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 前回から大人のADHD(注意欠陥・多動性障害)の人間関係についてご紹介しています。

大人のADHDの人から人間関係について悩みを聞くと、必ず「私は空気が読めていないんでしょうか」とおっしゃいます。

 

 「KY(空気が読めない)」という言葉が当たり前のように使われるようになって、ずいぶんたちます。人間関係の中で、はっきりと教えられたり、決められたりしているわけではないけれど、これまでの慣例や前後の流れで、なんとなく多くの人が了解していることを、察知できないということですね。

 たとえば、知り合いになったばかりの人に「今度遊ぼうね。楽しみにしてるから」と言われたとき。具体的な日にちの提案や約束まで話が及ばなければ、多くの場合は「あなたと親しくなりたいけど、(他の予定などがあり)ここ数日、数週間中には遊ぶつもりはない」ということを意味します。ましてや、知り合ったばかりで連絡先すら交換していない場合、「今度遊ぼう」の「今度」はほとんどの場合、「もう少し親密になる機会があれば、遊んでもいいかもしれないが、今のところ、そこまでではないですね」という意味になるでしょう。全くのうそではないけれど、具体的な約束もしていないという状況です。

 しかし、いわゆる空気の読めない人は、「今度遊ぼう、って言ってくれたから、すごく親しくなったんだ」とか、反対に、「今度遊ぼうって言ったけど、今度っていつだ?うそつきじゃないか」と、両極端に受け止めてしまうかもしれません。

 

 実はADHDの特性には、「空気が読めない」ことは含まれていません。ADHDの特性は、何かをしたいと思ったら我慢ができない「衝動性」や、じっとしていられない「多動性」、注意力が散漫になる、といったことなので、その場の空気や文脈は読める方です。しかし、臨床的には「私は空気が読めないので、人間関係が苦手です」とおっしゃる方が多いのです。むしろ、いわゆる「空気が読めない」という特性は、自閉症スペクトラム障害の特徴です。

 

 では、ADHDの人が「空気を読めない」と悩むのはなぜでしょう。二つの仮説があります。

 一つ目は、ADHDと自閉症スペクトラム障害(ASD)の併存率の高さです。これまでは、ADHDと自閉症スペクトラム障害を重複して診断することは認められていませんでした。一方で、臨床上は「ADHDと自閉症スペクトラム障害の両方に片足ずつ突っ込んでいる人が多い」ともいわれていました。そしてついに、2013年に改訂されたアメリカ精神医学会の診断基準「DSMー5」では、併存が認められるようになったのです。ADHDと診断された人の43%に、自閉症スペクトラム障害の特性が見られたという研究報告(Hofvander, Delorme, & Chaste et al., 2009)もあります。

ADHDの人が、かなりの高い割合で、「空気が読めない」という悩みを持っていることが理解できます。

 

 もう一つは、「わかっているのにやめられない」という衝動によるものではないかという仮説です。先ほどの例のように、知り合ったばかりの人に「今度遊ぼうね」と言われた場合を想像して下さい。仮に、その知り合った相手が、自分にはとても魅力的でどうしても仲良くなりたい相手だったとします。

頭では、「今すぐに日程を決めるほどではないけど、好意は持ってくれているようだ。これから徐々に仲良くなっていけばいいんだ」と思いつつも、心は「なんとしても早く、仲良くなりたい!」という気持ちが先走ってしまいます。そして「"今度遊ぼう"なんて悠長なことは言っていられない!私はあなたとどうしても仲良くなりたい。で、いつ、遊ぶ?いつがいい?」そう言いながら、相手に迫っているかもしれません。

 こうした衝動的な行動は、相手からすれば「距離感のない人」と思われることがあるかもしれません。ただ、こうした接近行動が功を奏することもあります。事実、ADHDの人の中には、範囲は狭いながらも、特定の人と濃密な人間関係をもつことができている方も多くいます。チャンスを逃さないスピード感でビジネスを成功させている人も多いから、人間関係は面白いのです。

写真・図版

 

 どちらの仮説でも、他人から見た場合の行動は似ています。しかし、本人が経験する感情はずいぶん違うようです。

ADHDと自閉症スペクトラム障害が併存する場合は、「なんとなくいつも人付き合いがうまくいかないことはわかっている。でも何をどうしていいやら、さっぱりわからない。もしルールを教えられたとしても、従いたくない」という腑に落ちない気持ちがつきまといます。

自分を押し殺しながら、社会のルールに合わせ続けることになります。ひどい場合には、生きている実感を失い、感情を置き去りにして、淡々とルール通りに振る舞う人もいます。

 「分かっているのにやめられない」というADHDの特性の場合は、「どうして、うまくいかないか分かっている。だけど、やめられない。人から言われるように振る舞うのが一番いいのだろうけど型通りの人付き合いは退屈でたまらないし、私にはできない」という息苦しさが残ります。一時的なら、社会に合わせて振る舞うことはできるのでしょうが、長続きさせるのはとても難しいようです。

 どちらの場合も、人間関係で「自分の常識がどうも通じない」「本音をそのまま出せない」という感覚を持ちながら消耗している状態です。

こうしてすり減ってしまった心は、どうしたらいいのでしょうか。そして、どう折り合いをつけて人間関係を築いていけばよいのでしょうか。次回に続きます。

 

引用文献

Hofvander B, Delorme R, Chaste P, et al : Phychiatric and psychosocial problems in adults with normal-intelligence autism spectrum disorders. BMC psychiatry 9 : 35, 2009

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。