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 日本には糖尿病の患者と糖尿病の可能性を否定できない、いわゆる予備群の人たちと糖尿病の人を合わせると、2050万人いると推計されています。忍び寄る糖尿病シリーズ(2型糖尿病)の3回目は、「リスクが高い生活とは何か」をテーマに、日本糖尿病学会専門医・指導医で、船橋市立医療センター代謝内科部長の岩岡秀明さんに聞いてみました。(聞き手・岩崎賢一)

 

 まず大事なことは、「生活習慣病」と言いますが、この言葉は今、医者の中であまり使わなくなってきています。生活習慣というと、本人が悪いので自己責任ということになってしまう。糖尿病の原因の半分は体質、つまり遺伝です。体質が半分、生活習慣が半分ということです。生活習慣が悪くなくても糖尿病になってしまう人がいます。両親や兄弟姉妹、祖父母の中に、糖尿病の人がいるかを確認して下さい。その中に、糖尿病の人がいる場合は、糖尿病になりやすい体質を持っていると考えて下さい。その体質に生活習慣が加わって糖尿病になります。

 生活習慣で悪いのは、肥満、運動不足、ストレス。しかし、どんな人でもストレスはあります。「睡眠を十分とろう」「規則正しく仕事をしよう」「バランスよく食事を取ろう」といいますが、それができない人がいっぱいいるのが現代社会です。みんな車や電車に乗って、会社や駅ではエレベーターに乗っています。

 こういった生活習慣の課題を解消するには、子どもの教育から始めないとだめだと思います。社会人になってから教育しようとしても、なかなかうまくいきません。今後は、学校教育で、肥満や糖尿病予防の教育をしていかなければいけないと思います。

 20代、30代の人は、まず自分が太っているか自覚するところから始めるのがいいでしょう。私たちが患者に尋ねるとき、まず家族歴を聞きますが、同時に体重歴も聞きます。例えば、40歳の患者が来たとき、20歳のときの体重と過去の最大体重、現在の体重を聞きます。20歳のころ太っていなくて、だんだん太って、糖尿病が発症して進行してくると、むしろやせてくる人が多いです。最大体重のときぐらいに、血糖値をはかってみることが大事です。

 例えば、私の場合、身長は172cmで20歳のときは65キロぐらいでした。一番太っていたときは8年前で78キロありました。その後、ダイエットして69キロまで落としました。血糖値をはかると、糖尿病予備軍ぐらいになっていたためです。体重歴をみることは大事というのは、そういうことがあるからです。

 

生活習慣をどう変えればいいのか

 肥満、喫煙、ストレス、睡眠不足、運動不足、飲酒。まず、酒とタバコでは、タバコの方が体によくありません。がんのリスクだけでなく、心臓病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などいろいろな病気の原因になるからです。タバコは禁煙外来に通ってでもやめた方がよいです。

 アルコールは、糖尿病の患者でも血糖コントロールが良好なら、飲む量を減らせば大丈夫です。具体的に言うと、糖尿病の患者でも血糖コントロールがいい人は、日本酒なら1合、ビールなら350cc、ワインならグラス2杯。これくらいを週に2~3日ならそれほど糖尿病は悪化しません。アルコール性肝硬変の人とか、アルコール依存症でなければ、節酒でいいです。ただ、私は、糖質が少ないお酒(ウイスキー、焼酎)だからといって、いっぱい飲んでいいということは言っていません。

 運動不足については、1日30分、40分、運動療法として歩けない人もいます。仕事の合間にこまめに体を動かしたり、エレベーターを使うのをやめたりするのが現実的な対応です。ちょっと早めに家を出て、バス停1つ分歩くとか、会社ではエレベーターで2~3階分は階段を使うとか、普段の生活の中で歩くことを心がけることです。

 食生活については、3食食べることが大事です。朝食を食べない人がいますが、朝食はしっかり食べて、夜はなるべく少なくし、寝る前には食べない。毎日18時に仕事が終わる人ならいいですが、みなさんがそうとは限りません。消化吸収に3時間ぐらいかかるので、食べてすぐ寝てしまうと翌朝の血糖値が上がってしまいます。翌朝何も食べずに受診してくる患者がいますが、「何で私の血糖値が高いのですか」と聞いてくるときがあります。たとえ眠っている真夜中でも、肝臓でのブドウ糖産生を適切にコントロールするためには24時間インスリンが必要ですが、糖尿病患者はインスリンの働きが悪いので、空腹時血糖値が上がってしまいます。正常な人は、朝だと109mg/dl以下(1デシリットル当たりのミリグラム)ですが、糖尿病の人は朝食べていなくても180mg/dlとかいう値に上がってしまう。それはインスリンの働きが悪いからです。「夕食はなるべく早く食べるようにしましょう」「寝る前3時間は食べるのをやめましょう」というのは、糖尿病の患者だけでなく、予備軍の人もそうしたほうがよいと言えます。

 食べる量は、できれば3食同じぐらいに食べるのがいいですが、どうしても夕食が多くなってしまいます。食事は、忙しくても20分かけてゆっくり食べること。ゆっくり食べた方が、血糖値の上昇を抑えられたり、満腹中枢が満足したりするからです。忙しいとき、仕事の合間に5分ぐらいで食事をしてしまうのは避けましょう。食物繊維は血糖値を下げる効果があるので、海藻類やきのこ類はたくさん食べて下さい。また、野菜をいっぱい食べるというときに注意しなくてはいけないのは、ポテトやコーンです。ポテトサラダやコーンサラダをたくさん食べると、意外と血糖値が上がってしまいます。野菜でたくさん食べた方がいいのは、トマト、キュウリ、レタス、ホウレンソウ、ニンジンなど。ドレッシングもいっぱいかけ過ぎないこと。果物は果糖なので血糖値を上げてしまいます。バナナなら1日1本、リンゴや柿なら1日半分、みかんは小さいものを1日2個まで。

 体重を減らすことは、おいしいものが多いので難しい。ご飯1膳だけで野菜いっぱい食べてお魚食べて間食しない生活なんてそんなに続けられませんよね。ですから、糖尿病が増えているのです。私も体重を減らすために、飲み物はお茶と無糖のコーヒーだけにしましたし、アイスクリームやチョコレートは食べなくしました。夜寝る前は食べないようにして、体重を8キロ落としましたけど、これをやるのは大変でした。

 

糖質制限の落とし穴

 3食バランスよく食べて、ご飯は少なめにする。

 「極端な糖質制限食」は良くありませんが、糖質は少なめの方がよいです。「緩やかな糖質制限食」は、血糖コントロールに有用だからです。ごはんの量を減らす、パンの量を減らす。若い人にありがちな「ラーメン・ライス」や「チャーハン・ラーメン」が一番良くありません。「カツ丼とざるそばセット」のようなものも良くありません。つまり、糖質ばかりのものを食べるのはよくないということです。だから、私はよく「幕の内弁当にしましょう。そしてご飯は半分残しましょう」と、提案しています。

 米国糖尿病協会は、カロリー制限、糖質制限、どちらでも有用としています。ご飯が大好きな人は、ご飯を減らすだけである程度、血糖値は下がります。ご飯をあまり食べない人は、カロリー制限食でということになります。

 時々、「糖質制限食原理主義」の人がいます。そいうところに行くと大変です。私が言う緩やかな糖質制限とは、1食あたり糖質40グラムが目安です。ごはんで軽く半膳ぐらい、パンで薄切り1枚です。これを1日3食とると、120グラムになります。これ以外からも糖質は体に入ってくるので、1日150グラム程度なら緩やかな糖質制限になると考えます。

 「糖質は1食10グラム」といったような極論をいう人たちがいますが、普通の人はとても長くはやっていられません。

 日本糖尿病学会は、「糖尿病における三大栄養素の推奨摂取比率」として、「一般的には、炭水化物50~60%(150g/日以上)、たんぱく質20%以下を目安とし、残りを脂質とする」としています。

 ただし、米国糖尿病協会の診療ガイドラインには、栄養素の推奨摂取比率は必要ない、と書いています。

 糖質制限で大事なのは、果物やお菓子、ジュースといった間食も減らすことです。つまり、緩やかな糖質制限食は、ご飯だけではないということです。炭水化物は、食物繊維と糖質を合わせたものです。食物繊維は血糖値を下げるのでたくさん食べた方がよいです。例えば、海藻やきのこ類です。ですから、炭水化物制限ではなく、糖質制限といった方が正しいのです。

 私が、緩やかな糖質制限を推奨するのも、これを5年、10年続けないといけないためです。

 

◆明日は、「糖尿病予防や治療には行動変容が大切だけど・・・」についてお伝えします。

 

<アピタル:アピタル・オリジナル・医療>

http://www.asahi.com/apital/column/original/(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)