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 「朝日 健康・医療フォーラム2017」が3月18日、千葉市の幕張メッセ国際会議場で開かれ、「運動と健康」「認知症」「口腔(こうくう)機能」の3テーマで、専門家らが解説し、パネルディスカッションで意見を交わしました。

 ■もの忘れ相談で予防図る 浦上克哉さん(鳥取大医学部教授・日本認知症予防学会理事長)

 

 認知症になりたくないと思う人は多いだろうが、予防の意味を正しく理解している人は少ない。予防には発症を防ぐだけでなく、早期発見や治療によって病気の進行を防ぐことも含まれる。厚生労働省によると、認知症は国内に462万人。認知症予備群と呼ばれる軽度認知障害(MCI)は400万人とされる。いかにMCIを早く見つけるかが課題になっている。

 5年以内に約半数が認知症に移行するとされるMCIになると、もの忘れが増えるが、日常生活には困らない。困るようになったら認知症と診断される。MCIの人を早く見つけて適切な予防をすれば、認知症の人を減らすことができる。

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 こうした観点で、私が考えたのが「もの忘れ相談プログラム」だ。タッチパネル式のコンピューターを使い簡単な質問に答えてもらうもので、鳥取県琴浦町で2004年から始めた。主な質問項目は三つ。言葉を三つ覚えてもらい別の質問の後に思い出してもらう。今日は何年の何月何日、何曜日かを答える。立方体を模写してもらう。これらを点数化して判断する。

 認知症などの疑いのある人には追加検査をし、MCIの人には予防教室に3カ月通ってもらった。その結果、症状が改善した。

 効果的な予防法は、年代によって違う。中年期は高血圧や糖尿病などの生活習慣病対策。65歳以上は、運動と知的活動、コミュニケーションが大事だ。

 運動では、特に「コグニサイズ」と呼ばれるものがいい。「コグニション」(認知)と「エクササイズ」(運動)を組み合わせる。散歩をしながら計算するとか、頭を使いながら体を動かす。知的活動は、囲碁や将棋、編み物など頭を使って指先を動かすこと。人が集まる所に行くと、会話が生まれ、コミュニケーションがとれる。ゲームをすれば、「素晴らしかった」などとふだん話さない人とも話し、刺激になる。

 1人で家の中でできることもある。短歌や俳句といった創造的な活動のほか、普段使わない神経を刺激するために利き腕と違う手を使うことがお勧めだ。食べ物については、これで確実に予防できるというものは分かっていない。バランスのとれた食事をすることが大事だ。

 

 ■早期に治療、筋トレで効果 山本朋史さん(元「週刊朝日」編集委員)

 

 61歳だった2014年に軽度認知障害(MCI)と診断され、治療の一環として認知力を向上させるトレーニングをしている。

 画家の安野光雅さんと全国を回る仕事をしていたころ、よく忘れ物をするようになった。2人分の新幹線の切符をなくしたこともある。「大丈夫かね」と心配されたが、「年相応のものだろう」と思っていた。ところが簡単な漢字が出てこなくなり、ひどいときには平仮名が書けなくなった。あるインタビューの時、携帯電話が何回も鳴った。別の取材相手から「今日取材するんじゃないの」。ダブルブッキングだった。

 このままでは自分の頭が壊れてしまう。そんな恐れから、東京医科歯科大付属病院の朝田隆さんの「もの忘れ外来」を受診。精密検査などからレビー小体型認知症のごく初期の可能性があると診断された。仕事ができるのかと不安になった。

 「トレーニングで認知力をアップしたらいい」と朝田さんに言われ、筑波大付属病院に週1、2回通った。芸術療法、音楽療法、ゲーム、筋力トレーニング、ダンスなどをした。

 仕事に支障が出るかもしれないと上司に相談すると、「同じ悩みをもつ人はたくさんいる。書いたらどう?」と提案された。仕事と治療が同時にできるのはありがたい、と週刊朝日の連載「ボケてたまるか!」を始めた。

 色々なトレーニングをしたが、最初はうまくいかなかった。ゲームで80歳の人に負けて落ち込むこともあった。一番効果があると思ったのは、筋力トレーニング。最初は痛みを感じなかったが、スクワットなどを1カ月ほど続けると、痛みを感じるようになった。

 健康運動指導士の説明によると、身体の感覚が脳に伝わりにくくなっていて、痛みを感じにくくなっているという。運動をするうち、取材のダブルブッキングや「社会の窓」(ズボンのチャック)を開けたまま出かけるといったミスは減っていった。

 MCIの人でも、トレーニングをすればよくなるし職場復帰もできる。何かおかしいと思ったら相談することが大切だ。私は早い段階でMCIと診断され、トレーニングを始めたことで前向きになれた。よかったと今は思っている。

 

 ■仲間と活動、広がる楽しみ 若野達也さん(認知症フレンドシップクラブ理事)

 

 認知症の人の仲間や友達といった関係で、楽しく一緒に日々を過ごせるような場づくりをしている。介護や精神保健福祉の専門職として、認知症グループホームを運営し、若年認知症の人の就労支援もする。

 例えばソフトボール。運営する認知症フレンドシップクラブは、認知症の人たちによる大会「Dシリーズ」を静岡県富士宮市で開いている。「けがをしたらどうする?」と心配するのではなく、いかに認知症の人が楽しめるかという視点でルールを決めている。

 ボールを捕ってもどこに投げていいか分からない。そんな時は、家族が「あっちに投げるんだよ」と教える。投げるタイミングが分からなければ肩をたたく。認知症になると旅行もしにくくなるが、この大会は専門職がサポートするので、富士山が見える場所に一緒に旅行もできる。

 認知症の人や家族が、たすきをつないで走る「RUN伴(ランとも)」は、認知症の人が札幌から函館まで走りたいと言ったのを、伴走しながら応援しようというのがきっかけだった。肩書は無関係に、一緒に走ってご飯を食べる。全国の認知症の人がつながるきっかけになればいいと思っている。

 

 奈良市では、認知症の人たちと一緒に廃園となった梅林を再生させる活動もしている。種をまいたり、草を抜いたり、収穫を手伝ったり。少しでも農作物が売れれば張り合いになるし、閉じこもっていた人たちが出てくるようにもなる。

 認知症の人は「病気を打ち明けたら理解してもらえるだろうか」と不安に思っている。でもそれぞれの地域に支援者はいるし、認知症になっても楽しく生きられる。今後も挑戦する思いを私は応援していきたい。1人で悩むのはやめて、一緒に楽しみましょう。

 

 【パネルディスカッション】

 ■運動+知的活動、おしゃべりも大切

 ――体を動かすと認知症予防によいのか。

 浦上 運動だけではいい効果が出なかった。運動プラス知的活動が大事。言葉を発してコミュニケーションをとるとなおいい。朝から晩まで誰ともしゃべらない人は、認知症になりやすいという論文もある。色々な人とおしゃべりするといい。ストレスになる、自分がしたくないことをするのはよくない。

 若野 みんなが笑顔でスポーツをしているのを見ると、参加したくなる。最初は嫌々だった人が、ソフトボールに参加するうち、家に閉じこもっていたことは間違いだった、と感じるようになった例もある。

 ――きつそうな筋トレを長く続けるひけつは。

 山本 40人ぐらいのグループで励まし合いながらやっている。できる範囲で無理はしない。やり方が分からない人にはアドバイスする。みんなと一緒だから続けることができる。

 ――進行を防ぐには。

 浦上 薬物治療のほかに大切なのは、認知症の人が役割をもつことだ。怒られてばかりの生活では、病気の進行は早くなる。生き生きしていれば逆に、進行は緩やかになる。

 

 ◆コーディネーター 清川卓史・朝日新聞編集委員

 

 《主催》朝日新聞社

 《後援》日本医師会、日本歯科医師会、日本対がん協会、日本認知症予防学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本チェーンドラッグストア協会、日本ヘルスケア協会

 《協賛》オリックス生命保険、ライオン、龍角散

 《協力》味の素、エイチ・アイ・エス、クラブツーリズム、発酵醸造未来フォーラム、母子健康手帳アプリ、レディースアートネイチャー