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 前回までADHD(注意欠陥・多動性障害)の方が人付き合いの困りごとにどう対処したらいいかの話をしてきました。今回は、周囲の人にADHDの特性をどうやって理解してもらうかについてです。

 

診断名を伝えるべきかどうか

 大人のADHDの診断は、専門家の間でも判断が分かれることが多く、まだ新しい領域です。同じ人への診断が、クリニックによって違うこともあります。あるところでは「ADHD」、別のところでは「適応障害」、「うつ病」といった感じです。ADHDから生じる二次障害の方が目立ってしまう場合もあります。

 意外と知られていないのが、ギャンブル依存や薬物依存の人の背景にADHDがあるケースです。もともとADHDの特性から、何事にものめり込みやすく、ゲームやギャンブルに熱中してしまうのです。好奇心から手を出してしまった薬物の快感が忘れられず、時間を守れなかったり、先延ばししたりしてしまう傾向に拍車がかかることで、社会への適応も悪くなり、薬に再び逃げ込むといったケースもあります。

また、最近の傾向として、ネットゲームに熱中し、生活の中心がネットになり、支障をきたしている「ネット依存」にもADHDの方が多いと言われています。

 こうしたことから、ADHDは多様な臨床像を持っており、それゆえに専門家の中には、「そのような多様な現象に診断名をいたずらにつけるものではない」という見解を示す人も多くいます。

 ましてや、世間にはADHDの特性を「わがまま」や「ルーズ」、「未熟」と見なす人も大勢います。こうした現状を踏まえると、診断名が「免罪符」どころか、「言い訳」だと思われて、ADHDの方の立場をより悪くさせてしまうこともあるのです。

 ADHDに特化した話ではなく、精神科領域の診断を受けるということは、この先、医療保険へ加入できるかどうかにもかかわってきます。また、お勤めの方は、それを所属先にどこまで伝えるか悩ましいところです。上司がどこまでメンタルヘルスを理解しているか、にかなり左右されるのが実情です。理解のある職場では、ADHD特性を理解してもらうことで、指示の出し方や、進み具合の管理、締め切りの催促の仕方や仕事の割り振りまで、双方にうまくいくような工夫をこらすことができます。しかし、反対に「メンタルヘルスなんて、きれいごとだ!」といった職場の雰囲気では、診断名は「レッテル貼り」に使われて終わるだけです。

 職場にADHDのことをどこまで伝えるかという判断は、かなり慎重に行う必要があります。専門家と上司や職場の理解度を確認しながら、伝え方について相談を進めていくとよいでしょう。

 診断名を出さなくても、専門家がADHDの特性を説明し、「職場でこのような対応をするとうまくいきますよ」と助言をすることもできます。ADHDの人が困っている場合、多くは、その上司もほぼ同じかそれ以上に困っています。

 上司の側にも「どうにかしてこの人に仕事をしてもらいたい」「ミスをなくして欲しい」「遅刻をなくして欲しい」といったニーズがあるわけです。そのため、専門家の助言に耳を貸すことが多いのです。(ちなみにうつ病の方のケースでは、本人は「仕事ができず、みんなに迷惑をかけている」と言っていても、周りは「全然そんなことないですよ。急にうつ病で休むって聞いて驚いています」という場合もあります)

 

特性の伝える際の注意点

 よくADHDご本人の方からこういうご相談を受けます。

「『自分はADHDだと思う』と言っても説得力がない。一番迷惑をかけている家族に理解してもらいたいけど、自分から言うと、言い訳をしているようにしか聞こえないようだ」

 特に体育会系の方が家族にいる方は、困っているようです。メンタルヘルスの用語を出した途端、「洗脳されている。そんなふうに考えると、ほんとに病気になるぞ」などと一喝されるそうです。こうなると、もうどう話を切り出しても「言い訳がましく」聞こえるだけです。

 どうしようもないほどのメンタルヘルスアレルギーがある人でないなら、自分以外の媒体を使うのは一つの手です。思った以上に効果があります。例えば、ADHDに関する書籍、テレビなどがそうです。もちろんこのコラムも。同じことを言うのでも、別の経路(専門的ならなおさら)を通して入る情報は、全く違った受け止め方をされます。私も、ADHDの特性を説明する時には、なるべく自分の言葉だけではなく、一般の書籍やパンフレットなど複数の媒体を手渡すようにしています。

 「論より証拠だ」とADHDの特性に応じた改善策を講じて、これまで苦手だった整理整頓ができて部屋が片づくようになったとか、段取りがよくなって食事を作れるようになったとか、そんな目に見える変化(証拠)を見せてから、話を聞いてもらうという方もいます。これはなかなか時間も気力もかかる方法ですが、説得力はすごいですね。同じ屋根の下に暮らす家族には、この変化はどのようにうつるでしょうか。めざましい変化とうつるのか、それとも一時のブームに過ぎないのでは、と冷ややかな目で見られるかもしれません。これにめげないほどの強靭(きょうじん)な精神力を持っていたら、そもそも周囲の理解など得なくてもやっていけそうな気もしますが。実際に起きた変化をもとに「このやり方なら、こんなに改善するんだ。気合だけでは無理なんだ。これは特性なんだ」と言えたら、力強いです。

 専門家から家族や職場の上司への助言を行う場合もあり、これは最もオーソドックスな方法でしょう。ここでは、理解を得たい相手によって、手段もタイミングも違うということをお伝えしておこうと思います。

写真・図版

 

特性の伝え方のコツ

 特性を伝えるときのコツは以下の四つの点に気をつけます。

 

①ADHD特性

 一般的な特性について長々と話すより、できれば最近のご本人のエピソードと照らし合わせて説明するとよいでしょう。

 

②原因

 育てられ方でも、本人の努力不足でも、上司のせいでもない。はっきりした原因はわかっていないが、脳の働き方に特徴があり、特に実行機能に関する働きがうまくいっていないようだ、という仮説が有力であると伝えます。

 

③既に行っている自助努力

 特性がありながらもご本人なりに適応するためにがんばっていることが必ずあるものです。今後、努力すべき項目を専門家と共に付け足して伝えます。

 

④求める具体的配慮

 ③を踏まえて、カバーしきれない部分をお願いします!と、相手にできる範囲を見極めながら配慮を求めます。家族や職場の上司ができる範囲を正確につかむには、しっかり対話をし、調整しなければいけません。また、家族の場合は、長く続く関係ですので無理は続きません。職場も、あくまで複数の人が働く場であり、治療の場ではないので、要求も職場全体を見渡しながら行う必要があります。

 日常的に顔を合わせる気楽な友人関係では、上記のどの方法も大げさに聞こえます。気楽につきあえる友人には、日頃から完璧な自分を演じようとせず、ミスが多くおっちょこちょいな自分自身を受け止めて、「おっちょこちょいキャラ」を定着させることです。「ミスなんてしてはいけない!してなんかないわよ!」という構えの神経質キャラでは、長続きしません。その代わり、ADHDの人が持つ豊富なアイデア、行動力、明るさなどを発揮できる場面があれば、積極的に人のために動きましょう。

 いつか生じてしまうミスや遅刻、衝動的な失言から生じた誤解を解きやすくするためにも、自分には悪意のないこと、精一杯皆の役に立とうとしていることをわかってもらっておくのです。自己受容ができればできるほど、周囲への理解も得やすくなることでしょう。

 

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。