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 いつも一緒にいる人や身近な人には、イラッとしやすく、怒りが強くなりがちです。ねたみやひがみを抱きやすいとも言えます。これは厄介なもので、他人に対しては納得できても、自分のなかに沸き起こる感情については認めたくないこともありますよね。

 さて、今回は怒りの特徴をもう一つ取り上げます。それは、高いところから低いところへ向けて表出されやすいということです。水が高いところから低いところへ向かって流れていくようなものです。高いところから怒りを投げつけられても、下から戻すことができずに、もっと低いところへ怒りを向けてしまう場合があるのです。

 本来、人と人との間に上も下もなく、すべての人は価値ある存在です。しかし、現実には、職場では職位や勤務年数、また部署間の関係など、様々な形で上下の関係があります。組織が円滑に運営されるためには、指示命令系統の整備は不可欠です。ところがさらに厄介なことに、人の上下関係というのは実にあいまいで、場面や状況によって上下が入れ替わることもあります。

 

 例えば、職場で上司に怒られた内容が理不尽だと思ったとします。それを上司に伝えて、双方が納得するまでやり取りできれば理想的ですが、そのようにできないことも多いのではないでしょうか。ムシャクシャした気分で仕事に戻って、自分の同僚や部下に対して不機嫌な態度をとったり口調が強くなったりすることもあるかもしれません。それが、ハラスメントやいじめとして表面化することもあります。

 力関係が職位によって決まるかというとそうとも限りません。ハラスメントと言われることを恐れて、部下に注意できない、指導できないと悩む管理職もいますし、反対に勤続年数が長い一般職員や非常勤職員が、組織のラインとは別の力関係を持つ場合もあります。

 取引先やお客様への対応なども、一方がへりくだり過ぎたり、特別扱いを求めたりと、対等とはいかないことがあるでしょう。

 病院で医師と患者の関係ではどうでしょう。患者が処方された薬を使っても芳しくないと言い出そうとした時に、医師から「私の治療に口を出すとは何事か!」と怒鳴られるようなことがあれば、患者は何も言えなくなってしまいます。医療者がこの記事を読んだら「今どきそんな医師はいない」と思うかもしれません。ところが患者側に聞いてみると、医師の機嫌を損ねないようにという気遣いは絶えないようです。言いたいのに言えない不満や不安が家族や看護師など、別の相手に向かって表出されることもあるのです。

 医師と患者との関係は、医師が上で患者が下かと言えば、これもまた一概には決められません。モンスターペイシェントやハードクレーマーという言葉に表されるように、医療者や病院に対して脅しや暴言・暴力などの手段で理不尽な要求を迫る患者がいることも事実です。

 

 本来、医療者と患者は対等な関係でコミュニケーションを取りながら治療方針を決めて医療を提供し、療養を行うものです。そのような時代になってきていると思いますが、この関係は未だ不安定です。医療者の多くは、患者を中心に患者を尊重するという教育基盤の上に、より良い医療を提供するために日々努力しているのに、一方で気づかぬうちに高圧的な対応をしてしまうこともあります。また、患者のなかには、医療者の顔色を伺って何も言えない人もいれば、反対に脅しや暴言・暴力で要求しようとする人もいます。

 感情を不適切な形で表出してしまう時、人は上下関係を作って上に立とうとします。そうなると次々に上下の関係が作られて、怒りの流れが生まれてしまいます。ですから私たちは、怒りの流れにのみ込まれていないかを見極める冷静な目を持つのです。相手が怒っている時に、相手の要求や改善点が自分の問題なら対応すれば良いですが、八つ当たりされた感情までを一身に受け止める必要はありません。

 また、上から流れてきた怒りの感情を別の誰かへ流さないように意識しておくことが大切です。流れてきた怒りを処理できないまま別の怒りに上乗せして、さらに下に向けて流したりしないように、誰との間に生じた怒りなのか見直してみてください。

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■編集部から

 田辺有理子さんの本が8月31日に出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。