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 厚生労働省の専門家作業部会が、「風邪や下痢の患者に不必要な抗生物質(抗菌薬)を使わないよう、医師の診断手順などを示した『適正使用の手引き』案」を了承したそうです。

 

 普通の風邪の大半はウイルスが原因です。細菌と違い、ウイルスには抗菌薬は効きません。それに、抗菌薬を使おうと使うまいと風邪はそのうち治ってしまいます。溶連菌咽頭炎や症状の強い急性副鼻腔炎など、普通の風邪と似ているけれども抗菌薬を使ってもいい病気もありますが、普通の風邪に抗菌薬を処方するのは医学的には不適切です。しかし、風邪に対して抗菌薬が処方されているという現実もあります。

 普通の風邪にも抗菌薬を処方したくなる医師の考えはわかります。たとえば、「この患者さんは、普通の風邪かもしれないし、抗菌薬が必要な病気かもしれない。普通の風邪に抗菌薬を処方しようすまいと自然に治るから処方したってかまわないだろう。それよりも、抗菌薬が必要な病気に処方しないほうが怖い。だったら、抗菌薬を出しておこう」。

 もっともなように見えますが、抗菌薬の投与にデメリットがあることを考えれば、安易に抗菌薬を処方するのは良くないです。大局的に見れば、抗菌薬を使い過ぎることで薬が効きにくい耐性菌が生じやすくなるからです。患者さん個人にとっても、下痢や肝障害、薬疹(薬による皮膚症状)などの副作用というデメリットがあります。抗菌薬を処方しなければ後遺症が残ったり死んだりする病気でもない限り(そんな病気はめったにありません)、「抗菌薬が必要な病気かもしれないから処方しておこう」という診療方針は正当化できません。

 「めったにないとしても後遺症が残るような病気だったらいやだから抗菌薬を処方して欲しい」という意見もあるかもしれません。ただ、めったにない病気を心配するなら、抗菌薬によるめったにない重篤な副作用も心配したほうがいいでしょう。アナフィラキシーショック、劇症肝炎、スティーヴンス・ジョンソン症候群などなど。

 要は、抗菌薬が必要な病態かどうかをきちんと評価しなければならないわけです。残念ながらそれができていない臨床医も一部にいるから、「適正使用の手引き」が必要なんですね。風邪はいったんかかってしまうと、効果的な治療法がありません。手洗いやうがいといった予防をしっかりすることをお勧めします。

 

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。