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 前回からADHDを持つ親が、その特性を子育てにどう生かしていけばよいか話してきました。

 ADHDの親が子育てで困難を抱えやすい要因として、

①すぐには結果がでない

②毎日同じことの繰り返し

③自分の気持ちややりたいことを抑えながらやっていく

が挙げられます。

 前回は①と②について対策をご紹介致しました。今回は③についてです。

 ADHDの人の脳の研究では、自分のしたいことを我慢する、つまり、ブレーキがききにくいことがわかっています。たとえば、極端な例を挙げますと、

□子どもの学校の保護者会で、静かに話を聞かなければならない場面。他の保護者についつい思い出したうわさ話を持ちかけ、話し込んでしまう

 もっと身近な例では、

□朝、急いで身支度を整えて外出しなければいけないと頭ではわかっている。それなのに、毎日見ているテレビの星占いをついつい見てしまう。さらにSNSに投稿したり、コメントを返したりしてしまう

□夜、早く寝て明日に備えた方がいいのはわかっているのに、ゲームがやめられない。

□デパートで、サイズがぴったりで、探していた色、デザインの服を見つけると、どんなに金欠でも「運命の出会いだ」と思って、ついつい買ってしまう

□飲み過ぎてはいけないとわかっていても、やめられない

 こうしたことは、多かれ少なかれ誰にでもあることではないでしょうか。欲求をどれだけコントロールできるか。こうした力は、大人が社会生活を営む上では欠かせないものです。これが、子育て場面になると、より顕著になります。たとえば、次のような感じです。

□朝なかなか起きられない。子どもは先に起きてゲームざんまい。朝ご飯を用意してあげたいけれど、眠気に勝てない。子どもは勝手にカップ麺やお菓子を食べている

□友達とわいわい楽しみたいので、子連れで夜、居酒屋にいくのが週末の恒例行事。深夜まで子どもをつきあわせてしまうけれど、週末なので仕方ない

□ギャンブルがやめられず、頭の中はそのことでいっぱい。ついつい子どもの学校への提出書類や衣替えの時期を忘れ、自己嫌悪に陥る

□子どもにネットやゲームを与えておけば、おとなしいし、楽。私も好きなことを邪魔されずにできるので、悪いとわかっているけれど、毎日4時間ゲームをさせている

 どうでしょう。自分の欲求がコントロールできないということは、ADHDの脳の特性とはいえ、子育ての場面になった途端、深刻なものに思えてきませんか。「なんてひどい親だろう」と非難するのは簡単です。「親だから、こうすべきだ」と指導したくなるかもしれません。しかし、本人も頭では悪いとわかっているのです。でもやめられない。

 では、どうしたらいいのでしょう?

 やっかいなことに、多くの場合これらの現象には、欲求をコントロールする難しさだけではなく、面倒なものから逃げてしまう「回避行動」も絡んでいます。

 例えば、「あー、どうしてもまだ寝ていたい」と思いながらも、実は布団から出ずにスマホをいじっているような場合、眠気は表面的な言い訳で、要は布団から出て朝ご飯の支度や子育てに向き合うのを避けている可能性があるのです。

 ただでさえ、欲求に流されやすい特性に加えて、「ご飯の準備も子育てからも逃げたい」という回避行動が重なるのです。しかも、昼過ぎまでだらだら寝た後に襲ってくるのは、激しい自己嫌悪です。「あー、私、最低の母親。情けない」。この自己嫌悪から逃れたくて、ギャンブルに熱中し感覚を麻痺(まひ)させたり、子どもにイライラと当たったりする人もいます。ヤケ食いでごまかす人もいます。いずれにしても、その先に待っているのは、さらなる自己嫌悪です。

 さて、対策です。まずは、こうした自己嫌悪の悪循環に自分で気づくことです。

「なるほど、最初は眠気が強くてそれに流されかかっていた。そのうち、ご飯の準備や子育てから逃げたくなって、布団でゴロゴロしていたのか。で、エンドレスに逃げまくった結果、子どもが食べっぱなしにしたカップ麺の殻や閉まったままのカーテン、散らかった部屋をみて、イライラして子どもを怒鳴ったのよね」

 悪循環に気づけば、次は、どの時点なら介入できそうかを検討します。

①眠気が強くて流されかけたとき

②ご飯の準備や子育てから逃げたいモードのとき

③昼過ぎにようやく起き出して散らかった部屋を見てうんざりしたとき

 どこかの時点で、これまでとは違う考え方や行動をとれば、少しはましな循環へと移行できそうです。案外、この「少しはましな」という加減が重要です。「休みの日も、きっちり定時に起きて、素晴らしい栄養バランスの朝ご飯を用意して、子どもと外遊び!」といった高い目標に一気に掲げないことです。ほぼ「やっぱりそんなの無理。できない。寝ていよう」と布団ごろごろ回避モードになってしまうことでしょう。

 さて、話を戻します。

①眠気が強くて流されかけたとき

 眠気という生理的欲求そのものです。これをどうにかするには、前の晩に何時に寝たかとか、睡眠サイクル、体調、服薬中の場合には薬との兼ね合いもあるため、話は単純ではありません。なかなかがんばっても効果が現れにくい時点といえます。

 それよりは、②、③の時点での介入の方が、功を奏します。

②ご飯の準備や子育てから逃げたいモードのとき

 「逃げたいモード」になった自分に気づいたら、このまま逃げたらどんな結果になるかを予想しましょう。反対に、今、えいや!と起きればどんな結果になるでしょう。逃げたくてたまらないときにそんな予想をするのは、大変です。ですが、回避行動は「その場しのぎ」であることが多く、短期的なメリットにしか目を向けず、長期的なデメリットを無視しがちなのです。

(このまま布団の中でごろごろし続けるとどんな結果になるか)

 楽

→子どもにも誰にも邪魔されないひとりの空間が確保できる

→子どもはきりがないほどネットやゲームに依存してしまう

→栄養の偏った朝ご飯しか食べられない

→部屋が散らかったまま

→そんな様子をみて親としての自分を情けなく思い、自己嫌悪

→イライラして、子どもに当たってしまう 子どもの自尊感情低下

 

(今、えいや!と起きれば、どんな結果になるか)

 きつい

→休みなのに自分の時間がなくなる

→ましな朝ご飯を用意できる

→カーテンを開けて朝を迎えることができる

→1日が有効に使える

→時間に追われるかんじがしない

→頑張った自分を誇らしく思える

 

 どちらの結果にも目をそらさず、メリットやデメリットの双方から捉えます。さて、どちらを選びますか。選択は自分次第です。「起きても、そもそも家に食材がなくて朝ご飯を作ることができない」という場合もあるでしょう。すぐに起きることのメリットを最大にするために、新しいことが好きなADHDの特性を生かして「今話題のスムージー作りに挑戦しよう」と、前日から「ヨーグルトを買っておく」とか「おいしいパンを買っておく」とか、材料を揃えておくのもいいかもしれません。

 また、すぐ起きたくない、逃げ出したい、という欲求を無視せず、状況に応じて欲求を満たしていくのも成功のポイントです。そうでないと、「がんばり」は続きません。例えば、次のように自分の時間を作ってはどうでしょう。

 

「朝起きて子どもの世話はするけど、午後の2時間は、子どもを預けてひとりの時間をとろう!」

「休みの日は誰も子どの面倒をみてくれないので、水曜日の夜だけは夫にみてもらって、2時間だけ自分の時間を持つ」

「子育てを手伝ってくれる人がいないので、ファミリーサポートや放課後にみてくれるサービスを利用しよう」

「子どもの生活リズムを見直し早寝早起きをさせる。夜9時には寝かせて自分の時間を毎日少しずつ確保しよう」

「自分の時間をなかなかつくれないので、子どもと一緒に楽しめる活動をしよう。親子で参加できるクッキング、天体観測、スポーツ教室など、ほぼ無料や格安で楽しめるものがたくさんある。時間に追われる子育てより、攻めの子育てだ!」

 と、いろいろアイデアは出てきませんか。

二度寝しようかどうしようか、という葛藤のその瞬間、「このまま二度寝した結果」と「二度寝せずに起きて朝ご飯を準備した結果」について天秤(てんびん)にかけるのです。

 

写真・図版

 長くなりましたね。次回は、③昼過ぎにようやく起き出して散らかった部屋を見てうんざりしたときの時点での介入について考えます。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。