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 子育て家庭では、子どもを説教する場面によく遭遇します。例えば、子どもが親の再三の注意にもかかわらず、おかずをこぼしてしまった場面を想像してください。

 

 親「ちゃんとまじめに食べなさいって言ってるでしょう!」

 子「ごめんなさい」

 親「何度言ったらわかるの!」

 子「・・・ごめんなさい」

 親「謝るくらいならなんで最初から気をつけなかったの!」

 子「・・・ごめんなさい」

 子どもへの説教でなくても、夫婦喧嘩でも似たようなことはありませんか。子育てに参加しない夫にむけて妻が、怒りを爆発させます。

 

 妻「あなたには父親の自覚がなさすぎるのよ!」

 夫「・・・」

 妻「もっと父親らしいことをしようと思わないの?意識が低い」

 夫「ごめん」

 

 会社での人間関係だってそうです。部下に対する指導で、「社会人としての自覚が足りない」「仕事というものをバカにしている」「覇気がない」「自主性がない」なんて言葉を使っていませんか。

 このコラムでは、ADHD(注意欠如・多動性障害)の傾向の強い方が親となり子育てをする際に注意すべきポイントをお伝えしています。前回はして欲しくない行動を子どもにやめさせるために、その行動に対して、①ご褒美となるようなことをやめること、②代わりにして欲しい行動を「~しないで」という形ではなく「~して」という形で伝える、というポイントをご紹介しました。

 今回は、②代わりにして欲しい行動を伝える際の、もうひとつのポイントをお伝えします。冒頭の例は、いずれも今回ご紹介するポイントを外しています。みなさんお察しでしょうか。1つ目のおかずをこぼしてしまった子どもを叱る親にしても、子育てに協力的でない夫に対する妻にしても、「まじめに」とか「父親の自覚」といった、概念的な言葉を使っていると思いませんか。つまり、具体的な行動を何も示していないのです。

 もちろん、いちいち具体的に言わなくても、「この場ではこれが求められているんだな」と察して、身につけられる人の方が圧倒的多数でしょう。この場でどう振る舞うべきかを知りながら、「惰性」で「甘えて」不適切な行動に終始しているのか、本気でどう振る舞えばよいのかわからないのか、はよく見極めることが必要ですね。似た場面での失敗があまりに多いとか、言っても身に付かないことが多いとかいう場合には、直接本人に確認してみるとよいでしょう。

 さて、具体的な言い方はどうしたらいいでしょうか。

 「×」は例をみればわかるとおり、感情に任せた言い方です。

 「◯」は、具体的でわかりやすいだけでなく、過去の終わったことについて責めていません。もうすでに取り戻しようもないことではなく、これからどうすればいいかについて具体的に教えています。

 

 × まじめに食べなさい

 ◯ これを時計の長い針が「6」のところに来るまでに食べるんだよ。もちろん、椅子に座ってだよ。できたらそのあと鬼ごっこしようか

 

 × 何度言ったらわかるの

 ◯ お母さん、何度も怒りながら言わないと言うことを聞かない子どもになって欲しくない。ほんとに疲れて嫌な気持ちになるわ。1回だけ、言うから、ちゃんと聞いて

 × 謝るくらいならなんで最初から気をつけなかったの

 ◯ 次から左手をこうやってお椀(わん)に添えてごらん

 

 このような言い回しで最も参考になるのは、Eテレで放送されている「おさるのジョージ」というアニメです。主人公のおさるのジョージは、好奇心旺盛な(ADHD傾向のある)おさるです。毎回飼い主の黄色い帽子のおじさん(黄色い帽子や服を着ているおにいさん)の言うことを聞かずに、何かしら問題を引き起こします。ある時は部屋中が見知らぬ犬だらけになっていたり、ある時は庭中が掘り返されていたり。そんなジョージに対して、黄色い帽子のおじさんは、穏やかな口調で、これからどうすればいいのかを丁寧に教えます。さらに、どうしてそうしようと思ったのかまで、共感的にジョージの言い分を聞いたりもします。相手が小さなおさるだからかもしれませんが(笑)、素晴らしい忍耐力と共感性、それから具体的行動の指示の天才なのです。

 具体的な指示は、案外大変です。指示する側がしっかりと相手に身につけてほしい行動を明確にする必要があるからです。たとえば上記の夫婦喧嘩の例では、

 ×父親の自覚がなさすぎる

 こうした抽象的な批判は、批判する側にも便利なのです。「なんかよくわからないけど、とにかくあの態度が気に入らない!」と感情に任せて口にできるからです。

 では、具体的に何をして欲しいのでしょう。どんな行動を求めたらいいのでしょうか。夫婦喧嘩では時に、夫がこんなふうに反論するかもしれません。

 夫「じゃあ、どうしろっていうんだ!父親らしいことなんて言われても、俺は外で働いてきているし、家族のことを思っている。お前の言っていることはよくわからない!」

 妻「どうしろって問題じゃないのよ。何をどうして欲しいなんていう、そんな簡単な問題じゃないの。意識が低いって言いたいのよ。こっちからあれして、これしてって言ってから動いてもらうばかりじゃこっちも疲れるの。どうして同じくらい子育てに主体的になれないの」

 こんな調子では、解決は遠いかんじですね。でもけっこうこういう夫婦の相談は多く寄せられます。具体的に言って欲しい夫と、言わなくても察して同じ意識を持って欲しい妻。どっちが正しいとか間違いとかは言えませんが、歩み寄りが必要なことだけは明白でしょう。

写真・図版

 

 人は、少しずつしか変化できないもの。最終的には夫婦が同じくらい子育てに対して主体性を持ってやっていければベストなのでしょう。でも最初の一歩としては、どうでしょう。

 これまで休みの日にはゴルフとパチンコ三昧(ざんまい)で子どもと遊んだことがない夫に対して、妻は何から求めたらいいでしょう。まず最初の一歩としては、子どもを風呂に入れるくらいの行動から少しずつ、でしょうか。夫だって同じ親。でも、現状は、夫はどうやら妻よりも親になるスタートが遅かった、と考えてはどうでしょうか。先輩として、ちょっと教えてあげなければならないようです。いずれ同じくらいまで成長してもらうことを願いながら。

 夫の側も、「具体的にどうしろっていうんだ!」と逆ギレするのではなく、妻がいつも子育てや家事で何をしているのかを聞いてみましょう。行動をひとつずつリストアップすればよいのです。それくらいの努力はしてみましょう。おそらく聞いていく過程で、「私はこんなにやってるんだから!」と妻からの不満は爆発することもあるでしょう。これまでの膿(うみ)は早く出すのに越したことはありません。夫婦の責任として、しっかり受け止めて、共感することです。家族の一員として一緒に子育てしていくには、必要なプロセスです。リストアップが終われば、夫婦で分担していきましょう。

 今回のポイントは、

①具体的に伝えること

②過去のことではなく、これからできることを伝えること

でした。

 会社ではどうでしょうか。上司になるということは大変なことです。「こんなことなら、一生ヒラ社員でよかった」なんてぼやきをよく耳にします。リーダーシップには、向く性格があるともよく聞きますが、そんな特性を持ち合わせていない人の方が圧倒的多数でしょう。管理職の方が、どのように部下をマネージメントすればいいかも、子育てに通じるものがあります。これについては次回にご紹介します。

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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。