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 予防に気を付けていても、ひくときは風邪をひいてしまいます。風邪をひいてしまったら、温かくして安静にするのが一番です。症状がつらいときには薬を使ってもかまいません。ただ、一般的な風邪薬には症状を緩和する働きはありますが、風邪を予防する働きはありません。たまに「風邪のひきはじめなので早めに受診しました」という患者さんがいらっしゃいますが、正直なところ、あまり打つ手はありません。

 風邪に対して漢方薬が処方されることがあります。一番メジャーなのが葛根湯でしょう。医師が処方することもできますが、処方せんなしに薬局で買うこともできます。風邪のひきはじめに葛根湯を飲むと効果があるという主張もありますが、どうやったら検証できるでしょうか。そう、風邪のひきはじめの人をたくさん集めて、葛根湯を飲む群と飲まない群に分け、風邪が悪化する人の数を数えて比較してみれば検証できます。

 

 ひきはじめの風邪に対する葛根湯の効果を検証した、2014年に発表された日本の研究があります。この研究では、18歳から65歳までの風邪症状を感じて48時間以内の患者さんをランダムに二群に分け、一方に葛根湯を、もう一方に一般的な総合感冒薬(葛根湯と同じく薬局で買えるもの)をほぼ4日間飲んでもらって、風邪が悪化した患者さんの数を比較しています。

 結果は、葛根湯群では168名中38名(22.6%)、総合感冒薬群172名中43名(25.0%)が風邪が悪化しました。葛根湯群で若干少ないように見えますが、統計学的有意差はありません。著者らは「葛根湯は初期の段階で処方した場合でさえ、総合感冒薬に比べ、風邪症状の悪化を有意に防止しなかった」と結論しています。

 葛根湯の効果を厳密に検証するには、対照群には総合感冒薬ではなく、葛根湯と味やにおいがよく似た偽薬を飲んでいただくほうがより望ましいです。しかし、そのような偽薬は作るのが難しいです。かといって、何も薬を飲まない群と比較すると、「何か薬を飲んだから効いたような気がする」という気持ちの影響から結果が偏ります。この研究では、風邪の悪化を自己申告の自覚症状で評価していますのでなおさらです。

 薬局で買える総合感冒薬と比較するというのは、良いアイデアだと思います。気持ちの影響を完全にはゼロにできないものの、かなり小さくできます。何より、現実の風邪のひきはじめの患者さんは、薬局で葛根湯を買おうか、それとも総合感冒薬にしようかと迷うのです。現実にある選択肢を対照群にすると、現実世界へ応用しやすいのです。

 漢方薬に詳しい方は、「証(しょう)」に合っていない患者さんも研究対象に含んでしまったがゆえに差が出なかった可能性を指摘するかもしれません。葛根湯は風邪の患者さんになら誰にでも効くのではなく、葛根湯に合った病態(たとえば、体力があって汗をかいていない状態)があるとされています。この病態のことを「証」と呼びます。

 漢方薬に詳しい専門家がきちんと患者さんを診察し、葛根湯に合った証の患者さんだけを選んで臨床試験をすれば、別の結果が出たかもしれません。それはそれで価値のある研究でしょう。ただ、薬局で葛根湯や総合感冒薬を買う患者さんは、漢方薬の専門家じゃありません。その点でも、この研究は現実世界をよく反映しています。

 結論を言うと、風邪のひきはじめに飲んで風邪の悪化を予防すると証明された薬はいまのところありません。葛根湯でも総合感冒薬でも、あるいは薬を飲まなくても、おそらく大差はありません。つらい症状が出ていない段階では、病院を受診しなくてもかまいません。むしろ、インフルエンザなどの他の病気をうつされるかもしれませんので、あまりお勧めしません。

 

参考:

Okabayashi S et al., Non-superiority of Kakkonto, a Japanese herbal medicine, to a representative multiple cold medicine with respect to anti-aggravation effects on the common cold: a randomized controlled trial., Intern Med. 2014;53(9):949-56.

 

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。