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 各地で社会問題化しているごみ屋敷。先日、便利屋さんとお話しする機会があり、こんなことを聞きました。外から見るときれいなマンションの一室が、実は足の踏み場もない「汚部屋」になっていて、その掃除の依頼が増えているそうです。

 「汚部屋」と言っても、どんなごみがあるのか、どうしてそうなったのかは、様々です。他人からはごみにしかみえない弁当殻や割りばしなどが積み重なった部屋。いつか使うおうとためこんだ空き箱や端切れなどが混在した部屋。日々の郵便物や衣類などの日用品がうず高く積まれている部屋……。

便利屋さんいわく、「掃除のご依頼がある部屋は両極端です。足の踏み場もない汚部屋か、どこを掃除したらいいのかわからないくらいきれいな部屋(より完璧を求めたいのでしょうか?)」だそうです。

写真・図版

 

 ※画像は中島さん提供。九州大学病院精神科神経科行動療法研究室から許可をいただき、掲載しました。

 実は、このようなごみ屋敷ができる背景に、精神疾患が隠れていることもあるそうです。精神医学の領域では、「ためこみ癖(hoarding)」と呼ばれます。物を手放すことが困難で、それらを整理できずにためこみ、日常生活に大きな支障が出ている状態を指します。

 ためこみ癖は、強迫性障害の一種と考えられてきました。強迫性障害とは、鍵をかけて家を出たはずなのに、かけ忘れた気がして何度も確認するとか、手洗いをしたもののまだ洗い残しがあるような気がして何度も繰り返し何時間でも洗い続けてしまう、といった症状を伴う疾患です。

 しかし、近年の調査や研究で、ためこみ癖は、発達障害(ADHDや自閉スペクトラム症)、統合失調症、うつ病、脳器質疾患など他の精神疾患にも合併しやすいことがわかってきました。さらには、こうした精神疾患がなくても、単独でためこみ癖が生じる場合もあることがわかってきたのです。

 つまり、従来の想定以上にごみ屋敷の背景は多種多様であるということです。

 収集癖の延長線上にあるのか、不安などのネガティブな気持ちを落ち着かせるためなのか、なんらかの妄想に支配されてのことなのか。それとも、片づける方法が身に付いていないのか、その場しのぎで物を置きっぱなしにするからか、物の数や位置などの記憶が定かでないため念のため買い置きをしてしまうのか、汚い部屋から逃避するためなのか……。

 ADHDの方から相談を受けたとき、メインの困りごととして、部屋が散らかっていることを挙げる方はほとんどいません。おそらく「部屋が汚いことは精神科やカウンセリングで相談すべきことではない」と思っているのかもしれません。また、「部屋が汚いことは自分のだらしのなさを露呈することになるので、隠しておきたい」という考えが働くのかもしれません。

 しかし、ADHDの方に部屋の整理整頓の話題を持ちかけてみると、かなり高い割合で、「実は部屋が散らかっていて、とても人を呼べるような状況ではないのです」と明かします。汚い部屋は、自尊心をひどく傷つけます。また、忘れ物をせずに決められた時間までに家を出る妨げにもなったり、同居する家族からの小言を言われる原因になったりするのです。

 

 「部屋が汚い」という表現は主観的で、個人の感じ方によって、かなり違うものでもあります。一つの目安として、

①「足の踏み場があり、部屋にくつろぐスペースがあるか」

②「保険証など替えることができないものをなくしておらず、必要な時にすぐに取り出せるか」

 などと質問してみます。①と②の両方が×だと、「お!なかなかの汚部屋住人かな?」という印象を持ちます。

 そして、セラピーでは、重い腰を上げて、整理整頓に取り組めるよう支援します。まず、なるべく細かいステップに分けた「断捨離」計画を立てます。一気に片づけるには既に手に負えないごみの量になっていることもあるので、部屋の区画ごとや、ひとまず5分だけ物を捨ててみる、といった具合にやります。

 次に、部屋の片付けを中断しないための手を打ちます。ADHDの方は集中し続けることが難しい特性があります。片付けをしている最中に、手に取った思い出のアルバムにひたってしまい、片付けが何時間も中断してしまうことは容易に想像できます。こうした中断を防ぐためには、例えば、片付けの前にあらかじめ10分後にタイマーをかけておくとよいでしょう。もし、アルバムをみて、気持ちはすっかり10年前に戻ってしまっても、タイマーの音で「ハッ」と現在の自分に戻ることができます。戻ることができれば、また片付けを再開できるというわけです。

 また、テレビやスマホといった集中を妨げるものがあらかじめ分かっている場合には、それらのない環境を整えること(環境設定)も大切です。

 さらに、ADHDの方に特徴的な「先延ばし」で、片付け自体を回避してしまうことがないように手を打つことも大切です。片付けをしなければいけない必然性を持たせるのです。例えば、足の踏み場もないリビングに、前から欲しかった大きな観葉植物を購入してしまう。大きな観葉植物なので配達時間の午後2時までになんとか少しでもスペースを空けないと置けない!そうしたやらざるを得ない状況を作り出すのです。こうすると、一気にやる気を高めることができます。

 ADHDの方が陥りやすい汚部屋のことや、その片づけ方を簡単にご紹介しましたが、ためこみ癖の背景はさまざまであり、まだわからないことも多いそうです。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。