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 インフルエンザの予防にワクチンは有効ですが、ワクチンだけでは完全に予防できません。他の予防法も同時に行った方が望ましいです。ワクチン以外にインフルエンザの予防法は何があるでしょうか。よく挙がるのが、手洗い、マスク、うがいです。このうち、うがいはあまり欧米ではなされていません。うがいはインフルエンザの予防に有効なのでしょうか?

 

 うがいがインフルエンザを予防するかどうかを検証するには、うがいをする集団としない集団のインフルエンザの発生数を数えて比較する必要があります。薬やワクチンはこうした比較試験で有効性が検証されてはじめて承認されます。

 

 実は、うがいをした集団としない集団を比較した研究はあります。ランダム化比較試験という質の高い研究です。18歳から65歳までの健康な人387人を、水うがいを行う群、ヨードうがいを行う群、対照群の3群にランダムに分け、60日間経過を観察し、上気道感染症(わかりやすく言えば普通の風邪です)の発症数を比較しました。有名な研究なのでご存知の方もいらっしゃるでしょう。日常的な臨床的疑問を質の高い研究デザインで検証した素晴らしい研究だと思います。

 

 結果は、対照群と比較して水うがいは有意に上気道感染症を減らしました。上気道感染症にかかったのは、水うがい群で34人(30.1%)、一方で対照群では50人(40.8%)でした。水うがいによって、上気道感染症が36%減ったことになります。なお、ヨードうがい群では、46人(37.2%)が上気道感染症を発症しており、対照群と有意な差はありません。

 

 水うがいは普通の風邪を予防すると言っていいでしょう。だったらインフルエンザに対してはどうでしょうか?この研究では、上気道感染症だけでなくインフルエンザ様疾患の発症数も数えています(「インフルエンザ」ではなく「インフルエンザ様疾患」なのは、ウイルスの検出ではなく症状から診断しているからです)。

 

 インフルエンザ様疾患の発症数は、水うがい群、対照群、ヨードうがい群でそれぞれ、11人(11.3%)、18人(15.0%)、10人(9.2%)でした。うがい群で発症数が少ない傾向にありますが、統計学的な有意差はありません。つまり、偶然でもこれぐらいの差が出ることがある、ということです。これでは、うがいがインフルエンザを予防するという明確な証拠にはなりません。もっと研究対象の数を増やせば、うがいがインフルエンザを予防することを証明できるかもしれません。しかし、現在のところは、うがいはインフルエンザの予防に有効であるという臨床的証拠は乏しいと言わざるを得ません。

 

 ただ、うがいは普通の風邪を減らしますので、やらないよりやったほうが得だと思います。その際、ヨードうがいはしないほうがいいです。ヨードうがいに含まれる成分が、正常な細菌叢(さいきんそう)や粘膜層に障害を与えるからかもしれません。水道水のうがいで十分です。

 

 

参考:

Satomura K et al., Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med. 2005 Nov;29(4):302-7.

Kitamura T et al., Can we prevent influenza-like illnesses by gargling?, Intern Med. 2007;46(18):1623-4. Epub 2007 Sep 14.

 

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。