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 糖尿病があるとうつ病になりやすく、また逆にうつ病があると糖尿病になりやすいという相互関係があります。

 

1) 糖尿病ではうつ病が多い

 糖尿病でうつ病を併発している人は、どれくらいいるのでしょう。2001年の米国の研究では、糖尿病患者の11.4%がうつ病を併発、31.0%が併発の疑いがある、と報告されています。

 日本人のうつ病の生涯有病率(生涯でうつ病を経験する人)は6%ほどと報告されていますので、比較すると、糖尿病患者がうつ病を併発する割合はとても高いことが分かります。

 糖尿病があるとうつ病になりやすい背景には、糖尿病と診断されたことによる心理的な混乱や不安、食事療法や運動療法などで生活習慣を変えなければいけないストレス、血糖値の自己測定や、服薬など治療そのものの負担などがあります。

 

2) うつ病があると糖尿病になりやすい

 逆に、うつ病があると、糖尿病になりやすいとも言われています。

 理由は必ずしも解明されていませんが、意欲の低下や食生活が乱れることなどに加えて、ストレスによって起こる体の反応も、糖尿病を起こしやすくする一因と考えられています。

 

 うつ病は、現在のストレス社会の所産とも言える病気です。

 心身がストレスにさらされると、生体の防御反応としてコルチゾール(いわゆるステロイド・ホルモンです)というホルモンがより多く分泌されます。また交感神経系も活性化されますのでアドレナリンというホルモンもより多く分泌されるようになります。

 これらのホルモンはストレスから体を守ってくれますが、同時にインスリンの働きも抑えてしまいます(これを「インスリン抵抗性」といいます)。このため、血糖値を上昇させてしまうのです。

 糖尿病とうつ病の医学的な因果関係については、今後のさらなる研究結果に期待されています。

 

3) うつ病を併発すると起こりうる危険

 糖尿病にうつ病を併発すると、さまざまな「セルフケア(自己管理)」ができにくくなることが重要な問題です。その結果、命に関わる合併症を引き起こす危険が高まるのです。

 具体的には、身体活動が低下して運動療法に取り組みにくくなります。また食生活においても、規則正しい食事が難しくなり、食事の量や回数が極端に増えて血糖値が上がったり、まったく逆に食欲が急に減って低血糖をまねいたりして、血糖コントロールが難しくなります。

 このように、自己管理が不良な状態が長期間続くと、糖尿病に特有な合併症の「しめじ」(神経障害、網膜症、腎症)を引き起こすリスクが高くなります。

 さらには、「えのき」(心筋梗塞や脳梗塞)という生命にかかわる深刻な合併症を引き起こすリスクも高くなります。

  ▼血糖コントロールで3大合併症「しめじ」の予防を

  (http://digital.asahi.com/articles/SDI201703010274.html

  ▼命に直結する合併症の「えのき」

  (http://digital.asahi.com/articles/SDI201703101027.html

 

 糖尿病にうつ病を併発すると、死亡率は1.6倍になるという海外の研究報告があります。従って糖尿病患者では、うつ病の併発を早期に疑い、的確に診断し、治療を開始することも重要となります。

 

4) うつ病を疑う症状

 うつ病を疑う症状は、こころや体の不調として現れます。

 具体的には、表に示します「米国精神医学会のうつ病診断基準(DSM-Ⅴ)」が参考になります。厳密な診断については専門領域にゆずりますが、これらの症状のいくつかがあてはまり、かつほぼ一日中で2週間以上続く場合は、注意が必要です。中でも、「悲しい気持ちが消えない」(抑うつ気分)と「これまで楽しめていた活動などに興味がなくなった、楽しめない」(興味・喜びの低下)という点に心当たりがある場合は、すぐにご家族や主治医に相談してみましょう。

 ご家族や周りの人も、こうした不調に気付いてあげることが大切です。

 

 

5) うつ病の治療

 うつ病の疑いがある場合には、精神科や心療内科と連携した治療が必要になります。主治医から精神科専門医または心療内科専門医に紹介していただく、またはご自身で精神科または心療内科を受診していただくことをお勧めします。ご自身で受診する場合は、糖尿病の治療中であることを、必ず医師に伝えてください。

 うつ病の治療では、抗うつ薬による薬物療法だけでなく、必要に応じて認知行動療法という精神療法も行われます。

 糖尿病の治療とうつ病の治療を平行して行うことで、どちらも改善が期待できますので、安心して治療を進めてください。

 

 最後に、糖尿病患者における注意点ですが、うつ病で使用する抗うつ薬の副作用の一つに「口渇」があります。とてものどが渇いて、清涼飲料水やスポーツ・ドリンクを多飲してしまい、著しい高血糖をきたしてしまう方が時々おりますので、飲み物は水や緑茶・ウーロン茶、砂糖の入っていないコーヒー・紅茶のみとしてください。

 

 次回は、糖尿病と密接な関係がある「感染症」について解説します。

 

<アピタル:よくわかる糖尿病の話・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tounyou/(アピタル・岩岡秀明)

アピタル・岩岡秀明

アピタル・岩岡秀明(いわおか・ひであき) 船橋市立医療センター代謝内科部長

船橋市立医療センター代謝内科部長、千葉大学医学部臨床教授。1956年生まれ。1981年千葉大学医学部卒。日本糖尿病学会学術評議員、専門医、指導医。日本内科学会総合内科専門医、指導医。主な編著書「ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.3」(中外医学社)、「糖尿病コンサルトの掟」(金原出版)など。