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 前回までADHDの人がどうやって人付き合いの困りごとに対処していくかという話をしてきました。今回は、起こってしまった対人トラブルのアフターケアについてです。

 

 人間関係では、誤解が生じやすく、気をつけていてもトラブルに発展してしまう場合もあります。特に、言葉というものはやっかいで、「そんなつもりで言ったんじゃないのに悪く受け止められてしまった」ということは、多々あるのではないでしょうか。

 その場の感情や、「どうしてもやりたい!」といった欲求を抑えられず、無邪気な子どものように態度や言葉に率直に出してしまうADHDの人では、誤解を招くことは多いようです。さらに、「空気が読みづらい」という特徴を合わせもっていると、トラブルは発生しやすくなります。

 そして、トラブルの後、アフターケアをどのようにするかが大きな分かれ道になります。みなさんならどちらを選びますか?次の例で考えてみてください。

 

子どもの小学校のママ友と立ち話をしています。「中学校は私立を考えている?お受験させる?」と聞かれたあなた。自分自身は公立の小中学校で育ってきたこと、それで特に困ることはなかったことから、率直に(特にそのママ友がどのような人生をたどってきたかをリサーチすることなく)こう答えました。

 「公立にはいろいろな家庭の子どもが来るから、社会の縮図だと思うの。そこでいろいろなことを学んで欲しいのよね」

すると、そのママ友の表情は少し曇りました。なんでも、このママ友は、小学校から高校まで一貫の私立校で過ごしたそうです。そして、自分の息子にも同じような教育を受けさせたいと考えていたようです。それを聞いて、あなたは「少し言い過ぎたかな?」と考えました。

 読者のみなさんなら、この後どう行動しますか?まだ会話が続いている状況を想像してください。

 

A:何もしない派

「あくまで相手はこちらの受験に対する考えを聞いてきたのだから、相手の背景に配慮する必要はない」と考え、特にフォローしない。

 

B:フォロー派

 私立のよさも付け加えて、「どちらもいいわよね、実は自分もそういいながらも迷っているのよ」とか、「私たちの小さい頃と違って最近は時代が変わったわよね」などとフォローする。

 まだ相手との会話が継続中なら、「B:フォロー派」を選ぶ人も多かったかもしれません。もし、会話がすでに終わっていて、後日、そのママ友が私立受験を考えていた話を耳にした、という場合では、もう少し「A:何もしない派」が増えるかもしれませんね。何もしないというより、「今さら話を蒸し返せない派」と呼ぶのがふさわしいかもしれませんが。

 

 ADHDの人は、良くも悪くもあっさり、潔(いさぎよ)く、「今」を生きています。そのため、よいことも悪いことも含めて忘れることができます。しかし、相手はちゃんと覚えていて、根に持たれてしまうことも多いようです。自分の基準で、「ママ友と会話で失言しちゃったことはもう終わったこと!次で挽回(ばんかい)!」とAの選択ばかりを続けるのは危険でしょう。面倒で、苦手なことでしょうが、ここは可能ならば、丁寧にフォローするという選択肢ももっておきたいところです。

 しかし、ADHDの人は小さい頃から相手から「キレられる」「叱られる」という体験を多くしてきています。そのため、どうしても、機嫌を悪くした相手をフォローすることに、とても苦手意識を持ちがちなのです。「また怒られるのではないか」「キレられるのではないか」と考えると、「ああ、だから人付き合いは大変なんだ。面倒だ」という結論になるわけです。結果的に人付き合いが長く続けられないまま、転職、離婚、転居をすることが多くなるようです。

 また、大人のADHDの人の対人関係の特徴として、約束を覚えていなかったり、人の話に集中できなかったりするために、相手の感情やニーズを気にしていないように思われることもあります。大事な人の誕生日を忘れたり、子どもの学校の書類提出が間に合わなかったりすることは、相手からすれば「大事にされていない」「誠実に向き合ってもらえていない」という印象を与えることがあります。

 このように「相手に誤解されているかも」と思ったら、あきらめずアフターフォローをしていくことが必要です。ただし、自分の覚えていられる程度で、「早々にできる範囲」の埋め合わせを提案することが大切です。

 ADHDの人は、自分の大切なパートナーの誕生日を忘れていたようなとき、「ごめん!来週末に埋め合わせをさせて!とびきりの日にするから!」と提案しておきながら、結局、計画をするのを再び忘れて、相手を二度失望させてしまうこともあるのです。苦し紛れに衝動的に、できもしない約束をしてしまった結果です。決してうそをついているわけではなく、その時には心から謝り、二度とこのようなことはしないと固く決意していたにもかかわらず。

写真・図版

 

 度重なる対人関係場面での失敗から、すっかり自信をなくしているADHDの人の場合には、埋め合わせをして挽回しようという意欲すら失い、「やはり私はどうやっても人とうまくいかない」とあきらめてしまうこともあるようです。まだ誤解を解き、埋め合わせができるかもしれないにもかかわらず、「仕方ない」と早々にあきらめてしまうと、相手からは「なんて非常識な人なんだ」と余計に反感をかってしまいます。

 次回は、ADHDの人が人間関係をうまく保つための四つ目のポイントの「周囲の人の理解を得る」ことです。家族や職場の上司など接する時間の長い人たちに、特性について知ってもらい、共存のポイントや落としどころのようなものを話し合っておくことについてご紹介します。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。