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 3月18日に千葉市の幕張メッセ国際会議場で開かれた「朝日 健康・医療フォーラム2017」。「口腔(こうくう)機能」をテーマにしたセッションでの様子をお伝えします。

 ■ゆっくり味わい、全身健康 三浦宏子さん(国立保健医療科学院国際協力研究部長)

 

 口腔(こうくう)機能には様々な機能がある。食べる機能の「摂食」と、のみ込む機能の「嚥下(えんげ)」は生存のために不可欠。話す機能も食べる機能と同じぐらい重要だ。食べる機能と話す機能は相互に関連し合っている。

 口腔機能は、年齢と共に徐々に機能を獲得し、成人期にほぼ完成に向かっていく。そして高齢期になると、機能が落ちるという一連の流れがある。

 ただ、年齢に応じた理想の口腔機能が獲得できない場合がある。なぜか。子どものうちはむし歯。高齢期においては、のみ込む力が落ちることで望ましい食べ方ができない可能性も出てくる。理想と現実のギャップを埋める対策が必要になる。

 歯や口腔の病気というと、むし歯や歯周病というイメージがある。だが、口腔機能が低下すると、全身の健康と深く関わるというデータがある。また、食の喜びは大変重要で、生きがいにも関わってくる。

 かむ力が落ちた時、最初に食べづらくなるのが生野菜だ。野菜の摂取量とかむ力には結構関連性がある。

 食べ方については、ゆっくりかんで食べることが重要だ。早食いの人は、肥満度を示すBMI(体格指数)が高い傾向にある。やはり、食べ方というのは歯や口腔の健康だけではなく、様々なところで影響を与えていることが、ここからもわかる。

 ところが、内閣府の食育に関する意識調査によると、ゆっくりよくかんで食べていると回答した人は、2人に1人だった。特に問題になるのが30歳代の男性で約27%。女性より男性のほうが早食いの傾向がある。

 食べ方は意識することによって改善できる。明日から実践してほしい。硬いものを奥歯でかむ時、右、左、右、左、右に寄せたうえで、最後に舌の上でしっかり味わう。これを繰り返すだけで、ゆっくりかめるようになる。

 口腔機能を維持、向上させるには小児期からアプローチが必要だ。生活習慣病のように日々の生活が積み重なるような病気の場合、若い年代からアプローチしたほうがより有効に働くからだ。食べる力の育成においても、できるだけ人生の初期からのアプローチが必要になってくる。

 ■「のみ込み」鍛え、肺炎防止 戸原玄さん(東京医科歯科大高齢者歯科学分野准教授)

 

 脳卒中やパーキンソン病の患者さんには、食べられなかったり、むせたりする人がいる。そこで、在宅の患者を訪問して、嚥下のリハビリをしている。

 のどには気管と食道、二つの管がある。むせている姿を見るだけでは危ないと思わないかもしれない。でも、X線で見ると、食べ物が気管の方に入りそうになっている。これはまずい。

 食べ物が肺に入ることを放っておくと、肺炎になってしまう。日本人の死因を多い方からみると、肺炎が伸びてきて3位になっている。65歳くらいから増え始めて、80代、90代でだいぶ増えてしまう。

 のど仏を触りながら、つばをのむと、のどが上がる感じが分かると思う。これがのむ動きだ。

 ところが、のど仏は年とともに下がる。特に男性は下がりやすい。のど仏が低いと、しっかり持ち上げなければならず、のみ込みに時間がかかる。高齢者がむせやすいのはこのためだ。

 

 一方、入院すると、普通は歯の治療ができなくなる。口の中のばい菌が多くなり、汚い唾液(だえき)が肺に入りやすくなる。口の中を清潔にしておくことが大事だ。

 安全にのみ込むには、姿勢や首、呼吸が大事だ。猫背にならないよう注意する。それだけで、むせなくなることもある。

 首を鍛えてのむ力を強くすることも大切だ。訓練として、口を最大限大きく開けて、10秒間保つという方法がある。1日につき、5回を2セット、実践してほしい。

 のみ込む際は、筋肉を使ってあごにのど仏を近づけている。口を大きく開けると、同じ筋肉を使う。この訓練は、ただ口を開いているだけだが、本気でやるとのみ込みがよくなる。実際、介護が要る人は健康な人に比べ、口を開ける力が半分くらいに落ちている。やはり口を開ける力を保つことがすごく大事だ。

 本当に食べられなくなった時、その状態が続く人と、リハビリで回復する人がいる。諦めないで、リハビリができるところを探してみてほしい。

 

 ■調理で工夫、かむ力を保つ 柳沢幸江さん(和洋女子大健康栄養学類教授)

 

 2013年に、卑弥呼の時代の食事を再現して、どんな特徴があるかを調べた。当時の食事を3人に食べてもらうと41分かかり、平均の咀嚼(そしゃく)回数は2千回以上だった。一方、現代の食事として、カレーライスとブロッコリーのサラダ、ヨーグルトでは、食べ終わるまで17分。咀嚼回数も1千回以下だった。

 かむ回数が減った理由は何か。日本人のたんぱく質の摂取量はほとんど変わってないが、炭水化物は50~60年間に著しく減った。対して、脂肪の摂取量は非常に増えている。よくかむ習慣のある人のほうが脂肪とエネルギーの摂取量が少なく、食物繊維が多い。

 脂肪が多い食品のほうが軟らかく、かむ回数は減る。霜降り肉と赤身の肉の例でもわかると思う。脂肪はグラムあたりでたんぱく質や糖質の倍以上のエネルギーが取れ、脂肪が多ければ食べ物の量が減り、かむ回数は減ることになる。

 かむ能力を高める調理のポイントを4点紹介したい。それは、かみ応えのある食材、食材の切り方、加熱時間そして水分量だ。

 かみ応えのある食材としては、筋繊維がしっかりした肉。ゴボウとかタケノコのような繊維質の野菜。ホウレンソウといった葉菜類やキノコ、海藻、乾物などだ。

 切り方による差では、同じカレーでも、大きいジャガイモやニンジンとか、骨つきの鶏肉を使うと、さいの目切りに切ったカレーの3倍以上のかむ量になる。

 次に加熱方法による差。例えば、生のキャベツだと10グラムあたり82回もかむが、さっと加熱した料理だと50回。ポトフとかロールキャベツのように煮込んだ場合は約10回になる。

 最後に汁量の違い。同じエビ料理でも、フライだと10グラムあたり46回だが、チリソースだと28回になる。

 かむ力が落ちて食べにくくなると、摂取する栄養素が少なくなる。かむ力が落ちた方々にも、工夫してしっかり食べてもらいたい。

 つい、みじん切りや薄切りになりがちだが、形をとどめた切り方がポイントだ。食べることが、リハビリになるので、しっかり形をとどめたものが必要。小さくせず、加熱時間を長くしたり、とろみをつけたりして、かむ力を落とさないようにしたい。

 

 【パネルディスカッション】

 ■かめないと認知症リスクも

 ――医療現場では、かむ力が落ちた人の調理について、どう扱っていますか。

 戸原 医療現場では、かむ機能の有無があまり評価されていない。かむ機能が残っているのに、うまくのめないからミキサー食になる。そんな時、スナック菓子を使う。サクッとかカリッとかいうと、かむ動きが出てくる人がいる。

 ――認知症と食べる力との関係については。

 三浦 かめなくなることが認知症にとって非常にリスクだという研究が近年、数多く報告されている。かむことを心がけると非常に効果的で、認知症を防ぐことにも効果があるかも知れない。かむ力を維持できていると、全身の健康状態もいい。

 柳沢 食事が全部並んだ所に座って、すぐ食事と言われても、目の前に何があるのかわからない。お箸を置くとか、お茶わんを運ぶとか、準備して食事を食べる。そうすると、おのずと目の前にあるものが食べ物で、食事が始まるということを認識しやすい。

 ――かむ力をつける工夫は他にもありますか。

 三浦 機能が落ちた時には、ゆっくり食べる工夫を心がけて頂きたいと思う。食べる時に意識的に箸を置くようにすると、ゆっくり食べられるとも言われる。

 戸原 ゴクンとのむ動きが出るまで、リハビリに8年かかった人がいる。そういう方を見ると、諦めちゃダメだなと思う。

 柳沢 よくかむことはよく味わうことにつながる。食べ物をおいしく楽しく食べることをしていただければと思う。

 

 ◆コーディネーター 田村建二・朝日新聞編集委員