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 今回は医療・介護・福祉などの職場について書きます。「人にかかわりたい」とか「誰かのために何かしたい」とか、そんな思いを持って仕事を選んだ人もいるでしょう。あるいは今もそんな思いを持ちながら日々の仕事に取り組んでいる人もいるでしょう。もし、そうでなかったとしても、対人援助の仕事は「人とのかかわり」なしには成り立ちません。

 それにしても、「人とのかかわり」というのは難しいものです。ケアの対象者やその家族とのかかわりも、全てが順調にいくわけではありません。良かれと思って行ったとしても、うまくいかないこともあり、日々より良いケアに向けて悩みは尽きないでしょう。そして、職員も、人それぞれ性格も考え方も異なります。職員同士も人と人とのかかわりですから、悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。

 厚生労働省が毎年テーマを変えながら労働安全衛生に関する調査を行っています(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/list46-50.html別ウインドウで開きます)。

 2016年10月に公表された2015年の労働安全衛生調査によれば、メンタルヘルス不調により退職した労働者の職種別の統計では「医療、福祉」が「情報通信業」「宿泊業、飲食サービス業」とともに最も高い割合という結果でした(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h27-46-50_kekka-gaiyo.pdf別ウインドウで開きます)。また、2012年の労働者健康状況調査では、約6割の労働者が「強い不安、悩み、ストレスを感じることがある」と回答し、医療福祉職は7割を超えていました。医療福祉職は、ほかの職種に比べて不安や悩み、ストレスが高く、その内容は「職場の人間関係の問題」が一番多いという結果でした。仕事の忙しさや仕事の質に関する悩みと並んで、職員同士の人間関係に悩んでいる人もいることが読みとれます。

▼労働者健康状況調査の詳しい統計データ(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001052479&cycleCode=0&requestSender=estat別ウインドウで開きます

 病院なら様々な職種が連携しながらチームとして医療を提供します。だからこそ、良好な人間関係を保つことは職場環境の重要な要素になります。しかし、職員一人一人は年齢も性格も考え方も違いますし、資格や受けた教育も異なります。介護や福祉の現場も、多様なキャリアを持った人が一緒に働いているでしょう。人が集まれば、意見が対立することもあります。パワーハラスメントや職場内のいじめなど、職員同士の人間関係に課題を抱える組織もあるかもしれません。

 怒りの感情には、身近な人に対して強くなりやすいという性質があります。毎日顔を合わせているからこそ、イラっとしたり対立したりするのです。ねたみやひがみなども身近な人に強く表れやすい傾向があります。

 身近な人にイラっとしやすいのは、いつも一緒にいるのだから自分のことをわかってくれているだろうという期待や、言った通りに動いてくれるはずといった相手をコントロールできるという思い込みなどが影響します。新入職員を指導したら、「説明したのにどうしてできないの?」とハラハラしたりイライラしたりします。他の部署の出来事を聞いていると「一回の説明では出来ないこともあるわよ」などと客観的にアドバイスできるのに、自分の部下だと冷静ではいられないこともあるのです。仕事では冷静でいられるのに家族に対しては怒ってしまうという人も、家族がより近い存在だと言えるでしょう。

 ねたみやひがみも、身近な人に対して抱きやすいもので、自分と相手を比べて自分の気持ちが揺さぶられてしまうのです。著名人や別世界で大活躍している人に対しては、自分にプラスになることを学ぼうという姿勢になることはあっても、仕事が手につかないほど敵意をむき出しにすることはないでしょう。それが、同じ部署や身近な人に対しては、成果を上げた、資格を取った、注目されたというと、心がざわついてしまうという経験があるのではないでしょうか。

 感情は、良いも悪いもなく誰にでもあるものです。ですから、こんな風に感じてはいけないというものではありません。ただ、意地悪したり嫌味を言ったりすると、周囲の人を傷つけたり、あるいは自分が傷ついたりしますし、人間関係を悪くしてしまうこともあります。このような性質があると意識しておくだけでも、不要な怒りに振り回されるのを防ぐことができます。

 職場の人間関係は、患者や利用者へのケアにも影響しますし、何よりも自分の生活に大きく影響します。イラっとした時に思考や感情を変えることはできなくても、このような感情の性質があることを思い出してください。

▼怒りっぽさ解消のヒントはストレス対処(http://www.asahi.com/articles/SDI201609167568.html

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編集部から

 田辺有理子さんの本が8月31日に出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。