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 そろそろ、インフルエンザのシーズンですね。すでに沖縄県では流行が始まっていて、私の病院でも、重症で入院となる患者さんが毎日のようにいらっしゃいます。

 

 インフルエンザでは、普通の風邪と違って、高熱や頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強く現れます。そして、子どもや高齢者、持病のある方では重症になることがあるので注意が必要です。とくにリスクのある方では、ワクチンを早めに接種しておくことも大事なことだと思います。

 

 さて、今回は、子どものインフルエンザ重症化について解説してみます。2009年に新型インフルエンザの世界的な大流行(パンデミック)がありましたが、日本では2000万人以上が感染したと推計されています。このとき残念なことに、2010年3月末までに198人が亡くなられ、うち38人が15歳未満の子どもでした。すべての死亡例について臨床情報が公表されているので、この大切な資料を参考にさせていただいて、重症化の早期発見と死亡回避について検討してみたいと思います。

 

 亡くなった38人のお子さんについて、発症から入院までの平均日数は1.0日(中央値1日)で、発症から死亡までの平均日数は6.6日(中央値2日)でした。平均日数が中央値よりも長いのは、数ヶ月にわたって闘病され、ついに多臓器不全で亡くなったお子さんがおられるからです。よって、中央値を参考としていただくのが良いと思います。

 

 89%が発症初日もしくは翌日には初回受診しておられます。海外では、「子どもの受診の遅れが死亡要因になっている」と指摘されることがありますが、少なくとも日本では早めの受診ができているようです。しかし、いったん帰宅となって、自宅で急変している事例が62%あり、そのとき心肺停止状態だったものが22%ありました。

 

 たとえば、栃木県内で亡くなった12歳の女の子。

 

 夜から38℃台の発熱と嘔吐があり、近医を受診した。迅速検査でインフルエンザ陰性であり、対症療法のみで帰宅。翌朝、39℃台にまで上昇して呼吸促拍となり、近医を再受診した。そこで肺炎が疑われ、別の医療機関を受診するように勧められた。1時間後、紹介先の病院受付で心肺停止状態となる。蘇生措置に反応なく、2時間後に死亡確認。のちにPCR検査にてインフルエンザA型が確定し、剖検にてウイルス性心筋炎が死因と診断された。

 

 あるいは、奈良県内で亡くなった男の子(1歳以上5歳未満)。

 

 起床時に体温が39.9℃あるため、午前中に近医受診した。受診時に会話は可能で、嘔吐やけいれんは認めなかった。診察でも異常は指摘されず、解熱剤のみ処方されて帰宅した。同日午後1時、呼吸停止しているところを保護者が発見。救急搬送されるも蘇生措置に反応なく、死亡確認。のちに、インフルエンザ迅速検査が陽性を確認した。剖検なし。

 

 子どもがインフルエンザで亡くなるときは、やっぱり経過が速いんですね。典型的には、発症した日に医療機関を受診して解熱剤など処方されて帰宅したものの、その夜に急変して救急搬送されたり、あるいは翌朝になって保護者が冷たくなっているのを発見したりしています。15-64歳における発症から死亡までの平均日数が9.7日(中央値5日)で、65歳以上では平均日数 11.2日(中央値7日)であることとは大きな違いです。

 

 なお、直接の死因としては、脳症・脳炎がトップで、次いで肺炎、多臓器不全と続きます。一般には知られていませんが、インフルエンザでは心臓の筋肉(心筋)の炎症を引き起こすことがあり、劇症型では、急激にショックになって死亡することがあります。2009年の死因報告では、38例中4例にすぎませんでしたが、小児では剖検があまり行われないので、心筋炎が見逃されているケースも少なくないと私は思っています。肺炎や脳症は知られていますし、所見も明白なので見逃されにくいと思いますが・・・、急速な死の背景には、少なからず心筋炎があるかもしれません。

 

 さて、こうした合併症を家庭で早期に見抜くためにはどうしたら良いのでしょうか? 繰り返しますが、子どもがインフルエンザで重症化するときは、きわめて急速なことが多いです。なので、とくに発症当日には注意深く観察されるようにしてください。なるべくお子さんをひとりにせず、定期的に状態を見守ることが大切です。観察のポイントは、意識の変化と呼吸状態、そして脱水です。

 

 まず、意識の変化です。インフルエンザにより脳症を合併することがあるため。次のような症状を認めたら、なるべく早く医療機関を受診するようにしてください。

 

 A 手足を突っ張る、がくがくする、眼が上を向くなど、けいれんの症状がある。

 B ぼんやりしていて視線が合わない、呼びかけに答えない、眠ってばかりいる

 C 意味不明なことを言う、走り回るなど、いつもと違う異常な言動がある。

 

 次に、呼吸状態の観察です。このような状態では、肺炎や心筋炎など重症化の兆候かもしれません。なお、インフルエンザが重症化するときは、高熱とは限りません。心筋炎などで循環不全になると、むしろ体温が低下してくることがあるので注意しましょう。

 

 D 呼吸が早く(1分間に60回以上)、息苦しそうにしている

 E ゼーゼーしている、肩で呼吸をしている、全身を使って呼吸をしている

 F 顔色が悪い(土気色、青白い)、唇が紫色をしている(チアノーゼ)

 

 最後に、脱水の観察です。とくに高熱を認めるときは、本人が欲しなくとも、水分を適切にとらせるようにしてください。最初に気がつく兆候は、腋(わき)の下を含めて体全体が乾いた感じになることです。さらに、次のような兆候に気がついたときには、早めに医師に相談するようにしてください。

 

 G 水分がとれず、半日以上おしっこが出ていない

 H 嘔吐や下痢がつづいていて、水分補給が間に合わない

 I 元気がなく、ぐったりしている

 

 以上のような注意を払っていれば、インフルエンザは特別な対応をしなければならない病気ではありません。いつものようにお子さんを見守っていただければと思います。不安だからというだけの理由で、静養されているお子さんを無理に起こして病院に連れて行くことのないようにしてください。ほとんどのお子さんは、ゆっくり休んでいれば元気になるものです。

 

 でも、「ただの風邪」と侮ることもないように・・・。新型インフルエンザで亡くなった子どものうち、気管支喘息など基礎疾患がある子が39%いましたが、逆に、61%は生来健康な子でした。お子さんの健康を過信しないことも重要です。私たち医師も緊張感をもって診療にあたっています。やっぱり毎年のように、高齢者のみならず、お子さんも亡くなってますからね。(アピタル・高山義浩)

アピタル・高山義浩

アピタル・高山義浩(たかやま・よしひろ) 沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科医長

沖縄県で感染症診療や院内感染対策、在宅緩和ケアに取り組む。かつて厚生労働省で新型インフルエンザ対策や地域医療構想の策定支援にも関わった。単著として、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会を共に生きる』(医学書院、2016年)などがある。