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 歯が折れたり、口の中が渇いてヒリヒリしたりする日常的な症状から、認知症や脳卒中を発症した後に歯の治療ができなくなって食事が満足にとれないといったことまで、加齢に伴ってお口のトラブルは増えてきます。ただし、高齢者の歯科治療は特殊性があるため、心身の状態などによってはかかりつけの歯科医院で十分に対応してもらえないことがあるようです。このような場合、どうすればよいのでしょうか。

 

口の中の乾燥がひどいときはドライマウスの専門家に相談を

 1989年から国と日本歯科医師会が中心となって取り組んできた「8020運動」によって高齢者の歯に対する健康意識は高まり、80歳で20本以上の歯が残っている人は2011年で25.1%と運動が始まった頃と比較して約3.5倍に増えました。しかし、高齢者の歯や口の中の悩みが尽きることはありません。

 年をとると歯肉が退縮して歯の根の部分が露出することがあるため、高齢者は虫歯になりやすいといわれますが、歯の神経の感覚も鈍くなっていることから虫歯が進行しても痛みがなく、気づいたときには歯が折れてしまったという人が少なくないのです。また、口の中が渇くという訴えも多くなります。その原因はさまざまですが、高齢者の場合は加齢とともに唾液腺の機能が低下して唾液の分泌が少なくなることが主な原因だと考えられています。このような老化現象のほか、薬の副作用で唾液の分泌が減ることも多いといわれます。

 いずれの症状も、食事をおいしくしっかり食べることに影響を与えるため、できるだけ早く解決したいものです。それにはよくいわれることですが、日頃から何でも相談できる「かかりつけ歯科医」を高齢者こそ持っておくことが大切です。そして気づかない虫歯への対策としては定期的に歯や口の中の状況をチェックしてもらうことが欠かせません。

 口の中が渇く場合は、かかりつけの歯科医師に原因を探ってもらうのと同時にケアの方法を教えてもらいましょう。原因として薬の副作用が疑われるときは薬を処方してくれた医師や調剤してくれた薬剤師に相談し、飲んでいる薬を変更してもらうことも必要です。それでも改善しないときは口腔乾燥症(ドライマウス)を専門とする大学病院や総合病院の「歯科口腔外科」を紹介してもらい受診するのも一策です。

 ドライマウス研究会では認定医を養成しており、取得者の一覧リストをホームページで公開しています。この中には歯科医院に在籍する歯科医師も含まれていますので、自宅の近くで口腔乾燥症の治療やケアを受けたいときは参考にしてください。

 

●ドライマウス研究会「医療従事者リスト」

http://drymouth-society.jp/別ウインドウで開きます

 

認知症のために通院が難しいときは「高齢者歯科」の利用も

 一方、高齢になればなるほど認知症の発症リスクも高まります。認知症の人は症状が進行すると歯科医院で検査や治療を受けていることを理解できなくなり、家族が連れて行っても治療を拒むことが多いといわれます。また、病気の進行とともに口の中のケアがおろそかになり、歯周病菌など口の中の細菌が悪さをする誤嚥性肺炎にかかりやすくなります。入れ歯の管理が難しくなり、誤って飲み込んでしまうことも少なくないそうです。

 このように認知症になると口の中のトラブルも増えるため、診断されたら早めに歯科を受診し認知症の進行を念頭に口腔ケアの指導や入れ歯への対応をしてもらうことが望ましいとされています。日本歯科医師会では一般の人向けに歯科受診のポイント、家庭で行える口腔ケア、食事の注意点などについてわかりやすくまとめた動画を配信しています。

 認知症で困っている場合も、通い慣れている歯科医院に相談したいものですが、認知症の症状が進行し、対応してもらうことが難しい場合は認知症の人への対応にも長けている「高齢者歯科」を利用してみるのもよいでしょう。最近、大学病院を中心に設置され始めている新しい診療科です。病院によって標榜している名称が異なるため、この診療科を探すときは日本老年歯科医学会が養成している認定医・専門医が在籍している施設が一つの目安になります。

 また、訪問診療に力を入れている歯科医院も認知症の人に対する治療やケアが得意です。認知症のために通院が難しくなると、訪問診療に切り替えることが必要になってきます。このような将来を見越して早い時期から訪問診療を行っている歯科医院をかかりつけにしておくと通院できなくなったときにスムーズに移行できますし、本人も歯科医院のスタッフに慣れているので、自宅でも安心して治療を受けられます。訪問診療を行っている歯科医院は地域の歯科医師会または地域包括支援センターに問い合せると教えてくれます。

 

●日本歯科医師会「日歯8020テレビ/認知症! まずは歯科医へ」

http://www.jda.or.jp/tv/70.html別ウインドウで開きます

 

●日本歯科医師会「日歯8020テレビ/お家でできる認知症の口腔ケア」

http://www.jda.or.jp/tv/71.html別ウインドウで開きます

 

●日本歯科医師会「日歯8020テレビ/認知症と食」

http://www.jda.or.jp/tv/72.html別ウインドウで開きます

 

●日本老年歯科医学会「認定医・専門医一覧」

http://www.gerodontology.jp/doctors/別ウインドウで開きます

 

歯科のサポートで胃ろうを中止し口から食べることも可能に

 高齢者が歯科医院に通院できなくなる理由は認知症だけではありません。脳卒中や骨折などの病気やけがで介護サービスを受けるようになったり、寝たきりになったりしたときも通院が難しくなります。このような場合も、訪問歯科診療を積極的に利用したいものです。高齢者に対する口腔ケアを徹底することが誤嚥性肺炎を予防することにつながるため、在宅ケアに取り組む医師、訪問看護師、ケアマネージャーも、訪問歯科診療の重要性を認識するようになりました。介護保険サービスの利用者で、お口のトラブルに困っているときはケアマネージャーもしくはサービスを受けている在宅ケアのスタッフに相談し、訪問歯科診療に取り組んでいる歯科医師や歯科衛生士を紹介してもらいましょう。

 また、訪問歯科診療の活動の中で注目され始めているのが「胃ろう患者に対する経口摂取の再開」です。胃ろうは、摂食・嚥下障害によって口から食べることができなくなったときに胃に穴を開けて直接栄養を送り込む栄養管理法です。摂食・嚥下障害の原因となる病気の中で最も多いのが脳卒中です。救命のために胃ろうを造設することは脳卒中診療ガイドラインにも示されている必要な医療行為の一つですが、最近は口から食べることが栄養状態の維持や病気からの回復に重要なことがわかってきたので、胃ろう患者に対する経口摂取の再開に積極的に取り組まれるようになってきました。

 地域の歯科医師の中には、脳卒中の患者が入院している病院に出向き、脳外科医やリハビリ医とともに急性期あるいは回復期から患者の摂食・嚥下障害の治療にかかわる人も少しずつ増えています。また、口から食べられるようにするために胃ろう患者の自宅に出かけ、日常的なケアとリハビリテーションを担う歯科衛生士もいます。こうしたケアを受けたいときは脳卒中を診てくれている主治医にまず相談してみましょう。もしくは地域の歯科医師会や地域包括支援センターに問い合せても情報を得られる可能性があります。

 

 口の中の状態がよい(残った歯が多い)高齢者ほど身体の病気の医療費が少なくなることが、各地の歯科医師会や保険団体の調査で明らかになっています。歯科をもっと積極的に活用して歯や口の中のトラブルをなくしていきたいものです。

 

●日本歯科医師会「都道府県歯科医師会」

http://www.jda.or.jp/links/links04.html別ウインドウで開きます

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お知らせ

 メディカル玉手箱の「認知症にまつわる悩み」シリーズ(http://t.asahi.com/izej別ウインドウで開きます)が本になりました。

・「発症から看取りまで 認知症ケアがわかる本」

・渡辺千鶴著 杉山孝博監修(川崎幸クリニック院長)

・洋泉社

・1700円(税別)

(詳しくはアマゾン http://goo.gl/wex9J3)別ウインドウで開きます

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 患者さんやそのご家族、そして高齢者を取り巻く医療・介護環境は年々厳しいものとなっています。しかし、あきらめないで今ある制度やサービスを上手に活用し、みなさんがよりよい医療・介護を受けられることを願っています。メディカル玉手箱は今回を持って終了しますが、これからも患者目線を大切に、安心して医療や介護を受けるために役立つ情報を発信し続けていきたいと思います。また、どこかでお会いしましょう。長い間、ご愛読いただきまして誠にありがとうございました。

 

<アピタル:メディカル玉手箱・ちーちゃん教えて!>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tamatebako/(アピタル・渡辺千鶴)

アピタル・渡辺千鶴

アピタル・渡辺千鶴(わたなべ・ちづる) 医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランス。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』の医学ページで「がん医療を支える人々」を連載中。