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 前回に続き、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の親が、食事の準備や子育てから逃げたくて二度寝してしまう場合の対処法を考えていきます。今回は、昼過ぎにようやく起き出して散らかった部屋を見てうんざりしたときの、絶望感にどう対処するか。

 

 合言葉は「それはそれ!」「これはこれ!」です。

 まず、みなさんならこんなとき、どうおもいますか?

 

仕事で上司に叱られて、自分にうんざりしながら帰宅する途中、駅に止めていた自転車が盗まれていた。何とか帰宅して、郵便受けを開けると、図書館からまだ返していない本の督促状が届いていた。ますます情けない気持ちになった。気持ちを切り替えようと、ビールを飲もうとしたら、冷蔵庫にいつもなら冷えているはずのビールがない。すっかり気持ちが折れて、シャワーも浴びずにそのまま布団でふて寝した。

 

 人生で何度かこんな、とことんうまくいかない「最悪な日」を経験するものです。

 

「なんでこんなに日に限って自転車を盗まれるんだ。図書館の本も返せないなんて、自分はなんてダメなんだ。やることなすこと、うまくいかない。ビールもないなんて運にも見放されたようだ。何もかもいやだ。逃げ出したい」

写真・図版

 

 こんなふうに一瞬でも考えてしまいませんか。次々にトラブルが積み重なり、その度に自分にうんざりし、追い込まれ、逃げ出したくなる。そんな気持ちを毎日抱えるとしたら、どんな気分でしょう。

 ADHDの特性をもつ親が、子育てや家事をこなすときに抱く感情は、まさにこういったものです。食事の準備や子育てから逃げたくて二度寝してしまったときも、うんざり、追い込まれ、逃げ出したくなるという連鎖反応が見られます。

「また二度寝してしまった。子どもたちは好き放題にお菓子を食べている。本当ならまともなご飯を食べさせてあげなくちゃいけないのに……。昼が過ぎてもカーテンも開けず、こんな汚い部屋でゲームばかりさせている。こんな生活していたら、子どもも私のようになってしまうんだろうか。ちゃんと朝起きて、家事をこなして、子育てもする毎日を続けなくちゃいけないなんて、私には途方もなく長い修行にしか思えない。そんなことならいっそ、もうここで終わりにしたい」

 

 大げさだと思いますか?案外ここまでに思ってしまう方は多いのです。

冒頭の「最悪な日」の例と共通するのは、次々に自己批判の材料を見つけ、関連させ、ぐるぐる悪循環を続ける点です。その結果、待っているのは、絶望、自己嫌悪。さらにひどいときは、もう一度ふて寝、過食、イライラして子どもに当たるなど、悲惨なことばかり。

 では、こんなひどい結果につながる考え方を改めてみてはどうでしょう。理屈は簡単。反対のことをすればいいのです。つまり、次々に自己批判の材料になりそうなものを見つけても、それを関連させないことです。

「二度寝したことと、部屋が汚いことは関係ない。それぞれ取り組むべき問題だけど、寝起きのいま悩んだところでいいことはない。ひとまず、今は関連づけるのをやめよう」

こんな感じです。冒頭の例でも、

「上司に叱られたこと、自転車を盗まれたこと、本の返却の督促状はそれぞれ別の出来事だ。叱られて落ち込んだ気分の時に自転車を盗まれるなんて、タイミングが悪いけど、だからと言って、『この先なにもかもうまくいかない』理由にはならない。本の返し忘れや、ビールが冷蔵庫に冷えていないことは、これまでもよくあったことじゃないか。今さら落ち込む必要はないし、そんな暇があったら、本を返しに行く日を決めよう。ビールをケース買いしておこう」

 

 お読みになってわかるとおり、あえて現実主義になって、悩みの連鎖を食い止めるのです。

合言葉は「それはそれ!」「これはこれ!」です。

問題から目をそらすわけではありません。もっとコンディションのよいときに、一つずつ取り組めばよいのです。上手に悩みましょう。

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。