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 みなさま、遅ればせながら、あけましておめでとうございます。新年初のコラムとなります。本年もよろしくお願い致します。この連載では、日々の生活で直面する様々な悩みや困りごとを、物事の考え方やクセを見直すことで行動を変えていく「認知行動療法」を用いて解決していきます。

 今回も昨年から引き続き「大人のADHDシリーズ」です。家の片付けができない、お金を使いすぎてしまう、子どもの学校行事や書類などの締め切りを覚えられない、料理も洗濯も家事が苦痛でしょうがない、といったことなどで悩んできた主婦のサチコさん(40代女性)のお話をしてきました。サチコさんのような子育て世代の人たちが最近、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されることが増えています。

 サチコさんはこれまでに認知行動療法のテクニックを用いて様々な課題に取り組みました。お金の管理、片付け、育児へのやる気の出し方の工夫、人間関係を円滑にする秘訣、やる気を持続させるコツなどについて学んできました。

 サチコさんは、本当に困っていて、自分でどうにかするしかない状況だったことが、これらの課題に取り組めた理由です。そして、もう一つの理由としては、サチコさんは、実は小さいときから「自分はなにか他の子と違う」という思いを抱えていたこともあります。

 小学生の時、他の女の子は机の中がきれいで、忘れ物もなくきちんとしていても、自分だけはいつもプリントをなくしたり、ハンカチを忘れたりしていました。授業も退屈でたまりません。席を立って歩きまわることはありませんでしたが、いつも頭の中は空想でいっぱい。「もしもこうだったら」「ああだったら」と頭の中を常に忙しくしていないと、じっと座っていられません。当時は、みんなそんなものだろうと思っていましたが、大人になってみると、そんなに四六時中いろいろ考え事をしていないと気が済まなかったのは自分だけだと分かりました。

 中学生の時には、家庭訪問にきた担任の先生に驚かれました。家での自分と、学校での自分があまりにも違っていたからです。家の自分の部屋は、足の踏み場もないほど散らかっていて、よく母親に叱られていました。片付けるのはいつも母親。一方、学校への提出物は遅れることはありませんでした。それは、母親から毎日のように口酸っぱくかばんの中を点検するよう言われていたからでした。家では、親から生活態度を注意されても、なかなか改善できず、いつも「何度言っても身に付かない」とあきれられていました。しかし、学校では、成績はむしろよい方で大きな問題を起こすことはありませんでした。

写真・図版

 

 学生時代は、「社会人になるのがこわい」と思っていました。というのも、サチコさんは、自分ひとりで朝起きて身支度をして、決められた時間までに着くことが非常に苦手だったのです。これは大学生になって一人暮らしをして初めて実感しました。親元で暮らしているうちは分からなかっただけで、規則正しく生活することに大きな問題を抱えていました。

 学生時代にアルバイトをいくつか経験しましたが、どれも1カ月もすると、出勤前にはどうしようもないくらい気分がどんよりして、やる気が出なくなりました。そして、どれも長続きしませんでした。なので、仕事についても、同じことの繰り返しでは、飽きてしまうのではないか、うんざりしてやめたくなるのではないか、と心配もしていました。

 結婚については、もっと深刻に心配していました。「自分の朝ご飯も食べずにバタバタと跳び起き、出かけている私が、夫や子どものために毎朝ご飯をつくるなんて絶対無理」と思いました。しかも、それが一生続くと考えるだけでめまいがしそうでした。

こうした心配事を女友達に話してもあまり理解されませんでした。「そのうち慣れるんじゃないの」とか、「完璧にできなくていいのよ」などと慰められるだけ。誰ひとり、同じような危機感を持っている人はいなかったのです。

 サチコさんのように、生きづらいという感覚を漠然ともつ人は多いようです。「他の人となんか違うかも」と感じていても、その感覚だけでは、なかなか精神科を受診するきっかけにはならないものです。

「職場で遅刻が多くて上司に受診を勧められた」とか、「仕事上のミスが多すぎて、上司に叱られ、うつ状態になった」といった仕事関連の理由で受診する方は多くいます。

 そして、最近、増えているのが、子どもがADHDと診断されたり、その傾向があると言われたりした親御さんが、主治医から説明を受ける中で、「え?それって、私にも当てはまるかも?」と気づくパターンです。

 今、子育てをしている親の世代が子どもだったころは、まだADHDという診断名が世の中には知られていませんでした。もし、ADHDという名称が使われていたとしても、授業中に席につかずに走り回っているような子ども像と理解されていた時代でした。上述したサチコさんのような、学校では一見すると問題行動は見られない、特に女の子のADHDは見逃されて来たのではないか、と考えられています。こうした親世代が、「自分はADHDではないか?」と受診するケースが増えているのです。

 確かに「昔はこうした人たちに診断をわざわざつけなくてもよかったのに、なんで今になって診断をつけようとするんだ」という批判もあります。

 でも、これまで診断されなかったために、自分は周りとは何か違っていて、「どうして、みんなみたいにちゃんとできないんだろう」とずっと責め続けてきたとしたら、どうでしょうか。あるいは、就職や結婚を「自分には手の届かない夢だ」とあきらめてしまったり、「自分は他の人のように物事がきちんとできない」と自尊心を失ったりしているかもしれません。

 お子さんの発達相談をきっかけに自分のADHDに気づいた場合、子どもへの理解を深めることもできます。また、子育てや家庭を維持していくための日々の出来事は、多岐にわたる大仕事です。女性のADHDの方の多くはこう言います。

「子どもが生まれるまでは、なんとかなっていたんです。でも、子どもが生まれた途端、もう手に負えなくなりました」

 まさしく、彼女たちのキャパ(容量)をオーバーしています。もともと、とても能力が高い人たちだったので、何とか社会生活を支障なくこなせてきたのです。人知れず、人並み以上に努力して、足りないところを補ってきたのです。しかし、あまりに多くの物を背負いすぎてしまったようです。

 困りごとを抱え、なんとかして立ち上がろうとするとき、自己を理解するために診断が役立つのなら、この流れは助けになると思います。ご本人たちは、生きてきた年数分のまわりとの違和感、生きづらさをすでに体感しているのです。そこに、ADHDと診断されることで、これまで医学的に積み重ねられた様々な知見が、自分の生活に応用できるようになります。その一例がこのコラムで紹介したような、ADHDの人に独特の脳のはたらきを知り、それに応じた学習方法や環境を工夫することです。自助努力をすることで、日々の物事を格段に効率よくできるようになるのです。

 

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【認知行動療法の入門書が出ました】

12月15日に著書を出版しました。「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 『認知行動療法』入門 」(光文社新書)です。私はこれまで悩みを解決するためのセルフヘルプ本の執筆が多かったのですが、今回の本は初の新書で、認知行動療法入門書として、学術的に知識を深めたい方向けの本です。行動療法からマインドフルネスやアンガーマネージメントといった最新のトピックスまでを幅広く解説いたしました。よかったらお読み下さい。

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【大人のADHDの集団認知行動療法を行っています。】

このコラムのような大人のADHDの特徴で、日々の生活でお困りの方を対象にした集団認知行動療法(グループカウンセリングの一種)を福岡市で行っています。研究目的のグループです。全8回のプログラムで、週に1回、約2ヶ月間で時間管理と整理整頓を実践し、身につけます。

今年度の募集は定員となり終了していますが、来年度以降の開催予定についてお知りになりたい方はtimemana@hotmail.com(スパムメール対策で@を半角に変えてメールしてください)大人のADHD集団認知行動療法事務局まで。①名前②住所(郵便番号も添えて)③パソコンのメールアドレスを添えてご連絡ください。詳細が決まり次第、お知らせ致します。

 

【ADHDの関連書籍のご紹介】

大人のADHDについて、もっと学びたい方のためのワークブックをご紹介します。

『成人ADHDの認知行動療法~実行機能障害の治療のために』 

(メアリー・V・ソラント著、 中島美鈴・佐藤美奈子翻訳、星和書店)

前半は、大人のADHDの特徴や診断、理論、併存症に治療法、事例などが書かれている専門的な読み物です。

後半は、大人のADHDの集団認知行動療法用のテキストとリーダーズマニュアルになっています。ご本人がひとりで書き込みながら進めていくこともできますし、グループで使うこともできます。

計画的に物事を行えるようになったり、やる気を出す方法を学んだり、時間管理や整理整頓が行えるプログラムです。

私が翻訳に関わった本ですが、読んでいて本当に興味深く、面白い本でした。

こちら(http://www.amazon.co.jp/dp/4791109090/別ウインドウで開きます )からお求めいただけます。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。