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 朝の忙しい時間帯に子どもから提出期限が迫ったプリントを差し出され、怒りを爆発させてしまったアオイさん。子育て中に直面する、このような怒りやイライラにどう対処したらいいか考えていきたいと思います。

 まず、【するべきでないこと】について挙げます。

 

×怒りにまかせる

 

 理由は詳しく説明しなくてもわかりますね。怒りを爆発させたり、怒りで自らの要求を押し通したりする様子を子どもが見れば、「ああやって怒鳴り散らせば、すっきりするし、人を動かすこともできるんだ」と学習してしまいます。たとえ、見習うべきではない「反面教師」だと分かっていても、心のどこかで学習してしまうのです。

 

×その場だけでなんとかしようとする

 

 これはついやってしまいがちです。朝の忙しいその場面だけ、怒りをおさめたり、子どもに改善を求めたりして、その場で問題を解決しようとすることです。怒りを感じたとき、私たちは思った以上に頭が働きません。心拍数は増え、血圧は上がり、身体は戦闘態勢に入っているのです。人によっては、相手の言ったことが聞こえなくなったり、論理的な思考ができなくなったりします。コンピューターでいうと、ほぼフリーズしている状態です。何かを冷静に考えるメモリーが不足しているのです。

 そんなときに問題を解決しようとしても、逆効果になったり、うまくいかなくて、ますますイライラしたりするでしょう。さらに悪いことに、怒りは伝染します。親がイライラする様子をみた子どもは萎縮するだけでなく、イライラしたときにより弱い相手にイライラを発散させるのです。その場だけで解決するのは限界があります。

 

×自分の忍耐力だけを頼りにする

 

 怒りの問題を抱える人の多くが、「なんとか怒りを抑え、我慢しなければ」と思います。しかし、皮肉なことに、そうやって抑圧した怒りほど、他人から見ると恐ろしく見えるものです。忍耐にはいつか限界がきます。怒りを我慢して、我慢して、沈殿させて、「恨み」にまで熟成させたあげく、事件にまでなってしまうことは避けたいものです。忍耐、我慢だけでは、どこかにひずみが生じるのです。感情にまかせて怒りを爆発させてはいけないし、その場しのぎでは解決できない。忍耐にも限界がある。では、どうすればよいのでしょうか。

写真・図版

 

【した方がいいこと】

 

◯とにかくその場を離れて感情の爆発を避ける

 

 怒りが「沸点」に達してしまったあとにできることは、怒りの爆発の影響を最小限にすることしかできません。つまり、子どもに怒りの爆発の火の粉を浴びせないことが大切なのです。そのためには、一刻も早くその場から立ち去ります。アオイさんの場合、みそ汁をあたためていたコンロの火を止めて、台所から離れます。ひとりになれる場所へ行くのです。

 「その場から離れる」ことを、「逃げている」とか「相手を取り残している」という理由から、好まない方もいるでしょう。しかし、怒りを爆発させた結果、相手との関係はどうなるでしょう。比べてみると、まだその場から一時的に立ち去ることのメリットの方が大きいことがわかるでしょう。

 ひとりになれる場所では、思いきり怒りを感じて下さい。「もーー!なんでこう忙しい朝にあの子はプリントを持ってくるのよ!」と、胸のつかえがとれるまで、十分に怒りを感じてください。ここで、「親なんだから、これくらいでイライラしちゃだめ」なんて感情に蓋(ふた)をするようなことはやめましょう。いったん怒りを感じきれば、恨みなどの沈殿は少なくなり、対人関係でのしこりや、怒りを抑えすぎたことで出る身体症状の予防にもつながります。

 

◯冷静になったときにしきりなおす

 

 十分に怒りを感じきると、やがて怒りはおさまっていきます(反対に怒りを無視したり、無理に抑圧したりすると、怒りは長引きます)。理想的なのは、その日の終わり、仕事や家事も終え、お風呂にも入り終えた後、心にゆとりのある時間にしきり直します。具体的には、「どうすれば、今朝みたいなことにならないか」という再発予防計画を家族で話し合うのです。

 「なんであんなことになったのか」という犯人探しをするような後ろ向きな考えではなく、「これからどうしていけば、あんなことにならないか」と前向きに計画を立てるのです。

 怒りの問題を抱えている人の中には、「やっとイライラが収まったのに、また蒸し返したくない」と振り返りを避ける人もいます。しかし、どうすれば同じことを繰り返さないか対策を立てておくことが、イライラの一番の予防になるわけです。

 それでは、どうやって再発予防計画を立てればよいのでしょう。ささいなことでカッとしてしまう自分の性格を自覚し、無理をしないことです。つまり、アオイさんの場合には、朝は忙しい時間帯で、ただでさえやることが多く、イライラして、余裕がないのです。この時間帯は、たとえ、プリントの提出期限が来週だったとしてもイライラするかもしれません。それならば「イライラしないように我慢する」というのは、無理な行動目標になります。

 個人の努力に頼ることは、長い目でみれば長続きしません。次回は長続きさせる方法について詳しくご紹介します。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。