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 2016(平成28)年度の診療報酬制度の改定により、4月から「紹介状なしの大病院受診時の定額負担」が強化されています。ただし、私が働いている自治体病院など条例制定が必要になる医療機関では、実施までに6ヶ月の猶予が与えられていました。しかし、ついに今月1日より完全施行が義務化されています。

 具体的には、500床以上の大病院を紹介状なしで受診すると5,000円以上の特別料金を、他の医療機関への紹介を受けたにもかかわらず再診してきた場合には2,500円以上を、診察料とは別に患者さんは毎回支払うことが求められます。

 このように、通常の保険診療とは別に追加して医療サービスの費用負担を求めることを「選定療養費」と呼びます。選定療養費は、患者に医療サービスを選択させる代わりに全額自己負担が原則となります。代表的なものとしては、個室に入院をした場合の「差額ベッド代」がありますね。

 本来、選定療養費とは、自己負担の枠を明確にすることで、保険診療制度を守りつつも患者さんの選択の幅を広げようとするものでした。ただし、大病院の受診時に追加される選定療養費とは、医療機能の分化・連携を推進する仕掛けの一部として設定されています。つまり、「紹介状がなくてもカネさえ出せば大病院を受診できる」のではなく、「紹介状なしに大病院を受診するとペナルティが課せられる」と理解します。救急医療や重症入院に対応している病院が、落ち着いた状態にある患者さんの対応まで抱え込まないようにするため、大病院を受診したときの費用負担を増やすことで軽症者や慢性疾患の患者さんを診療所へと誘導しようとしているのですね。

 ただし、どのような制度にも例外規定はあります。この選定療養費が適用されない例外として、救急の患者さん、労災の患者さん、住民健診により精密検査の指示があった患者さんなどがあります。また、私たち感染症の領域だとHIV陽性者のように、一般の診療所での対応が困難と考えられる患者さんも例外です(個人的には、HIV診療は地域に移行すべきだと思ってますが・・・)。さらに、生活保護など公費負担医療の受給者も例外とされています。

 この制度、10月1日から完全施行が求められているので、私の外来を通院されている患者さんへも「再診料」が高くなることを説明しながら、近隣の診療所への紹介を進めてきたところです。数十年にわたり私の病院に通院してきた方を「おカネの話」で説得するのは申し訳ない気持ちにもなります。

 昨日の外来診療でも、そんな高齢者を何人か説得して診療所へと紹介しました。そのなかには、病院のすぐそばに住んでいて、杖歩行でなんとか来院されている高齢女性もおられました。今後は離れたところにある診療所へとタクシーで通うようになります(選定療養費よりもタクシー代の方が安いのです)。診察室を出るときに、「今日まで大変お世話になりました。これからも地域のために頑張ってください」と深々と頭を下げられたのに、むしろ心が痛みました。皆、いろんな事情で病院に通院され、そして病院を支えてくださっていたのです。

 さて、こうしたなかで、例外的に残ってゆくのが生活保護の患者さんです。もちろん、やはり様々な事情で通院されている方々なのですが、この制度では負担を求めないことになっているので、どうしても大病院に残りがちです。私の病院の事務方も「生活保護の方は紹介しなくてもいいんですよ」と平気で言ってます。おそらく、市町村の生活保護担当者もそう考えていることでしょう。

 なぜ、生活保護には負担を求めないことになっているのでしょうか? 詳しい議論は知りませんが、おそらく費用負担ができず未収金となる可能性が高い、そして受診を控えるようになるリスクがあるからだと思います。

 ただ、だからといって・・・ 生活保護の患者さんを医療機能の分化・連携における例外とするべきではないと私は思います。医療機関側の努力も必要ですが、市町村の生活保護担当者も病院任せにせず、医療を適切に受けるように促していただきたいですね。

 生活保護は、社会のセーフティネットとして守ってゆかなければなりません。私たちが想定するよりも、少しだけ網を細かく、そして広めに設定してゆくべきだと私は考えています。ただ、特別扱いにすることは別です。社会一般に求めている責務があるのなら、生活保護の受給者にも求めてゆくべきです。

 2014年(平成26年)の医療法改正では、国民は「医療を適切に受けるよう努めなければならない」(第六条の二第三項)とする条文が加えられました。その枠外に生活保護をおいたままとしてはなりません。

 私が危惧しているのは、数か月後、医療保険の患者さんから不満があがりはじめることです。外来の待合室で、高齢の患者さんたち(とくに女性)は、医者や病院の噂話をしながら長い待ち時間を過ごされています。たとえば、私の休診の予定とか、その理由とか、診察室に入る前から皆さんよくご存じです。そして、どの患者さんに転院を勧めたかってことも、噂になっていることがあります。

 今後、生活保護の患者さんが大病院に残されてゆくとすれば(そのことを見抜かれてしまえば)、これは私たち地域医療のポリシーにも関わる問題であり、ひいては生活保護制度の信頼を失いかねないと心配しています。(アピタル・高山義浩)

アピタル・高山義浩

アピタル・高山義浩(たかやま・よしひろ) 沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科医長

沖縄県で感染症診療や院内感染対策、在宅緩和ケアに取り組む。かつて厚生労働省で新型インフルエンザ対策や地域医療構想の策定支援にも関わった。単著として、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会を共に生きる』(医学書院、2016年)などがある。