。信州大学農学部卒。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で、北アルプスを中心に山岳取材をスタート。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。現松本支局長兼山岳専門記者。