写真・図版
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 病院に新しい職員が働き始めました。私の職場の庭にはとても立派な桜の木があって、4月の初めに満開の桜をバックに新入職員の写真撮影が行われていました。皆、新品の白衣姿でキラキラ輝く笑顔です。とはいえ今の時期はもっぱら研修で、業務を一人で任せられるようになるのはまだ先のことです。これからしばらくは不安と緊張の連続だと思いますが、希望あふれる笑顔を保ち続けて欲しいと願っています。

 

 

 人は嬉しい時や楽しい時は笑顔になりますし、辛い時や悲しい時には涙を流し、怒った時には怒った顔になります。そのような感情と表情のつながりを逆手にとって、表情をつくることで、それに連動して感情が呼び起こされるという考え方もあります。

 身体の変化と感情については心理学上に様々な学説があります。1880年代にアメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズが「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ」という説を唱え、同時期にデンマークの医師カール・ランゲも同様の説を唱えたことでジェームズ=ランゲ説と呼ばれています。これは、当時も現代も一般的な「感情を知覚して生理的変化が起こる」、「悲しいから泣く」という考え方の逆の過程を辿る学説です。

 感情と表情の関係については、現代の心理学においても「表情フィードバック仮説」として研究が続けられています。「楽しいから笑う」というだけでなく「笑うことで楽しいという感情が引き起こされる」というものです。表情筋の動きが感情を呼び起こすというだけでは決着しない部分もあって仮説とされていますが、「辛い時ほど笑いなさい」と言われ「笑う門には福来たる」ということわざがあるように、経験的に理解できる部分もあるのはないでしょうか。

 

 皆さんは、仕事中に緊張している時、不安な時、イライラした時、どんな顔をしていますか? もし、口が「へ」の字になっていたら、口元から笑顔を作ってみましょう。鏡を見てにっこりと笑ってみる、あるいは歯を出して口を笑顔の形にしてみるなど、表情を作ることでそのような感情を引き出すようにするのです。

 以前のコラムで怒りを和らげる「魔法の呪文」を紹介しました。いざという時のために、自分を落ち着かせるような言葉を準備しておくというものです。準備した言葉をかけられないような時には、とりあえず「に」と言ってみます。それだけで形だけは笑顔になります。仕事が辛かった日の帰り、夜道を歩きながら小さく「にぃ~~」と言ってみたら、不思議と気持ちが軽くなりました。でも、そのまま人とすれ違うとちょっと恥ずかしいです。

▼怒りを和らげる「魔法の呪文」http://www.asahi.com/articles/SDI201703191597.html

 

 医療や介護など対人援助職は感情労働と言われ、自分の感情を制御することを求められる場面があり、その時の感情と表現が一致しないとストレスになる可能性もあります。しかし、仕事の上では、辛くとも笑顔で接しなくてはならい時があるのもまた現実です。そこでひと工夫、あなたがカメラを向けられた瞬間、あるいは舞台でスポットライトを浴びた瞬間をイメージして、とびきりの笑顔をつくれるように練習してみてはいかがですか。辛い時、苦しい時ほど笑ってみる、うつむきがちな時は意識して背筋を伸ばしてみるなど、表情や姿勢を整えることで、気分を明るく前向きにしていきましょう。

 

▼参考:守秀子(2013):「笑う門には福来る」表情フィードバック仮説とその実験的検証,文化学園長野専門学校研究紀要,5,61-66.

 

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■編集部から

 田辺有理子さんの本が8月31日に出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。