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 前回は、怒りの爆発を再び繰り返さないための「再発予防計画」をご紹介しました。子供にイライラしたときにしない方がいいことには、「怒りにまかせる」、「その場だけでなんとかしようとする」などがありましたね。した方がいいことには「その場を離れて感情の爆発を避ける」、「冷静になったときにしきりなおす」でした。今回はさらに「構造化する」方法を付け加えたいと思います。

 

 構造化とは、臨床心理学の中で発達障害の子どもや大人への支援の中でよく使われる言葉です。その人が生活しやすくなるように物の配置や、動線などの物理的な環境面を整備することを指します。例えば、人のやる気やとらえ方のような内面にアプローチして仕事上のミスを防ごうと注意喚起するのとは違い、ミスを防ぐために仕事のファイルを色分けして、視覚的に理解しやすくする、といった物理的な構造を整えることです。

 

 怒りを花火にたとえると、導火線に火がついてしまえば、爆発は時間の問題です。花火を打ち上げずにすむ方法は、そもそも点火させないことです。そうすれば、我慢に頼らずにすむので、どこかに余波が出て、原因不明の身体症状や食べ過ぎや飲み過ぎのような依存行動を予防することができます。

 そもそも怒りの導火線に点火させないためにどうしたらいいでしょうか。そのためには、下準備が大事です。

 朝の場面に戻ってみましょう。ただでさえ忙しい朝、子どもが提出期限が今日に迫った書類を差し出しました。このような事態を下準備して回避するのです。では、子どもにどんな行動をあらかじめさせればよいのでしょう。また、無理なく子どもにその行動をさせるには、どんな下準備が必要でしょうか。

 おそらくほとんどの親は、「学校から帰ったら、もらってきたプリントを出しなさい」と子どもに言っているはずです。既に学校から帰ってすぐにプリントを出す習慣が身についている子どもは、今回のようなことにはならないはずです。しかし、なんらかの理由で親からそう言われただけでは身につかない子どももいます。たとえば、学校から帰って大急ぎで習い事へ出かけなければならない子どもは、かばんを置いて大急ぎで家を出て行かなければならず、プリントを出すことを忘れがちになるかもしれません。あるいは、親から言われたことをその場では聞くつもりでも、学校から帰ってくると疲れているし、早くみたいテレビもあり、忘れてしまうのかもしれません。

 いずれにしても、親が口で言っただけでは、子どもには「学校から帰ったらプリントを出す」という行動は定着しないことがあります。

 子供がプリントを出せない原因の仮説をもとに対処法を考えてみます。

仮説その1:忘れている

 子どもがプリントを出すことを帰宅したタイミングで忘れているから、出せないのではないか。

◎対処法:帰宅したタイミングに親が家にいれば、行動として定着するまでの間、親の方から「今日はプリントない?」と声かけをします。子どもにタイミングを教えるのが目的です。明日の朝は特に忙しいとわかっている場合には、「ねえ、明日の朝、すんごく忙しいのよ。明日の朝プリントとかあっても、お母さん知らないからね。今のうち出しておいてよ」と予防線をはっておくのはいかがでしょうか。

仮説その2:めんどくさい

 カバンを置く場所と親のいる場所が遠いうえ、動線が悪く、おっくうになっているのではないか。

◎対象法:大人だって、帰宅後すぐに、コートをクローゼットにしまった方がいいことは頭ではわかっています。しかし、ついつい、温かい部屋でコートを脱いで、リビングのソファーの上などに置きっぱなしにしてしまうことはありませんか。だって、クローゼットのある部屋は玄関から離れていて、しかも暖房が効いていない寒い部屋だからです。こういう構造では、「やらなくちゃ」と思っていても、めんどうくさくなってしまうものです。こうした行動は持続しにくくなります。クローゼットにコートをしまうことは一旦あきらめて、いっそのことリビングにおしゃれなコート掛けを置いてしまうとうまくいきます。もしくは、玄関など必ず通るところにコート掛けコーナーを作ることです。自分の動線で無理のないところですますのがポイントです。

 同様に、子どもが帰宅後にカバンを置く場所はどこでしょう。その場所のすぐ近くにA4ほどの大きさのプリント入れを作るのはいかがでしょうか。こうして環境を整えることで、驚くほど面倒くささが軽減していきます。(環境の構造化)

写真・図版

 

 時間的に近い行動とセットにすることで、プリントの出し忘れを防ぐ方法もあります(時間の構造化)。たとえば、寝る前に次の日の洋服を準備する習慣のある子どもには、その時間にプリントを出す行動をセットするのです。既にある行動とセットにすれば、忘れにくいというわけです。

仮説その3:やる気がない

 本人がプリントを出す必要性をあまり感じていないのではないか。

◎対処法:子どもは、学校からもらうプリントの提出が遅れることをどのくらい大変なことと思っているでしょうか。おそらく親ほどの焦りはないでしょう。多くの場合、大人が転ばぬ先の杖をついて、プリントを出すよう急かします。提出が間に合わなかったときに、必死で穴埋めするのは親だからです。

 プリントの提出が遅れることで、子ども自身が「やばい!ちゃんと出さないと!」と、きちんと認識できるようにするにはどうすればよいでしょうか。何度言ってもわからない子どもには、社会に出る前に軽く失敗を経験するのも一つの手です。つまり、プリントの提出が遅れたことによる一連の尻拭いを子ども本人にさせるのです。自分で学校の先生に謝ったり、どうやって穴埋めすればいいか考えたり、親にプリントを書いて欲しいと頼んだり。自分の行動の結果をきちんと体験できれば、「よし、プリントをちゃんと出そう」と必要性を感じることができるでしょう。

 ただ、この方法は、親にも忍耐が必要です。カバンを片づけるついでにプリントを無事に出すことができれば、その後、おやつが食べられる、といったごほうび方式の方が穏やかに物事が進みます。行動の結果、ご褒美がもらえるという「オペラント条件づけ」を利用するわけです。こうした結びつきが何度か続くとそれはやがて習慣になります。習慣になってしまえば、やがておやつがなくても、自然とカバンを片づけるついでにプリントを出せるようになるというわけです。

 今日ご紹介した方法は、「帰宅後カバンを片づけてから、プリントを出す」という行動が動線上も、心理上も無理なく発生しやすくなるよう、環境を構造化する方法でした。記憶力ややる気だけに頼ることなく、子どもにして欲しい行動をあらかじめ教えて習慣にしておくことで、イライラの火種を減らすことができ、導火線に火がつかずにすむのでしたね。ぜひ、お試し下さい。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。