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 前回は、「なかなか話を聞かない子どもに、してもらいたいことをどう伝えるか」というお話をしました。コツの一つに、子どもの興味を十分に引き付けてから話を切り出すというのがありましたね。しかし、子どもの興味や関心を引き付けるのが、案外難しい、という声もいただいきました。

 

 「うちの子は、無気力というか、やりたいことがあったり、特別な興味を持ったりしているわけではなく、特技といったものもありません」

 そう感じる親御さんは多いかもしれません。「大きくなったら、何をしたい?」という問いに、明確に答えられる中高生は案外少ないのではないでしょうか。

 親にとって、子どもが何に対してやる気を出したり、興味をもったりしているかが分かりにくい状況とも言えます。

 ゲームばかりして、他のいろいろな世界のことに触れる機会が少なくなっている。あるいは、テレビを見てばかりで、受け身の姿勢になっている。授業や習い事に埋め尽くされ、余裕のない毎日ではありませんか。そんな状況に置かれている子どもの様子から、どんなことに興味をもっているかを観察することは、親といえども難しいのではないでしょうか。

反対に、子どもからすると、「どうせ何かをしたいと思っても、許してもらえないだろう」とあきらめてしまうこともあるかもしれません。そんな子どもたちの「やるきスイッチ」につながる興味や関心を探すのは至難の技です。

 

 ここはひとつ、親の踏ん張りどきです。

 「我が子のことなら、自然にわかる」という思い込みをいったん捨てましょう。まるで、初めてつきあう異性のように、真っ白な気持ちで、いま現在の我が子を観察します。

 「この子は英語が大好きで、寝食忘れるほど没頭している。将来はこの英語力を生かして欲しい」といった大きな発見をするイメージではありません。

 「ひとまず、この子が日々の生活力をつけるためのきっかけが見つかればよい」というぐらいのスタンスでかまいせん。子どもの興味や関心を引き付けるような「ご褒美」がないか探してみるのです。

 まず単純に、「子どもの自由時間で、最も長い時間を費やしているのはどの活動か?」を調べるのです。

 最近は、幼児でもスマホの動画やテレビに夢中になっているという話をよくききます。中高生ともなると、スマホやゲームに費やす時間が上位に来るかもしれません。ネットがやめられない子どもも多くいます。

 実は、これが「ご褒美」になり得るのです。

 「待ってください。ネットもスマホもゲームも、親としてはやめさせたいんですけど。ご褒美になんてしたくないですよ」

 そんな声が聞こえてきそうです。確かに、わたしも我が子をネットやゲーム依存にしたいとは思いません。しかし、次のように考えてみてはいかがでしょうか。

 たとえば、休みの日に放っておけば10時間でもゲームをし続けてしまう子どもがいるとします。これは「ご褒美」が飽和状態です。どう見ても多すぎます。それでも本人は「もっとやりたい!」と思っています。

 そこで、このゲームをほどよい「ご褒美」にするには、こういうルールを作ります。

 「学校から帰ってきてプリントを提出カゴに入れたら、ゲームを30分間してよい」

 これに対しても「すでにゲーム三昧の我が子には、30分間のゲームなんて、なんのご褒美にもなりません」と親御さんからは言われそうです。

 おっしゃるとおりです。しかし、大事なのは、この30分間以外の時間は、ゲームができない、もしくは、かなり制限することです。子どものやる気スイッチを押すためには、「ご褒美もらい放題」の生活を改めて、身につけてもらいたい行動をした時だけ「ご褒美」がもらえる環境を整えていかなくてはならないのです。

 ただ、子どもの年齢が上がるほど、ゲームなどの時間を制限するのは難しくなるでしょう。多くの親御さんは、「あの子にゲームを制限するなんて、無理です。すごい勢いで怒り出すし、余計に手がかかります」と、我が子の激しい反応(抵抗)を予想して険しい顔をされます。

 確かに子どもに激しく抵抗されるのは避けたいです。でも、「激しく抵抗すれば無制限にゲームができる」ということを「学習」し、自立心の乏しいまま大人に成長してしまうのとどちらがいいでしょうか。

 

 例えばゲームを無制限にしてしまうような望ましくない行動について、心理学の分野では、「間違った学習」をしたことに問題があると考えます。そして、その学習を「解除」(激しい抵抗と、思い通りにできることの結びつきを切る)し、他の望ましい行動を教えて適応を促すことを目指します。そうして、セラピーを組み立てていくのです。

 赤ちゃんの頃から、「激しい抵抗をすれば思い通りになる」というパターンが親子の間で繰り返されているとしたら、どこかで軌道修正をする必要があります。私達は好き勝手に自由に行動したいという欲求と同時に、「ある程度、自分で自分をセーブしたりコントロールしたりしたい」という欲求ももっているものなのです。そこを育ててあげるのは大人の役割です。

子どもが10歳くらいになれば、きちんと説明すればわかると思います。

 「いじわるでゲームをとりあげるわけではないんだよ。自分でゲームをする時間を管理する力をつけなきゃいけないんだ。できるようになると、もっと○○できるようになるけど、できないと××になってしまうかもしれない(子どもにとって、ピンとくる例を挙げる)。面倒なこと、やりたくないことでも、それをした後のご褒美は気分がいいよ」

 このような説明で、子どもが納得すれば大成功です。

 でも、親子という親しい間柄で、しかも日々の暮らしの中にあるゲームの時間をめぐる攻防戦は激しいものになることは覚悟しておきましょう。ただ、こうした説明をせずに、親が一方的にゲームの時間をコントロールするよりは、かなり効果は期待できます。

 つまり、親にゲームの時間をコントロールしてもらっていた子どもよりも、完璧にはコントロールできなくても自分で納得して自ら管理しようとした子どもの方が、その後、ゲーム三昧(ざんまい)にならずに、自分を管理できるようになる可能性が高いのです。

写真・図版

 

 いかがでしたか。親にも大きな覚悟が必要ですね。子どもの行動が習慣化するまでの間、親も毅然とした態度でいるだけでなく、自身の欲求もコントロールしている生活態度を子どもに示す必要があります。子どものゲームを制限しながら、親はだらだらスマホをいじっているのでは示しがつきません。

今回お示ししたのは、しつけの一環ともいえますが、これが、子育て中のイライラの予防に最も有効なのです。実行するにはかなりに覚悟とエネルギー、理性が必要です。かくいう私も子育て奮闘中です。なかなか理想通りにはいきませんから、時々やらかします。そして、そのたび立ち止まって、ご褒美はなに?身につけて欲しい行動は?と、仕切り直しているというわけです。子育ては親育てと、まさに実感する日々です・・・。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。