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 今年もインフルエンザの流行の季節が近づいてきました。インフルエンザの流行は例年12月ごろに始まり、1~2月ごろにピークを迎えます。勤め先や医療機関でインフルエンザワクチンの接種の案内を目にすることはありませんか。皆さん、今年はインフルエンザワクチンを受けますか?お子さんはどうですか?

 

 毎年、この時期になると受けたほうがいいか、受けるならいつがいいか、外来でよく相談されます。答えは、受けた方がいいです。インフルエンザの予防接種は、生後6ヶ月からできます。13歳未満の子は2~4週間あけて2回、13歳以上の人は1回打ちます。65歳未満は任意接種です。流行前に免疫をつけたいのなら10~11月に、流行に備えるなら12月中旬ごろまでに受けるといいです。問診票などは送られてこないので、かかりつけの医療機関に問い合わせたり、ホームページを見たりましょう。市区町村によっては助成が出るので、保健所、医師会、医療機関、市区町村のホームページなどで確認してみてください。

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 インフルエンザワクチンには効果があり、接種を毎年受けた方がいいということは、厚生労働省やアメリカの疾病対策センター(CDC)も言っています。

・厚生労働省「インフルエンザQ&A」http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html別ウインドウで開きます

・米疾病対策センター(CDC)「インフルエンザ」http://www.cdc.gov/flu/protect/keyfacts.htm別ウインドウで開きます

 一方で、「ワクチンに意味がないから厚生労働省は集団接種をやめた」とか、「WHO(世界保健機関)がインフルエンザワクチンは効果がないことを認めた」という類いの噂がネット上でありますが、それは噂にすぎず、本当ではありません。学校などでの集団接種はしていませんが、厚労省はインフルエンザの予防に十分な免疫を保つためには、毎年インフルエンザワクチンの接種を受けた方がよい、としています。

 WHOも、感染や重症化を防ぐにはインフルエンザワクチンが最も効果的だと言っています。(WHOのインフルエンザについてのページhttp://www.who.int/influenza/vaccines/en/別ウインドウで開きます )英語のサイトですが、パソコンやスマホで翻訳機能を使えば、比較的読みやすい日本語に変換されます。

 

 インフルエンザワクチンは入院するリスクを減らすことができ、心臓病、糖尿病、肺の病気を持った人がインフルエンザになった時に重症化するのを防ぎます。2014年のアメリカの研究では、2010~2012年のインフルエンザシーズンに小児集中治療室(PICU)に入院する危険性を74%減らしたことがわかりました。確かに、ワクチンは流行する遺伝子型を予測して製造しますから、実際に流行するウイルスの型は必ずしもその予測と一致しません。

でも、「予防接種は『効く』のか? ワクチン嫌いを考える」(岩田健太郎著)には、1990~2000年でアメリカの高齢者を調べると、インフルエンザワクチンを接種された高齢者の方が、されない高齢者よりも死亡率が低く、1年たりとも例外はない、という論文が引用されています。遺伝子型があっていなくても受ける意味はあるし、インフルエンザにかかっても入院や重症化のリスクが防げることを考えると、やはりワクチン接種は受けた方がいいでしょう。

 

 「インフルエンザワクチンは効果がない」と主張する人たちがよく持ち出す資料に「前橋レポート」という1984年の研究があります。しかし、この研究は、ワクチンの効果を判断するのには、診断基準と接種率の観点から十分とは言えないものでした。

 本来ならインフルエンザにかかったかどうかの診断は、遺伝子の量を増やす技術を使った「PCR法」という検査でウイルスが存在するかを確認して正確に行うべきで、せめて迅速診断キットを使うとよかったのですが、当時はどちらの手法も存在しませんでした。前橋レポートのインフルエンザの診断基準は「37℃以上の発熱があって、連続2日以上欠席した者、あるいは発熱は不明であるが、連続3日以上欠席した者」。この診断基準で群馬県前橋市の小中学校児童を対象に欠席状況を調べたのです。

 また、インフルエンザワクチンを接種した地域とそうでない地域を比較しましたが、接種した地域のワクチン接種率は50%未満で高くありませんでした。

 前回の麻疹についての回で説明したように(「はしかってどういう病気?」http://www.asahi.com/articles/SDI201609278336.html )、ワクチンは集団の接種率が十分に高くない場合は、効果が小さいのです。その当時にはとても誠実に行われた研究であるものの、限界があったのです。その後、もっと進歩した方法で行われた研究で、インフルエンザワクチンは効果があるというものが続々と発表されています。

 確かにワクチンは100%の効きめでインフルエンザにかからないというわけではありません。50~60%の有効性と言われていますが、この有効性を引き下げているのは、免疫反応が弱い65歳以上と2歳未満です。

 2015年8月末、「インフルワクチン乳児・中学生に予防効果なし」というタイトルの新聞記事が出ました。記事で取り上げられていたのは、2015年8月28日にプロスワンというアメリカの科学誌に掲載された慶応大学などの研究チームによる論文でした。(http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0136539別ウインドウで開きます

 研究は、三つの遺伝子型(A、B、H1N1)に対応する株を含む3価不活化インフルエンザワクチンの有効性を検討したものです。

論文によると、ワクチンの予防効果は、A型インフルエンザに対して1~2歳で72%、3~5歳で73%、6~12歳で58%。

A型インフルエンザの中で、09年に世界的流行をしたH1N1型は、1~2歳で67%、3~5歳で84%、6~12歳で90%。

B型では、1~2才で41%、3~5才で44%、6~12才で30%でした。B型よりも症状の重いA型のインフルエンザをこれだけ予防できていれば効果はあると考えていいでしょう。でも、残念ながらさきほどのような「乳児・中学生に予防効果なし」と報道されました。私はこの論文は「インフルエンザワクチン小学生に効果あり」というタイトルで報じられるべきだったと考えます。

 確かに中学生(13~15才)の数字をみると、A型で12%、B型で23%、H1N1型は数が少ないため「分析対象外」でした。13歳以上の中学生からは、ワクチンを打つ回数が2回から1回に減ります。それが、効果の減少につながった可能性があると考えられます。任意のワクチンなので、13歳以上でも2回受けても構いません。私のような患者さんと接するハイリスクの医療関係者や、どうしてもインフルエンザになりたくない受験生などは以前から2回受けています。

 インフルエンザワクチンは前シーズンからB型が2種類入った4価になっています。より効果が上がっていることを期待します。

◇次回は、10月31日(月)に掲載予定です。

 

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在は一般病院の小児科に勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。