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 これまで子どもに対して、どのようなしつけをすれば、親も子どももイライラせずにすむかを、認知行動療法の知見を交えてお伝えしてきました。特にこのシリーズで多く取り上げているADHD(注意欠陥・多動性障害)の特性の強い親御さんの場合は、一般的にその場の自分の感情にふりまわされがちで、長期的な目標に向けて一貫したしつけができにくいといわれています。

 

 たとえば、興味のあるネットオークションがある時は食事を抜いて熱中し、子どもの食事のマナーを何も指導しないでしょう。一方、そうでないときは、子どもにたくさんの食事のマナーを教えようとするかもしれません。食事は毎日のことですから、その日の状況によって、しつけの程度も異なるのでしょうが、ADHDの特性のある方の場合には、その「ムラ」が大きく、気分によって変動します。そのため、子どもからすれば、予測しにくく、効果的なしつけにはならないのです。

 同様のことは、ADHDの特性がない方でも言えます。子どものしつけでは、教えるべきことがたくさんあります。食事の場面を例にとっても、数え切れないほどのことがあります。

写真・図版

 

「ほら、食べるときにはちゃんと左手を器に添えて」

「口を閉じて食べる」

「食べ終わるまでは、次の食べ物を口に入れない」

「ご飯の途中で立ったらだめ」

「こぼさないで」

 

 こんな風にレストランで、子どもに対して言い続けている親御さんを見かけたことはありませんか。大人になって食べ方がきれいでないと、子どもが恥をかいてしまうのではないか。食べ方に育ちが出る、という話も聞いたことがありますね。乳幼児を育てる親御さんなら、必然的に食事のマナーに関しては口うるさくなってしまうのも仕方ありません。

 しつこく言い続ければ、子どもは食事のマナーをきちんと身につけることができるのでしょうか。子どもがおとなしく、比較的従順な性格なら、マナーの「型」を身につけるのは早いかもしれません。ただ、子どもにとって食事の時間は、楽しいものではなくなるでしょう。また、言われたことを受け身で聞いている繰り返しでは、その子が、「私できたんだ!」と達成感を感じにくくなりかもしれません。子どもの性格によっては、全く言うことを聞かなくなる可能性もあります。

 細かいしつけをしている親も全く楽しくありません。食事の味などわからないでしょうし、常に我が子を監視するような目でみているようです。子どもが、がんばってコップでお茶を飲めたという事実に気づかなかったり、気づいていてもそのことを褒めもせず、「お茶碗に左手を添える」という次の課題を厳しく求めているかもしれません。褒められることもなく、次々に課題を課されている状況は、子どもからすると、まるで無報酬のままブラック企業で働かされているようなものです。多くの場合、「どうせがんばっても認めてもらえないんだ」とやる気をなくします。

 

 それではどうすればよいのでしょう。極端な例を挙げると、「食事のマナーなんて小さいうちから教えなくていい。食べこぼしてもいいから、食事の時間が楽しくなればいい」という意見もあるでしょう。そのポリシーに心から賛成して、どんなに子どもが食べこぼしてもイライラしない自信のある親御さんなら、それでもいいと思います。汚してもいい服や食事用エプロンを着せるとか、食べこぼしを想定して床にレジャーマットを敷いておくとか、手でも食べやすい形状のメニュー(ミニサイズのおにぎりやスティック状のきゅうりやチキンナゲットなど)をつくるとか、工夫をするのもいいでしょう。

 しかし、ダイニングテーブルが食べこぼしで散らかるのを見てイライラし、「私はそこまで心の広い親じゃない。この子にはいつから食事のマナーを教えればいいの?」と不安に思う人もいると思います。

 そんな人には、発達障害などの子どもの親が効果的な子どもとのかかわり方を、行動療法の視点から学ぶ「ペアレントトレーニング」をご紹介します。

 

「ターゲットにする行動と、あえて見逃す行動を区別する」

 すべての食事マナーを同時に身につけさせようとするからできないのです。そして、イライラしてしまうのです。

 たいてい一度に身につけられるスキルは1つです。それは大人でも同じです。初めてパソコンを触ったときのことを思い出してください。ブラインドタッチなんて、絶対無理!と思いませんでしたか。キーボードとにらめっこして、文章を打つのに何時間もかかりませんでしたか。やがて、クリックやドラッグ、コピー&ペーストなど順に技能を習得していったはずです。最初から同時にこなせたわけではありません。

 さらに言うと、パソコンの初心者がパソコン教室へ行き、指導を受けているときに、講師からこう注意されたらどう思いますか?

 「あなたの今日の服装はセンスがありませんね。髪型もおかしいです」

 パソコンを習いにきているのに、服や髪形といった身だしなみのことで注意を受ける。こんなおかしなことはありませんよね。

 でも子どものしつけでは、おかしなことをしてしまいがちです。食事をしながら、はしの使い方を教えている最中に、「この服、裏返しじゃない」とか、「昨日、頭をしっかり洗ってないんじゃないの」とか、ついつい言いたくなりますよね。でも子どもからすれば、あっちもこっちも、いま習っている課題と関係のないことまで、同時に指摘されるわけです。「一体今、何に集中したらいいの?」と思われても仕方ありません。

 

 「ターゲットにする行動と、あえて見逃す行動を区別する」ということを具体的にするとこうなります。

 ①食事のマナーの中で、今日身につけてもらいたい課題(ターゲットにする行動)を1つ選ぶ

 ②それ以外に目についた、できていないこと(見逃す行動)には、目をつぶる。指摘する場合も食事が終わってからにする

 ③課題を一つクリアできたら、しっかり褒める(もしくはご褒美をもらえる仕組みを作る)。その上で、次の課題へ進む。

 その場しのぎのしつけでは、親もイライラするし、子どもに効果が出にくいということが分かると思います。親子で達成した課題を一覧にした図を作ってもいいでしょう。視覚化して、親子で今後の見通しを共有することは、双方のストレスを減らすだけでなく、今後にむけたやる気や主体性を育むきっかけになるかもしれません。

 子育てだけでなく、職場の部下のマネージメントでも同じことがいえるかもしれません。ぜひ応用してみてください。

 

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などを経て、現在は福岡県職員相談室に勤務。福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪加害者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。趣味はカフェ巡りと創作活動。