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 前回は大人のADHD(注意欠陥・多動性障害)は、自閉症スペクトラム症(ASD)と併存しやいことから、多種多様な人間関係の悩みを持ちやすいことを紹介してきました。では、不器用であるがゆえに傷ついた心をどう立て直せばよいのでしょうか。また、対人関係でのトラブルを未然に防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。

 次の四つの点からのアプローチが功を奏するようです。

写真・図版

 

 一つ目は、①対人スキルを強化することです。

 対人関係のスキル(技術)そのものを向上させることで、トラブルそのものを未然に防ぐというものです。これができれば、この問題はすっきり解決です。

しかし、対人スキルを向上させることは、一筋縄ではいかないものです。多くの対人関係の場面では、「こう振る舞っておけば、間違いない!」という正解が定まっておらず、場面場面の文化(カルチャー)、タイミングなどによって、その状況にふさわしい行動が変わるからです。

 それでも、記憶力が優れていたり、適応する必要性に迫られていたりする人の中には、「この場面ではこう」「この状況ではこう」と、多くのパターンを必死で身につけている方もいます。また、「周りの人とひとまず同じように振る舞って様子をみる」という戦略の方もいます。こっそりマナー本を参考にする方もいらっしゃいます。

 しかし、知識として対人スキルを身につけたとしても、それを実践しなければ、人間関係を円滑にはできません。知識を実践するためには、まずはターゲットを絞って、行動を変えるのです。

 「朝、子どもを幼稚園に送り出すバスの待ち時間に一緒になるお母さんにどんな話題をするのが適切か」「自分の子を、他のママが褒めてくれたときどう対応するか」など、具体的な場面を想定します。そのとき、どのような対応をすることが、自分が目指す方向なのか。そうしたことを考える機会をもつだけで、衝動的な行動を減らし、人間関係を維持することに役立ちそうです。

 ただ、このように行動を変えるまでには、前段階があります。そもそも、「自分の対人スキルには問題はない」もしくは、薄々問題があると気づきながらも「私は空気が読めないわけではないし、常識を知らないわけではない。あえて、ここではこの行動を選択しているんだ」。あるいは、対人関係上のノウハウを知識として知っていても、「大したことはない」と割り引いて、従わない人もいます。要は「納得」していないのです。

 たとえば、子どもの学校の役員決めで、クラスの保護者が集まった時の状況を想像してみください。誰も立候補せずに「シーーーン」となったとき、誰もが気まずい沈黙に耐えています。そんなとき、お人よしのADHDの方は、ついつい引き受けてしまうことが多いようです。

 「そりゃ、私だって、役員決めのときは無難に振る舞って、黙っていた方がいいことは知ってる。でも、あの気まずい雰囲気に耐えられないし、司会の人だって困ってる。かわいそうじゃない」

 もちろん、役員を引き受けることは悪いことではないでしょう。しかし、現実的に役員の仕事がこなせるのでしょうか。以前から「よし、役員になろう」と考えた上での行動だったでしょうか。ついつい、その場の雰囲気で流され、衝動的に決めたのだったら、もう少し行動パターンを変える必要がありそうです。

 行動パターンを変えるためには、自分の過去の経験を振り返って「常識だから」とか、「みんなもそうしているから」といった一般的な理由ではなく、自分はなぜ、その社会的ルールを守るのかという、自分なりの理由をしっかり補強しておく必要があります。

 例えば、「一度きりだと思って友人にお金を貸したら、だんだん要求額が高くなって、破産寸前までいった。だからもう友達にお金を貸すのはやめておこう」とか、「ちょっとふざけたつもりで友達のうわさ話をしたら、本人に「尾びれ」がついて誇張されて伝わってしまった。あの気まずさはもう二度とごめんだ」とか。

 先ほどの学校の役員決めなら、「あの時、ついつい司会の方がかわいそうになって役員を引き受けたけど、みんなはその場だけ喜んでくれただけで、その後は全然協力してくれなかった。結局、私ひとりで夜も寝ずに仕事をしたのよ。そしてひどい熱が出て、夫に〝家のことがやれないくらいなら役員なんてするな〝って言われて大げんかになったんだ」などと、おつきあいのルールの「個人的な」根拠について、今、もういちど振り返って、心に刻んでおきましょう。

 特に、望まない妊娠を繰り返してしまう方、いつも悪い異性にだまされてしまう方、悪友から利用されてしまう方などは、じっくり過去から学んでおくとよいでしょう。

 とはいえ、対人関係の微妙なセンスは、まるで生まれつき、人付き合いがうまいのでは?と思いたくなるような器用な人には、どうがんばっても追いつけないのが実情です。誰だって、人とうまくやりたいし、できれば器用にこなしたいと、日々努力し続けているわけですから。ここでは、あくまで「トラブルをできるだけ未然に防ぐことができる」レベルをゴールにします。

 残りの3点は次回に続きます。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。