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 私も入っている小児科医会から、先日こんなポスターが送られて来ました。「スマホの時間わたしは何を失うか」というタイトルで、スマホが子どもの発達に及ぼす悪影響について、いろいろ書いてあります。

 http://www.jpa-web.org/dcms_media/other/sumahonojikan_161215_poster.pdf別ウインドウで開きます

 具体的には、「夜使うと睡眠不足になり、体内時計が狂います」「体を動かさないと、骨も筋肉も育ちません」「視力が落ちます」「スマホを使うほど学力が下がります」「脳にもダメージが!!」「人と直接話す時間が減ります」とあります。これを見ると、スマホはなんて危険なものか、と思ってしまいます。この内容は、医学的にどこまで具体的なデータに裏付けされたものなのでしょうか。

 確かに就寝前にスマホやテレビの画面を見ると、端末画面のLEDに含まれるブルーライトが睡眠の妨げになる、と指摘する専門家はいます。また、赤ちゃんの目は未完成で、両目で立体的にモノをとらえられるようになるのは6歳ごろと言われています。長時間使いすぎれば、近視になる可能性はあるでしょう。しかし、子どもが睡眠不足になるのは、何かに熱中しすぎて体内時計が狂うからです。なにもスマホに限ったことではありません。読書だって勉強だって長時間夢中になれば、同じことになるでしょう。骨や筋肉が発達しないのは、テレビの長時間視聴でも言われることですが、運動する時間を減らしてしまうからです。

 確かに、視力にとって、スマホはあまり良くなさそうです。ただ、それも程度の問題ではないでしょうか。私は小さい時からマンガと本が大好きだったので、親に散々やめるように言われました。テレビゲームが普及し始めた時もそういうことは言われてきました。テレビが家庭に普及した時もきっと同じことが言われていたのではないでしょうか。

 学力への影響や、脳へのダメージによって記憶や判断を司る脳の部位の発達が遅れると指摘していますが、因果関係はどこまで分かっているのでしょうか。学力との関係では、スマホの使用時間と正答率の関係を示した棒グラフが載っていますが、単なる相関関係のようにも思えます。一方、言語能力を育てるアプリを使うことで語彙力が上がったという報告も海外ではあるそうです。専門家の中には、テレビやビデオといった一方向型のメディアとは違って、タブレットのような双方向型のメディアは使わせてもいいという人もいます。認知や言語能力の発達に差はないとする発表もあり、スマホやiPadなどのタブレットが広く普及するようになってから数年しかたっていない現時点では結論めいたことは言えないと思います。本格的な影響の調査には10年以上の時間が必要でしょう。

 「人と直接話す時間が減り、コミュニケーション能力を失う」とありますが、そうとも言い切れないと思います。スマホを使ってコミュニケーションするには、技能が必要です。文字だけでなく、絵文字を使ったり、写真や画像を入れたりして、誤解なく意思の疎通を図る、時には知らない人ともやりとりをするには、高度なコミュニケーション能力が欠かせません。こうした能力は、将来インターネットを通じて、海外の誰かと仕事をしたり、仲良くなったりするのに役立つことにはなりませんか?FaceTime、Skypeなどで単身赴任のお父さんとか、遠くに住むおじいちゃん、おばあちゃんと話したりすることもできます。

 とはいえ、判断能力が未熟な子どもに大人がルールを作ることには賛成です。高額の請求が来ることがあるかもしれないし、個人情報が流出することもあるかもしれません。ここで、日本小児科医会は以下の5つの提言をみてみます。

 (1)2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう

 (2)授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴はやめましょう

 (3)すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1日2時間までを目安と考えます

 (4)子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パーソナルコンピューターを置かないようにしましょう

 (5)保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールをつくりましょう。

 これらは、必ずしも 具体的なデータに基づく医学的な研究や調査に基づいてつくられた提言ではないと私は思います。「控える」という言葉は、「止める」という意味と「減らす」という意味があります。なので、2歳までの子どもに少しもテレビを見せてはいけないということではありませんよね。1歳を過ぎると子どもは、音楽に合わせて体を動かして楽しそうにします。2歳前後では、子ども番組に興味を持ちます。ご飯の準備をするときに、何かに集中していてくれるととても助かることもありますよね。

 この提言通りにしないと、「○○になる」と決めつけるのではなく、スマホやテレビといったメディアとどうつきあっていくかを考えるきっかけにしてはどうでしょうか。

 

写真・図版

 今回のポスターは、学童期以降の子どもに対してメディアの使い方に警鐘を鳴らすものだと思います。一方で、いまの世の中にはスマホやタブレットなどいろいろなメディアがあふれています。小さな子どもをもつ親御さんは、メディアの上手な使い方を知りたいと思うでしょう。情報流出や不正請求詐欺などにあわないように気をつけ、依存症にならないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。具体的で現実的な解決策を提言の中に盛り込んでほしいものです。

 かつて、テレビの長時間視聴が危惧されていた時、子どもたちは親や学校などで叱られるからテレビを見なくなったのではありません。パーソナルコンピューターやスマホなど、より魅力的なものが登場してきたから、「テレビ離れ」したのだと思います。不安をあおるようなやり方ではなく、いい面も悪い面も理解した上で 、親子でうまく付き合う方法を見つけたいですね。

 

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在は一般病院の小児科に勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。