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 子育てでイライラしたとき、怒りの導火線に火をつけないためには、子どもがその行動をしやすくなるようにあらかじめ環境を整えておく「構造化」という方法が有効だという話を前回のコラムで紹介しました。

 たとえば、学校から帰ったとき、ランドセルを決められた場所に置くことが身に付いている子どもに、その場所のすぐ隣にプリントを入れる箱やトレーを設置すれば、「ついで」に学校からもらったプリントを提出しやすくなる、というものです。

 しかし、親御さんたちからはこんな声も聞こえてきそうです。

 「そんな工夫なら、とっくにしています。うちの子は、私がどんなにプリントを出すように言っても、話半分というか、聞いていないんですよね!」

 あり得ます。そういう子どもは多いかもしれません。右から左へ話を聞き流してしまうタイプです。何でも「スルー」してしまうので、いっこうに行動が改善せず、親御さんのイライラは、ますますヒートアップしますね。

 このように人の話を「スルー」しがちな子どもに、こちらがして欲しいことを伝えるためには、どのようにしたらいいでしょうか。

 まず、効果をあまり期待できない伝え方の例をご紹介します。

 

【効果が期待できない伝え方】

 子どもはリビングでゲームに夢中です。台所で夕飯の支度をしながら、大きな声で子どもに呼びかける。

「ねー、今日はプリントないのー?朝出したって知らないからね。ランドセルの横にかごを置いたから、そこに入れてね。」

 子どもは生返事でゲームを続けています。

 忙しいときほど、このようなやり方になってしまいますね。何が問題か考えてみましょう。

 

 これは「タイミング」です。タイミングが悪いのです。子どもがゲームに夢中で、しかも自分も料理をしているという余裕のない状況です。

 これでは、子どもの注意をひきつけることができません。忘れがちですが、相手にきちんとしてほしいことを伝えるには、最低限、こちらに視線を向けてもらい、注意や興味をひきつけることが必要です。

 たとえ伝える内容が正論であっても、相手にその内容を受け止めるだけの準備が整っていなければ、伝わらないのです。その準備をこちらがしてあげる必要があります。

 キッチングッズの実演販売や視聴率の高いテレビ番組に登場する人の話し方を思い出してください。必ず最初に、こちらの注意や興味をひきつけるような「つかみ」があります。実演販売のおじさんは、いきなり本体の説明をしません。まず、「いつもお食事の準備が忙しくて凝った料理なんて作る暇がないわー、なんて嘆いてる方はいらっしゃいませんか?」などと切り出して、聞いている人の共感を引き出します。こうした「つかみ」がうまくいけば、相手はこちらの話を聞いてみようかなという気持ちになります。

 このような「相手の注意を十分にこちらに向ける」という作業は、子どもに発達障害の傾向がある場合には必要なことがあります。障害児教育の分野では、古くから用いられて来た手法です。

 こちら側の「話しているのだから、当然聞いているはず」という思い込みを見直して、「ちゃんとこちらの顔を見ているか、話の内容に集中しているか。できていないようなら、興味のある話題をふるなどして、関心をもってもらう」という態度が有効なのです。

 それでは、効果的な伝え方の例をお示しいたしましょう。

 

【効果的な伝え方】

 家族でレストランに食事をしにでかけました。そのレストランで、持ってきたゲームは一度カバンにしまうように言って、料理が出てくるのを待ちます。

「◯◯ちゃんは、この前、かっこいい小学生になりたい、って言っていたよね」

(子どもがうなずくのを確認して)

「学校からもらったプリントを、朝出してママに叱られるのはかっこわるい小学生だよね」

(子どもの反応をみて)

「今度から忘れずにプリントをママに渡す方法考えたんだけど、聞いてみたい?」

(うなずいたら)

「家に帰ったら、一緒に練習しよう」

 ポイントは、外出先で伝えるということ。テレビもなく、他の邪魔も入りにくく、かつ、逃げ場のない場面で話を切り出します。さらに、その子の興味や関心に沿った「つかみ」を用意して、興味をひきつけます。

 

写真・図版

 日々の暮らしに追われていると、様々な場面でうまくいかないことに遭遇します。もし、イライラが続いているようならば、こうした普段とは違う場面を定期的に演出してみるのはいかがでしょう。効果的に言いたいことが伝わるかもしれません。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。