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 大人のADHD(注意欠陥・多動性障害)の方が、対人関係でのトラブルを防ぐために「対人スキルを強化する」とうまくいく、というアプローチを前回紹介しました。今回は二つ目のポイントの「自分の対人関係の特性を受け入れる」ことをご紹介します。

 

 「自分の対人関係の特性」を受け入れることは、前回の「対人スキルをみがく」ことと真逆のように感じるかもしれません。しかし、実はこの二つは車の両輪のようで、どちらかだけでは前に進みにくいのです。対人スキルを向上させながら、補い切れない部分を受け入れていくといった両立をすれば、うまくいくようです。

 例えば、全5回の市民講座に参加したとしましょう。同じグループの女性5人で仲良くなりました。講座の後にはみんなでランチに行くほどです。3回目の講座後のランチのとき、メンバーのひとりがこう言いました。

「この間、(同じグループの)◯◯さんのお宅にいったとき、こんなことがあって……」

 この言葉を聞いた途端、こう考える方がいるかもしれません。

「え、なになに?みんな初対面でスタートしたグループでも、もう個人的にお宅にお邪魔しているんだ。もしかしたら、他にも呼ばれた人がこの中にいる?私だけが呼ばれていなかったりして??」

 こう考え出すと、もう不安でしょうがなくなることもあるでしょう。人付きあいにコンプレックスをもつADHDの人なら、さらにこう考えるかもしれません。

「やばい!また私何かやらかしたかな。だからのけ者にされているのでは。引かれているんじゃないのかな?」

 ソワソワして、もう会話の中身なんて集中できないかもしれません。

写真・図版

 

 このようなときに、前回と今回でお伝えするふたつの「ワザ」を使ってもらいたいのです。

 このグループでうまくやっていこうと、この人が心がけていたのは次の2点でした。

①根掘り葉掘り、家庭事情を質問せず、なるべく講座のことを話す

②急いで仲良くなろうと距離をつめると怪しまれるので、講座の時間だけのおつきあいを3回は続ける

 こうしてトラブルを防止する方法をあらかじめ具体的に決めておいたのです。その甲斐あって、グループから漏れることなくランチに毎回同行でき、誰からも嫌がられずに楽しい時間を過ごすことができていたのです。

 にもかかわらず、自分の中での「タブー(講座の時間以外にも個人的な付き合いをする)」をまんまと実行していた人がいたのです。しかも、もしかしたら他にも何人か一緒だったかもしれないのです。これは戦略ミスだったのでしょうか。慎重になりすぎたのでしょうか。それもあるかもしれません。自分の特性から来るリスクを下げようとするあまり、過剰な対応になってしまうことは時にあります。

 

・遅刻に悩む人が、いつもより30分以上も早く待ち合わせ場所に到着してしまう。

・いつも締め切りギリギリで苦労している人が、無理やり仕事を仕上げようとする。

・ちょっと油断すると汚部屋になってしまう人が、毎日、非効率的なまでにエリアごとに掃除を進めていく。

・一旦休憩してしまうと、ひたすらダラダラになることが分かっている人が、帰宅してから家事が終わるまでは、急ぐ必要がないのにバタバタとこなそうとしてしまう。

 これらはまさに、リスクを下げようと過剰な対応をしてしまっている例です。結果論ですが、若干距離を置きすぎた可能性はあります。

 こうした場合には、速やかに情報収集をしましょう。そのお宅訪問には何人が同行したのか。二人だけの個人的な付き合いだったのかを、さりげなく(さも傷ついていないかのように)聞き出すのです。二人だけで遊んでいたようなら、こう自分に言い聞かせましょう。

 「対策を講じていて正解だった。今まで我ながらよく我慢して人との距離を保てた。個人的に遊び出している人もいるので、私もそろそろそのくらいならしてみようかな」

 もし、自分だけが呼ばれていないのなら、自分のルールを少しだけ緩めてみましょう。講座の話だけで個人的な話をしないなど、よそよそしさが仇(あだ)となっていた可能性もあります。それとも、もしかしたら、もっと難しい対人関係の要素が必要なのかもしれません。万策尽きて、もうこれ以上うまく振る舞えない、と思っているとしたら、ここぞ開き直る場面です。

 「そうね。私は、毎回ランチに一緒に行けるくらいにがんばって人付き合いした。確かに自分だけが誘われないのは悲しいけど、この講座もあと2回。 私にしてはよくやったよ。継続する人間関係ではないのだから、落ち込むのはもうやめよう」

 この"私にしてはよくやった"は、なかなか自己受容が進んでいないと使えないセリフですよね。なんらかの対人関係上の課題はあるのでしょうが、それはもっと身近な人間関係、つまり、家族や友人、職場などの中で改善し、そこにエネルギーを注いでいけばいいのです。

 口から生まれてきたような天性の才能を持つバリバリの営業マン、小さな頃から魔性の魅力をもつような女の子、どこにいっても愛されるキャラの人もいます。こうした生まれつきの才能がある人にかなわないのは発達障害のあるなしに限らない話です。

 そのような人に出会ったらすかさず、こうつぶやきましょう。

「私は長所を伸ばしていく方針なのよ」

 そうです。そのとおり。欠点に目をつぶるわけではありませんが、欠点が明確に見えなければ修正のしようがないのです。確かな問題点がわかっていても、修正ができないこともあるのです。誰にだって。

 次回はADHDの対人関係のポイントの3つ目です。

 

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。