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 今回のコラムは、締め切りになかなか間に合わない部下(配偶者、友人、同僚など)がいる場合、どう締め切りを設定したらうまくいくかについてご紹介します。

 

「すみません。まだ終わっていなくて。締め切りを1日延ばしてもらえませんか?」

「あと15分で資料が仕上がりそうなんです。先に会議を始めてもらえますか?」

 こんなセリフを誰でも一度は耳にしたことがありますよね。締め切りにギリギリ間に合わない人、ギリギリ間に合っても完成度の低いものしか仕上げられない人、徹夜してでもギリギリ完成度の高いものを仕上げる人。みなさんはどのタイプですか?

 ちなみに私は、若いころ、締め切りに間に合わない失敗を何度か経験しました。

 受験票の写真を撮り忘れていたことを提出前夜に気づくとか、大学の入学料を納め忘れたとか、「聴いておいてよ」と手渡されたCDを聴かずに一年間も放置し、その歌に込められた大切なメッセージを受け取り損ね、恋が成就しなかったとか、たまった郵便物の中から有効期限の切れた手続き書類を見つけたとか・・・。

 24歳ごろまで進路を変えるような失敗を多く体験しました。ずいぶん大切なものを失って、挽回(ばんかい)する方法もなくて、それでもずいぶん繰り返して。懲りて懲りて、いまや締め切りを前倒しして、せっかちなほどになりました。私のように極端から極端に変わる例は、意外に多いそうです。おそらく普通の人よりも、かなり意識して気をつけなければ、締め切りをうんと過ぎてしまうタイプなのでしょう。

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「あと15分で資料が仕上がりそうなんです。先に会議を始めてもらえますか?」

冒頭に紹介したこのセリフ。突っ込みどころ満載ですよね。

「じゃあ、なぜあと15分早く始めなかったんだ」

あなたが上司ならこう言いたくなりますよね。本人だって、その通りだと思っているはずです。

 今からスタートして30分で終わりそうな仕事なら、時間通りに完成させられるのに、数日から数週間という長いスパンの仕事になった途端、締め切りが守れなくなる。

 部下はこんなタイプの人で、私のエピソードのように本人にとって大切なものを明らかに何度も失っているのに失敗を繰り返している。それだけでは、ADHDと診断できるわけではありません。診断には他の情報も合わせてみないといけません。ただ、それに準じた「ADHDタイプ」とはいえるかもしれません。

 ADHDの方は、時間感覚を持ちにくいことがわかっています。普通の人が体の感覚で「だいたい5分」が分かるとしたら、ADHDの人は「お!きづいたらもう1時間たってたんだ!」というくらい、時間の感覚がアバウトです。さらに、ADHDの方は、アナログの時計(針で時を刻むもの)を好みます。ぱっと見て時間が多い、少ないが感覚的につかめるからだといいます。デジタル時計で「7:50」という表示をみて、「出発まであと10分」と思うより、アナログ時計の長針と短針の角度を見た方が「あとあのくらいか」とピンとくるのです。

 これほど時間感覚がアバウトなADHDの人に、「あと3日後までに仕上げてね」とか「1週間あったらなんとかできるかな」と言っただけではピンとこないのは納得できますよね。

 そこで、数日にわたる時間をアナログ時計のように感覚的に把握するのに便利なのは、タテ方向に時間軸を表記する「バーチカル」手帳です。

 「年賀状の作成」という大掛かりな仕事を想定して、バーチカル手帳を使って考えてみましょう。

(1)先に締め切りを決める

締め切りを決めたがらない人は多いです。クリスマスごろまでに投函(とうかん)すれば、めでたく元旦に届けることができるのです。それをみんなわかっているのに、「どうせできないだろう」「やらなくちゃ」と葛藤した末、締め切りを明確にしようとしません。仮に「今日から1週間後」を締め切りに設定しましょう。

 

(2)やるべきことを小さなステップに分ける

年賀状作成の手順をなるべく小さなステップに分けます。

年賀はがきの購入、市販のデザインテンプレート集からのデザイン決定、使う写真の選定、レイアウト、印刷会社への注文

といった感じです。手順を小さく分解して手帳に書き込みます。

 

(3)使える時間を「見える化」する(ここが肝心です)

締め切りまで1週間あると考えるとき、ADHDの人は下手をすると、「24時間×7日分=膨大な時間がある!」と捉えてしまいがちです。

本当にそうでしょうか。

 これは大いなる幻想です。実際には、1日のなかで家事や雑用、睡眠などの時間は多いのです。バーチカル手帳に書いてみれば、年賀状を作成するために捻出できる時間はごく限られていることが分かります。

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 この2日間で使えそうな時間は、1日目の朝8時以前か、翌日11時から14時までの郵便局にいくとき、15時からのバス移動中か夜、ということになり、使える時間は思ったより少ないことに気づけます。郵便局に行くついでにはがきを買うと都合がいいなとか、バスの移動中にデザイン集を眺めて選べそうだなとか、レイアウト作業は時間がかけられる夜の方がいいな、とかいろんなプランが思いつきそうですね。

 

(4)空き時間に「やることリスト」をパズルのようにあてはめる

このとき、どの項目にどのくらいの時間がかかりそうかを予想しながらはめこんでいきます。ふつうは「少なく」見積もって失敗するので、多めに時間をとるように心がけましょう。「頑張って、このくらいのスピードで仕上げなければ」と考えるよりは、実際にやれるかどうかを考えて行うとうまくいきます。

 ADHDやそれに準じたタイプの人に対しては、このように手順を追って一緒にプランを立てていくことが大切です。締め切り設定は早めの方がよいのか、遅い方がよいのか。

 答えは、「バーチカルなプランを立てることができれば、短い方がいい」となります。

締め切りまで時間があるからといって、誰もが計画を立てて取り組むわけではないことは、子どものころの夏休みの宿題を思い出せば明らかでしょう。「いつでもできる」という安心感から先延ばしにしてしまうのです。逆に、締め切りが早すぎるのも問題です。実際の空き時間をバーチカル手帳で視覚化しながら、ゆとりをもったプランを立てることができれば、締め切りが早くても間に合わせることができるのです。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。