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 「朝日 健康・医療フォーラム2017」が3月18日、千葉市の幕張メッセ国際会議場で開かれ、のべ約1200人が参加しました。アテネ五輪アーチェリー男子銀メダルの山本博さんが特別講演。続いて、「運動と健康」「認知症」「口腔(こうくう)機能」の3テーマで、専門家らが解説し、パネルディスカッションで意見を交わしました。

【特別講演「健康寿命をいかに長くするか」】

目標へ、諦めず立ち止まらず 山本博さん(アーチェリー・銀メダリスト)

 

 42年の選手生活で五輪に挑戦したのは10回で、5回出場した。一番つらかったのはシドニー五輪(2000年)。予選に落ち、精神に障害が起きた。弓を持ち上げようとすると力が入らず、冷や汗が出る。初めての経験だった。心に深い傷を負い、何か目標を失うと、人間には大きな変化があるということを痛感した。

 精神的なつらさをやわらげてくれたのは家族や教え子たちだった。もう一度、五輪に挑戦する気持ちを奮い立たせてくれた。約1カ月で治り、アテネ五輪(04年)で銀メダルを獲得できた。ロサンゼルス五輪の銅メダルから20年かかった。

 記者会見で「20年かけてメダルが銅から銀になったが、どう思うか」と聞かれた。私よりうまい選手はたくさんいた。だが彼らは私より早くやめ、次の五輪に出てこなかったが、私は出た。予選に落ちても、また次の五輪に戻ってきた。だから「僕が世界で一番諦めの悪い男だということが立証された」と言った。人にはいろいろな強さがある。

 スポーツをすることで、健康寿命は延ばせる。私は弘前大大学院で学び、青森のある地区で住民の健康状態や運動習慣を調べた。わかったことを「心・技・体」で紹介したい。

 まずは「心」。体を動かし大きな声を出すと、ストレスを発散でき、血流がよくなる。その後にリラックスと爽快感が得られる。

 次に「技」。スポーツには答えがないから、認知症を予防できる。野球の長嶋(茂雄)さんと王(貞治)さんは、2人とも打ち方が違う。でもヒットやホームランに変わりはない。スポーツには決まった正解がない。ないからこそ何歳になっても学べる。そしてスポーツはなかなか1人ではやらない。複数人でやれば会話が起きる。

 次に「体」。体力が維持、向上され、足腰が鍛えられる。要介護や寝たきりの予防にもなる。動脈硬化や高血圧などのリスクも減らせ、生活習慣病の予防にもなるのではないか。

 思い込みにしばられないことも大切だ。サッカーのカズ(三浦知良選手)は50歳で活躍している。進歩した医学、医療をもとに体をケアし、技や経験がある。自分の周りの狭いコミュニティーの常識にとらわれないでほしい。

 私の信条は「目標は無限大」ということだ。何度も金メダルを取る選手は、無限大の目標があるから、金メダルを取っても立ち止まることがない。みなさんも思い込みにしばられず、無限大の目標に向かって頑張ってほしい。

     *

 1962年、神奈川県生まれ。中学1年からアーチェリーを始め、84年のロサンゼルス五輪で銅メダル、2004年のアテネ五輪では41歳で銀メダルを獲得した。13年から日本体育大学教授。

 

体動かしやすい環境、整備 福島靖正さん(厚生労働省健康局長)

 

 寿命と、日常生活に制限がない健康寿命との差は、男性は9年、女性は12年。寿命が延びるのはいいが、健康寿命との差を縮めていかないといけない。

 2000年につくった「健康日本21」の最終的な狙いは健やかで心豊かに生活できる社会をつくること。そのためには健康寿命が延びることが大事だが、地域や社会的状況による健康格差を小さくしたい。

 感染症以外の疾患による死亡で一番大きい原因はたばこで、高血圧が2番目。3番目が運動不足で、循環器疾患が多い。悪性新生物(がん)もある。疫学的な研究なので、すぐに死ぬという話ではないが、運動不足で約5万人が亡くなっている。

写真・図版

 

 健康日本21(第2次)では三つの目標がある。日常生活での歩数、運動習慣者の割合、住民が運動しやすいまちづくりに取り組む自治体の数を増やすことだ。

 歩数は15年は男性が7200歩弱、女性が6200歩。この10年間で男性は減っていたが、最近は上向き。女性はほとんど変わっていない。1500歩増が目標で、普通の歩き方なら165センチの人で1キロメートルくらい。血圧は1・5しか下がらないが、死亡リスクは2%下がる。血圧を下げるには、栄養や塩分の改善が一番効くが、運動はその次に大きい。

 運動習慣者は男性の約4割、女性の約3割。これを10ポイント上げると、国民全体の非感染性疾患の死亡を1%減らせる。たばこや栄養、運動、いろいろなことを積み上げると、死亡リスクが十数%も減る。死亡だけでなく、脳卒中、あるいは介護状態を引き起こす原因で相当大きいロコモティブシンドローム(ロコモ、運動器症候群)などを減らし、健康寿命を延ばすことにすごく役立つ。

 住民が運動しやすいまちづくりや環境整備に取り組む市町村を応援する都道府県数は12年には17しかなかったが、22年には全都道府県で取り組んでもらいたい。運動や健康づくりをするのは一人一人だが、それができる物理的な環境や社会的な人間関係をつくるためのお手伝い、まちづくりを行政がする。皆さんにはそれぞれの家庭や地域で健康づくりのリーダー役になって頑張っていただきたい。

 

能力に合ったスポーツを 櫻庭景植さん(順天堂大大学院スポーツ健康科学研究科スポーツ医学教授)

 

 日本の65歳以上の高齢化率は1950年に5%で、今は30%に近い。これだけ急速に高齢化社会になると施設も間に合わない。必要なのが健康寿命だ。

 要介護の原因は、脳血管疾患が一番多く、次が認知症。骨折・転倒(4位)と関節疾患(5位)を足すと、脳血管疾患を上回る。骨が弱くなって骨折したり転倒したり、関節が痛くて動けなくなったりして、介護が必要になるケースがどんどん増えている。

写真・図版

 

 健康寿命は要介護状態を減らすうえで大事。その中で2007年にロコモティブシンドロームという概念が出てきた。骨、関節、軟骨、椎間板(ついかんばん)、筋肉など運動器の障害が複雑に絡み、移動能力の低下が進むと、介護が必要になるリスクが高くなる。骨では骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、関節・軟骨では変形性膝(ひざ)関節症のような病気で体を動かさなくなると、余計に動けなくなって筋力が弱くなり、バランス能力が低下して転ぶ。だんだんと社会生活をできなくなる。

 体を動かすことが必要だが、適正な能力を知ることが大事。体力が低下すると、生理的な予備能力がなく、回復力も低下する。高齢者が骨密度を今から上げるのは困難で、骨の修復能力や筋腱(けん)の柔軟性が低下してくる。神経の反応も鈍く、基礎疾患もある。

 中高年の運動は、全身性、持久性かつ有酸素の運動で、個人か数人でできるもの、運動強度のあまり高くないものが適している。50~70歳の人はちょっと苦しいくらいでいい。昭和一桁や大正生まれで「つらくないと運動じゃない」と思う人もいるが、けがをしてしまう。無理をせずやめる勇気も必要。

 メディカルチェックは受けたほうがいい。瞬間的に筋力を使うスポーツは避け、勝敗成績にあまりこだわらないで。自信過剰に注意し、天気や健康状態が悪い時はやめる。健康寿命を延ばすには運動が重要だが、自分に合ったスポーツをしてほしい。

 

 【パネルディスカッション】

飽きない工夫を、まず楽しんで

 ――運動を長く続けるコツは。

 山本 テレビを見ていてつまらない時、チャンネルを変えると面白い番組に出あうことがある。自分自身の人生もチャンネルを多く持って、どんどん切り替えて常に楽しくする。

 私は実は左利き。アーチェリーは右でやってきたが、お箸は左だった。2年前からお箸を右に変えた。あと何年生きるかわからないが、人生にちょっと変化を与えてみたかった。最近はほぼ左と同等に使えるようになった。常に身近なところで、飽きないように工夫をしている。

 ――年齢に応じた適切な運動のため、自分の能力をどう把握すればいいか。

 櫻庭 楽しむことはとても大事。楽しんでいるうちに自分のレベルが大体わかり、引き際がわかる。元気な人は60歳でもマラソンで3時間以内を目指すが、4、5時間かかっても楽しい人もいる。

 ――ヘルスプロモーションで日本に一番足りない部分は。

 福島 健康づくりをしようとする人の背中を押す仕組みづくりはもう少し必要。運動施設を利用するとポイントが付き、商店街で物が買えるという取り組みをしている自治体もある。ただ、時間がない人もいる。健康づくりを意識しなくても健康になるようなまちを最終的には目指したい。一番足りないのはそういう政策をやっていくという意識づけかもしれない。

 ◆コーディネーター 林敦彦・朝日新聞アピタル編集長

 「認知症」「口腔機能」については後日掲載する予定です。