[PR]

 透析患者を30人も抱えれば、病院経営は安泰ですよ……。そんな本音を、医療関係者から聞きました。「在宅医療」をテーマにした今回のシリーズ。自宅でできる「腹膜透析」を取りあげましたが、英国や韓国などの外国と比べると利用する患者は少数。日本の人工透析の主流は、病院で受ける「血液透析」です。

 腎臓はとても大切な臓器で、きちんと機能しないと体内に毒素がたまり、死に至ります。医学が未発達の時代には、腎不全は命を奪う恐ろしい病気でした。血液透析が日本で普及したのは、だれもが安心して血液透析を受けられる社会を求めて、昔の患者や医療関係者が施設の充実に取り組んだ成果でもあるでしょう。

 ただ、その負の側面も表れているようです。全国腎臓病協議会によると、1人の血液透析患者には年間500万円の費用がかかりますが、医療保険の「高額医療費の特例」や自立支援医療、地方自治体の障害者医療費助成制度による給付で、患者負担はほとんどゼロ。「だからなのか、日本では腎不全の予防に力が注がれません」と、先の医療関係者は言います。

 

 折しも昨年9月、元フジテレビの長谷川豊アナウンサーが「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」とツイートして、批判されました。透析患者のさまざまな立場や背景を無視した暴論です。さらには、日本の人工透析の問題点を冷静に議論することまでタブー視される雰囲気になったようにも感じ、残念です。

 

 今回取材した福岡県田川市の吉田秀文さんは、がんで両方の腎臓を失いました。透析患者は水分や塩分の摂取が厳しく制限されるなど、自己管理が求められます。吉田さんは生活規則を徹底して守る「模範的な透析患者」でした。その心を支えているのは「自分は、だらしない患者にはならないぞ!」という強い決意です。10年続けた血液透析から、腹膜透析の併用へ移行したのは、「自分の人生は自分で決めたい」という願いからです。

 吉田さん自身も言います。「糖尿病になって後悔したり、自暴自棄になったりしないように、普段の生活指導こそ充実させるべきだ」。また、血液透析以外の選択肢があることも、もっと医療機関が積極的に情報発信してほしいを訴えます。

 

 主治医の大仲正太郎さんは、吉田さんの経緯を学会で発表しました。血液透析患者がQOL(生活の質)向上を目指して腹膜透析を選んだ貴重な事例だそうです。「導入には慎重を期す必要があるが、デメリットを理解したうえで腹膜透析を積極的に活用することは、血液透析患者の一つの道になりうる」と大仲さん。透析のあり方について考える機会になれば幸いです。

 

 ◇患者を生きる「腹膜透析」の全5回をまとめた【まとめて読む】を、明日掲載する予定です。こちらもご覧ください。

 

<アピタル:患者を生きる・我が家で>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(伊藤隆太郎)