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 戦後のベビーブームに生まれた世代が75歳の「後期高齢者」の年齢になる2025年に向け、政府や医療界は、持続可能な制度として、限りある医療資源をどう効率よく、かつ効果的に使うかが問われています。その解決策の一つとして、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)の利用が注目されています。シンガポールとは別に、日本でも遠隔診療のプラットフォームづくりが本格化しています。武藤真祐さんたちは、日本の医療の中で何をブレークスルーしようとしているのでしょうか?(アピタル編集部)

 

患者のデータの結びつき

 各医療機関の電子カルテなどの医療情報の共有は、シンガポールやエストニア、韓国の方が進んでいます。シンガポールの公立病院では、電子カルテがオンラインでつながっています。この点では日本より進んでいる国が山のようにあり、日本は周回遅れです。ただ、これらの国々でも、コミュニティ・ケアにおけるICTを用いた情報共有はできていません。この点は、日本の方が進んでいます。理由は、日本には、そもそも地域包括ケアによってコミュニティ・ケアの仕組みができつつあるからです。

 また、医療や健康関連の情報の可視化は、厚労省などの政策決定において、最適な医療資源の投下を考えるために必要です。これからは医療だけでなく、介護のデータ化も必要です。医師にとっての可視化は、ある程度の健全な競争を生み、また医療の質の標準化を図るためのツールとなり、患者さんが手術など大きな治療を受けるときの意思決定のサポートにもなります。今、課題なのは、そういった目的に合った医療機関でのデータの収集です。

 

日本で開発が進む遠隔診療の支援とは

 日本でも、「インテグリティ・ヘルスケア」でICTを活用した事業を進めようとしています。私たちは、遠隔医療をメインにやろうとしているわけではありません。事業の根幹は「オンライン問診」です。患者さんの日々の状況や病気の状況を数値化や見える化して、そのデータを患者さんのかかりつけ医に伝えるシステムです。もちろん、医師が診療する「テレメディスン」もできますが、それが目標ではなく、いかに患者さん側にある情報を医療者側に届けるかといった点に焦点を当てています。患者さんが入力したり、センサーで自動入力されたりした情報を、医療者側が常時見られますし、医師がこういうデータを持つ患者さんにどのような治療や処方をしたらいいかをサポートしていくシステムです。

 私の中に問題意識がいくつかあります。臨床医として考えると、現在の外来は「3分診療」と揶揄(やゆ)されていますが、その時間内にどこまで患者さんの情報を医師が得られて適切な診断や治療ができているのか分かりません。これから、認知症の患者さんが増えてくると、そういうことが起こり、そこが医療現場での課題になってくると思います。

 二つ目は、処方をしても自宅で薬をちゃんと飲んでいるのか分からない患者さんがいます。そのような患者さんは、処方した薬が効果を最大限発揮できる状態ではないわけです。三つ目は、最新の医療情報があふれる中で医師をサポートする仕組みです。臨床現場で患者さんを診ていると、いろいろな状態の方がいます。他に病気を抱えた人もいます。臨床医は、そういう患者さんを毎日診ていますが、その患者さんにとっての最適解は、診療ガイドラインだけで対応できないときがあります。その患者さんにあった治療ができるようにするためには、様々な知見を集めた診療支援システムが必要だと思います。これを地域で活用していくため、今、福岡市や福岡市医師会と一緒に実証を進めています。

 

医療者と患者の最適マッチング

 在宅医療や介護のサービスといっても、いろいろなタイプの患者さんがいます。大都市圏では提供体制が不足し、人口減少地域では在宅患者が点在しているためサービス提供の効率が悪く、漏れる地域もでてきています。

 特に人口減少地域では、患者さんに選択肢がありません。大都市圏はサービス提供者がたくさんいてもぴったりと合う人はなかなか巡り合えません。この患者さん、ご家族の状況であれば、この医師がいいのではないかというマッチングの仕組みはほとんどありません。現状は、病院の地域連携室の看護師さんやケアマネジャーさんが選んでいます。提供される医療を「ミシュラン」のように、星によって格付けする仕組みがあればいいでしょうが、日本では難しいでしょう。

 医師や訪問看護師も得意分野があります。役割分担は私も大賛成です。例えば、私たちのクリニックには、様々な困難を持つ患者さんを多く診ています。また、がん末期の患者さんも多いです。このように重症の患者さんを診ることが私たちには求められています。ですから、比較的病状が安定した在宅の患者さんは、外来診療もしている開業医の先生方に、継続して訪問診療をしていただければと思います。

 私たちが作ろうとしているプラットフォームは、「ドクター to ドクター」のサポートができるものにしたいと思います。例えば、私たちのクリニックなら、各地の専門医同士がコンサルテーションできる仕組みがあります。これを法人の外に広めていきたいです。

 こういう仕組みをどのような制度ならできるのか。抜本的に変えようとするなら、イギリスのように、公的医療はフリーアクセスではなく、機能分担を徹底し、総合診療医(GP)によりプライマリヘルスケアを導入するようなことも概念的にはありえます。イギリスでは基本サービスは出来高払いではなく人頭払いとなっていて、ペイ・フォー・パフォーマンスという仕組みにより治療成績の良いGPにはボーナスが支給されます。日本では出来高制です、つまり診察、検査をすればする程医師への支払いが発生する一方で治療成績が良い医師を評価する仕組みもありません。医師チームの中で診療報酬を最適な分配ができるような仕組みもあると良いと思います。かかりつけ医が主治医ですが、専門領域は別の専門医がチームに入り、診療報酬を分配できればチーム医療が促進されると考えています。このチーム連携は遠隔医療で行われてもよいでしょう。

 

コミュニティ・ケア

 私たちは、医療従事者だけでなく、地域の人たちによる見守りも仕組みの中に入れようと考えています。また、遠隔医療があれば、今まで休眠状態だった医療従事者によって、医療がなかなか届かなかった人たちを効率よくカバーできるかもしれません。

 一方で、地域の見守りの人たちの役割が期待されていますが、その人たちが医療や介護チームとの情報共有ができているかというとまだまだだと思います。身近に暮らす住民の中で、日々見守りが必要な患者さんの状況を知るような人が、その情報を医療や介護チームにつなげる仕組みが重要で、それをAIで分析していくことが可能と思います。

 地域の見守りというと、無報酬のボランティアをイメージする人が多いと思いますが、有償ボランティアでもいいです。理想は、有償と無償の組み合わせだと思います。独居高齢者が増えていく中、無償で見守りをしてもらうには無理があると思います。

 

<アピタル:医療の実践型リーダーシップ・これからの医療>

http://www.asahi.com/apital/column/innovator/(アピタル・武藤真祐)

アピタル・武藤真祐

アピタル・武藤真祐(むとう・しんすけ) 医療法人社団鉄祐会祐ホームクリニック理事長

2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。三井記念病院などにて循環器内科、救急医療に従事後、宮内庁で侍医を務める。その後マッキンゼーを経て、2010年医療法人社団鉄祐会を設立。2015年、シンガポールで「Tetsuyu Home Care」を設立し、同年8月よりサービス開始した。現在、東京医科歯科大学医学部臨床教授、厚生労働省情報政策参与も務める。INSEAD Executive MBA。