[PR]

 東京都品川区のクリニックで複数のワクチンを混ぜて打っていたというニュースが先日、話題になっていました。そもそも定期予防接種が、実際はどのように実施されているか知っていますか?医師でも小児科医でないと、予防接種を打つときの細かな状況までは知らないことがあるようなので、今回は予防接種についてです。

 予防接種法によって、定期予防接種は市町村が実施し、その費用は市町村が負担すると決められています。定期予防接種とは、国が接種を受けるよう勧めているもので、昔からあるBCG(結核)、日本脳炎、麻疹(はしか)、風疹などに加え、最近は4種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)、肺炎球菌やインフルエンザ菌B型(ヒブ)、水痘(みずぼうそう)、B型肝炎のワクチンがあります。

 高齢者以外のインフルエンザ、ロタウイルスなどの任意接種に関しては受ける人の自費が原則で、市町村によっては全額あるいは一部の助成があります。このように市町村によって少しずつやり方が違うので、子どもが生まれると定期予防接種の予診票を一度に渡される自治体もありますし、受ける時期近くになると予診票が封筒に入って家庭に送られてくるところもあります。定期予防接種を受けられる医療機関のリストが付いていて、保護者はそれを見て自宅から近いとか、診療時間が都合に合うとか、予防接種専用時間があって病気の子と接することがないなどといったそれぞれの事情で、診療所や病院を選びます。

 診療所や病院では、受付の事務職員、看護師、医師といった複数の人が、受けに来たお子さんについて、いろいろ確認します。定期予防接種の対象月齢かどうか、前回受けたワクチンとの間隔は適切か、受け忘れがないか、その日の体温や健康状態は問題ないか、感染症患者との接触の有無、アレルギーや以前に副反応があったかなどです。この際に、母子健康手帳がないと十分な確認ができないので、忘れると受けられないところがほとんどです。

 続いて行われる注射薬などの用意は、医療機関のバックヤードで行われるため、実際に目にすることはあまりないと思います。ワクチンは適切な温度管理のもとで鍵のかかる冷蔵庫に保管する決まりです。例えば、お子さんが生後3ヶ月だとすると、定期予防接種の4種類、つまり4種混合ワクチン、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、B型肝炎、それに加えて任意接種のロタウイルスワクチンを受けるのが一般的です。このように、同じ日に複数のワクチンを受けることを同時接種と言います。

 

 ワクチンは、注射器に既に薬液が入っていてよく振って量を合わせるだけのもの、注射器に針をつけるだけのもの、粉末のワクチンを固めたものがバイアル(小瓶)に入っていて注射用水で溶解し注射器で吸うものがあります。4種類の注射を用意したら、保護者に受けるお子さんのフルネームを言ってもらい、各ワクチンの名前、量、有効期限を見せて確認します。ロタウイルスワクチンはシロップ状になっていて飲ませるもので、私は先にロタから行います。看護師が飲ませる小児科もあります。そして保護者と看護師で子どもを暴れないように抑え、医師が打つのが普通です。ワクチンを同じ腕、脚に打つときは1インチ(2.5-3.0cm)以上の距離を開けて打てば問題ないことがわかっています。太ももに注射する先生も多いですが、私は右上腕に2本、左上腕に2本打ちます。小さい乳児だと腕の長さが短いから、分けるのです。

 このとき、保護者の方は受けるワクチンの数と注射器の数が同じかどうか、ぜひ確かめてください。用意した予診票とワクチンは同じ数のはずです。先日、ニュースになっていた東京都品川区のクリニックは1つの注射器に複数のワクチンを混ぜていました。もちろん、経口ワクチンは混ぜていませんでしたが、4種混合とヒブワクチンを混ぜたり、1歳過ぎから受けるMRワクチンと水ぼうそうワクチン、おたふくかぜワクチンを混ぜたりして少なくとも358人に打っていました。何度も打つのがかわいそうだという理由のようですが、複数のバイアルの薬液をどのように溶解したり混ぜたりしたのかは不明です。注射を混ぜて作るのは手間なので、やはり善意からやったと思いますが、ワクチンを混ぜて打つのは正しいやり方ではありません。

 混合ワクチンというのは、初めから1つのバイアルや注射器に数種類のワクチンが入っている製剤です。4種混合ワクチンには、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオを予防する効果があります。MRワクチンは麻疹と風疹です。これは開発時からそれぞれの細菌やウイルスの抗原量、アジュバント(抗原性を高める物質)の種類や量を調整して作られています。それぞれ単独のワクチンが手もとにあったとしても、勝手に4種類を混ぜたものは4種混合ワクチンとは呼びません。違う種類のワクチンを混ぜて打つことがとても危険だというわけではありませんが、効果や安全性が確認されていないのです。品川区の事例でも、それ以前にあった北区の事例でも健康被害は出ていないものの、効果はやはり十分ではないようです。北区の例では、医師が勝手に混ぜて作った麻疹・風疹・おたふくかぜ・水ぼうそうワクチンを打たれた子どもには、十分な抗体がつかなかったという子が多くいました。

 厚生労働省、市町村、医師、看護師、製薬会社が慎重に慎重を重ね、決まり通りに予防接種を行っているのは、過去の苦い経験やワクチンの効果や安全性に不安を抱いている人たちの厳しい目があるからです。例えば1993年に、MMRワクチンは無菌性髄膜炎の副反応が多数報告されて中止になりました。承認された当初に無菌性髄膜炎の発生はごく少ない確率だと予想されていましが、実際にはずっと高確率だったのです。国は訴えられて敗訴しました。また、1998年には、イギリスのウェイクフィールド氏がMMRワクチンが自閉症を引き起こすという論文を発表しました。後に捏造が発覚して取り下げられ、保存料として入っているチメロサールが自閉症の原因だという説も現在は否定されていますが、依然としてワクチンに不信感を持つ人はいます。また、ワクチンではありませんが以前、乳幼児期に抗菌薬や解熱剤などを筋肉注射する際、その部位が良くなかったことから大腿四頭筋拘縮症になったという事例もあります。こういったことがあるので、予防接種は安全が確認された方法以外で受けるのはよくないのです。

 北区や品川区の事例では、医師が「ワクチンを混ぜて打っても大丈夫だし、痛いのはかわいそうだから」と説明したらしいのですが、保護者が聞いたらそういうものだと思ってしまうかもしれません。母子手帳やワクチンの本にも、基本的過ぎて混ぜて打ってはいけないと書いてないからです。ぜひ、この機会に「ワクチンは混ぜて打ってはいけない」ということを知ってください。せっかく痛い思いをして注射を受けたのに、抗体が上がらなければお子さんはかわいそうです。もしも疑問を感じたら、それを医師に伝えましょう。予診票が4種混合とヒブの2種類なのに注射器が1つだったら「本当に混ぜて1本にしていいのか不安です。保健所に確認の電話をさせてください」と退室してもいいのです。

 

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在は一般病院の小児科に勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。