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 年末は忙しいですね。大掃除にクリスマス、忘年会、帰省の準備、おせちの準備など。新しい年を迎える前に済ませておきたいこともありますね。ずっと処理しきれなかった領収書や写真の整理、していなかったお返事……。

 そんな忙しいときに、すぐに終わりそうにない、気の進まない仕事を複数こなすことは心も体も消耗します。

 ADHD(注意欠陥・多動性障害)の人は、自分にとってよほど興味があることでなければ、やる気を出し、重い腰を上げるのが非常に不得意です。そのため、「ま、いいや。あとでするから」と先延ばしをすることもこれまでお伝えしてきました。

 やる気を出すのが不得意であることについて、もう少し神経心理学的な観点から解説を加えたいと思います。

 何かに取りかかるときにはエネルギーがいるものです。ある活動を行うためのエネルギーを専門的には「活性化エネルギー」といいます。ADHDの人は、自分にとってよほど興味があることでないと、この活性化エネルギーをみなぎらせて物事を始めることができにくいそうです。「始める」ための活性化エネルギーをいかに自分で生み出すかがポイントです。これを、「自己活性化」と呼びます。

 ADHDの方のやる気スイッチを入れる方法(自己活性化)について、以前このコラムで紹介したことがあります。ポイントは、3つでしたね。

 

①すぐに結果のでないことにはやる気が出ない。

②新しいことに興味を持つが、同じことの繰り返しにはやる気がない。

③やっちゃだめなことにも我慢がききにくい。

 こうした特性を念頭におきながら、やるべきことを小さな仕事に分解する方法、常に新しいやり方を工夫しながら自分を飽きさせないといったこと。やりたくないことを先に終わらせることでどんな結果になるのかをイメージすること、脱線のきっかけになるような誘惑(ネットやテレビであることが多いのですが)のない環境を作り上げることなどをご紹介してきました。

 実際にこの方法で長年先延ばしにしていたことに、重い腰を上げて取り組むことができ、すっきりした方はたくさんいらっしゃいます。

 しかし、あまりにやることが多くて、それが年中続いている方の場合はどうでしょう。あるいは、他人からみたら、そんなに難しいことに見えないのに、自分にとっては恐ろしく難しく感じられることを日々こなさないといけないとしたら……。

 このシリーズの主婦サチコさんもまさにそういった悩みを抱えていました。サチコさんは、こどもの学校のPTA活動など、外の活動には人一倍のやる気を見せて、かなり働き者なのです。しかし、家の中のこととなると、自分でも驚くほどやる気が失せてしまうのです。

 たとえば、サチコさんが何年たっても慣れないのは、家事全般、中でも、夕食作りでした。それだけでもストレスなのに、掃除も、洗濯もしなければならないのです。これが生きている限り続くかと思うと、うんざりして倒れてしまいそうになります。

 サチコ「一体みんなはどうやって家事をまわしているんだろう。自分には日々の食事を用意しながら、洗濯をして、家をきれいに保って、金銭管理をして、身ぎれいにして、人付き合いもして……こんなに多くのことを毎日こなすなんて無理」。

 サチコさんは、上述した方法で、新しいお掃除方法を試したり、「今日はトイレ掃除をして、すっきりした気分で美容室に行くぞ」と、ご褒美(ほうび)設定をしてやる気を出したり、涙ぐましい努力をしてきました。しかし、こうも思うのです。

 サチコ「どうしてこんなに必死で努力しないと私は毎日の日常が送れないんだろう。こんなにがんばり続けるのは疲れる」

 そうなんです。やる気を出す方法はあっても、大量のするべきことを毎日こなし続けるのは、きついですし、無理があるのです。

 それではどうすればいいのでしょうか。

 やる気スイッチを一度押すだけで、複数の物事を片づけられるようにする仕組みを作る。名付けて「ついで作戦」です。

 重い腰を定期的に上げてトイレ掃除をしようとするから大変なんです。一回のトイレ掃除のために、美容室、マッサージ、ランチ、チョコレート、いったいいくつのご褒美を掲げ続けなければならないのでしょうか。それに、とりかかるまで「あー、そろそろしなくちゃなー」という憂鬱(ゆううつ)な気分をずっと味わい続けなければならないのです。

 それよりは、トイレに入るたびに「ついでに」掃除をするのです。ほとんど汚れていない段階ならば、重い腰をあげなくても、軽い気持ちで短時間で終わるものです。「ついでに」なんです。「わざわざ」ではなくて。

 そして、ついでに、トイレの電気のスイッチまで掃除するのはどうでしょう。ついでにトイレットペーパーの在庫を確認するのはどうでしょう。ついでに他にどんなことができるでしょうか。連動していくつかのことをこなすのです。そうすることで、一度の軽いやる気スイッチで、連動していくつかのすべきことをクリアすることができるのです。

 この「ついで作戦」を決行するには、物の配置をあらかじめ工夫しておく必要があります。その場にいるだけで、その作業がすべて完結するように道具を置いておくのです。トイレに入った後に、「あ、掃除道具がたりない」とリビングに出てしまっては、「ついで」にはなりません。掃除に必要な道具をすべてトイレ内に配置しておきましょう。

 

他にも応用できそうな場面をピックアップしてみましょう。

●ゴミ捨てのついでにゴミ箱の底に置いておいた新しいゴミ袋をかけかえる。ゴミ捨てを終えて玄関を通るついでに、掃き掃除する。

●洗濯物を取り込むついでに、手すりを拭いておく。

●電池が切れてから毎回買いに出かけるのは大変なので、まとめ買い。

●電子レンジで食べ物をあたためた後、取り出すついでにさっと中を拭いておく。

 

 なんだか口うるさいコラムになってしまいましたね。面倒くさいかもしれませんが、先延ばしにして、わざわざそのためだけにもう一度自己活性化するよりは、ずいぶんましなのです。ぜひ、おためしください。

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【認知行動療法の入門書が出ました】

12月15日に、著書を出版させていただきました。

「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 『認知行動療法』入門 」(光文社新書)です。

私はこれまで悩みを解決するためのセルフヘルプ本の執筆が多かったのですが、今回の本は初の新書で、認知行動療法入門書として、学術的に知識を深めたい方向けの本です。行動療法からマインドフルネスやアンガーマネージメントといった最新のトピックスまでを幅広く解説いたしました。よかったらお読み下さい。

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【大人のADHDの集団認知行動療法を行っています。】

このコラムのような大人のADHDの特徴で、日々の生活でお困りの方を対象にした集団認知行動療法(グループカウンセリングの一種)を福岡市で行っています。研究目的のグループです。全8回のプログラムで、週に1回、約2ヶ月間で時間管理と整理整頓を実践し、身につけます。

今年度の募集は定員となり終了していますが、来年度以降の開催予定についてお知りになりたい方はtimemana@hotmail.com(スパムメール対策で@を半角に変えてメールしてください)大人のADHD集団認知行動療法事務局まで。①名前②住所(郵便番号も添えて)③パソコンのメールアドレスを添えてご連絡ください。詳細が決まり次第、お知らせ致します。

【ADHDの関連書籍のご紹介】

大人のADHDについて、もっと学びたい方のためのワークブックをご紹介します。

「成人ADHDの認知行動療法~実行機能障害の治療のために」 

(メアリー・V・ソラント著、 中島美鈴・佐藤美奈子翻訳、星和書店)

前半は、大人のADHDの特徴や診断、理論、併存症に治療法、事例などが書かれている専門的な読み物です。

後半は、大人のADHDの集団認知行動療法用のテキストとリーダーズマニュアルになっています。ご本人がひとりで書き込みながら進めていくこともできますし、グループで使うこともできます。

計画的に物事を行えるようになったり、やる気を出す方法を学んだり、時間管理や整理整頓が行えるプログラムです。

私が翻訳に関わった本ですが、読んでいて本当に興味深く、面白い本でした。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。